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何故、妹は姉をざまぁするに至ったか⑤

 私は八歳になった。お姉様は十歳。

 お姉様は相変わらずおかしいままで、元のようには戻らなかった。



 私はお姉様にずっと、戻って欲しいと望んでた。私の事をもっとちゃんと見てほしいと。

 私を……見てない。

 私自身を見ていない。イエルノ・カプラッドという別の何かを見ている。




 デル兄様に対しては、私とはまた違う対応をしているみたい。あんまりデル兄様と接触は出来ていないから詳しくは分からないけれど、一緒に同席した時とかの事を思えばやっぱりなんだか違和感だらけ。だっておかしいもの。




 デル兄様の事はどこか特別扱いをしているように見えたけれど、何だかそれもおかしかった。お姉様はデル兄様に変な態度を取っている。デル兄様の事も、ちゃんと見ていないように見えた。だからデル兄様は二年前から悲しそうだ。デル兄様はお姉様の事を大切にしていたのに。デル兄様はお姉様の事をきちんと見ているのに。私と同じように、デル兄様がこの二年、お姉様のために心を砕いていた事を知っている。沢山お手紙が届いていた。プレゼントも。デル兄様は第二王子とはいえ、王族で、王太子であるダルデ様を支える存在として忙しいのだ。そんな中でもお姉様の事を気にかけている。それなのに、お姉様はデル兄様に同じような事を返さない。




 お姉様は何だかおかしくて、相変わらず何かを一心に書いている。私はそのノートを見たくて一瞬だけ見る事が出来た時があったけれど、見えた文字は私の知らない何かだった。それが文字だという事は理解出来たけれども、それが色々な文字を学んでいた私でも分からない文字だった。そんな文字を私と変わらないような教育を受けているお姉様が知っている事が分からなかった。お父様にさりげなく聞いたけれども、お父様も知らない何かだった。



 やはり、お姉様はおかしい。

 その何かを知る事が出来れば、私はお姉様の真実に近づいていけるのではないかと私は思った。少しでもお姉様を知る事。それが、私の事をお姉様が見るようにつながると思うから。私は私を、お姉様に見てほしいから。





 そんな風に決意していた頃、私に婚約者が出来るという話になった。










 私もカプラッド公爵家の娘であるのだから、婚約者が出来るのも当然の話だった。お姉様は私の年齢の時にはもうデル兄様と婚約を結んでいた。私は二年前まで、お姉様とデル兄様の仲の良さを見て、とても憧れていた。政略結婚でも仲良さそうな二人が大好きだなって思ってた。

 でも今はお姉様が変わってしまって、デル兄様が必死でも、お姉様はデル兄様を見なくて――、何か別の何かを見ているから。そういうのを見ていると、私は婚約者と心から仲良くならなくてもいいかなって思った。私が婚約者の事を好きだと思ったとして、お姉様のように突然変わることもあるのではないかって、思ってしまったから。思ったよりもお姉様が変わった事は私に精神的な影響を与えていることに私は気づいて、少し自分に驚いた。





 一先ず、婚約者とはそれなりに仲良くする。そしてお姉様がもとに戻るために利用する。そう考えるほどに、私の世界はお姉様やデル兄様しかいなかった。まだ八歳の私は外に出た事もあまりなく、お姉様をどうにか前のようにしたい、私を見てほしいってばかり思っていた。

 のだけど……私は婚約者を前にした時、どうしてか心を奪われてしまった。





「――僕は、ウーログ・カイドィシェフ。カイドィシェフ侯爵家の長男です。よろしく」



 そう言ってにこやかに笑う彼は、とても大人びているように見えた。茶色のふわりとした髪を持つ、可愛いと形容できるような少年。優しく笑っている彼の笑みに、鼓動がなった。

 私は胸を高鳴らせている。




「……私は、イエルノ・カプラッドです。よろしくお願いします」

「同じ年でしょ? イエルノって呼んでいいかな? もっと砕けた口調だと僕嬉しいな」

「……ええ。私も、ウーログと呼んでいい?」

「もちろん」




 満面の笑みを零すウーログはなぜか、最初から私に対する好感度がとても高いようだった。それがなぜなのか分からない。だけど、彼は私の事をにこにこと、心からの笑みで見ている。”私”自身を見つめている。そのように思えた。会ったばかりなのに、なぜかそんな風に。



 それにその優しい笑みに、私は惹かれていた。

 一目ぼれ、というものなのかもしれない。お姉様を戻すために利用しようと思っていたのに、何でだろうかと思うのだけど、私は確かに惹かれてしまっていたのだった。


 

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