何故、妹は姉をざまぁするに至ったか54
「イエルノ様は本当にアクノール様が大好きなのですね」
ヒーナがざまぁへと参加することになってから、私との距離も縮まった。……私がざまぁに参加するヒーナへの仲間意識が強くなったからだろう。
だからこそ私は……少しだけポツリポツリとお姉様に関する本音を、私は口にしてしまっていた。
ウーログは、私がヒーナにそういう本音を溢していたのをちょっとだけ面白くなさそうにしていた。今まで私が、そういう本音を口にしていたのが乙女げぇむの世界を知っているウーログにだけだったからだろう。
でも私が……ヒーナとウーログは別だって言って、ちょっと恥ずかしいけれど、ウーログへの気持ちを口にしたらウーログは機嫌を直してくれた。前世の記憶があるウーログは私よりも大人なはずなのに……そういう所は年相応で、思わず笑ってしまった。
「……私はお姉様が好きだけど、嫌いだわ。そう何度もヒーナに言っているでしょう。だから純粋に姉を思っている妹というわけではないわ」
「それでもイエルノ様がアクノール様が好きなのは変わりません。それに嫌いの反対は好きだと言いますよね。イエルノ様が本当にアクノール様のことをどうでもいいと思っていたのならば、こんなに心を砕かないでしょう。イエルノ様がアクノール様を慕っているからこそ、これだけ時間をかけて、多くの人を巻き込んで、アクノール様の目を覚まさせようとしている。
私は……そういうイエルノ様の一生懸命なところが、人間らしくていいなぁって思います」
ヒーナとのお茶会は、ヒーナがざまぁに参加する事が決まってからも続けられている。ヒーナは私のお姉様に対する、決して純粋でもない思いを知っても笑っている。
「――人間らしい?」
「はい。そうです。だってイエルノ様だけではないですけど、貴族の方々って一見すると冷たいように感じるというか……私たちとは別の存在のように感じます。私は今は貴族だけど、平民として生きていた頃は……貴族の人たちって私たちと違う存在なんだろうなって思ってました。でもいざ、学園に入るとその認識が違うんだなって。平民と貴族っていうのは、身分差もあるし、ある意味違う存在ですけど――それでも同じ人間なんだなというのが分かりました。
イエルノ様のアクノール様への思いは、なんだろう、平民でも共感できるような……大好きな家族にもっと自分を見てほしいっていうそういう気持ちです。そして貴族らしくあるというのならば、アクノール様のように自分の世界に入っている人を見放すべきだっていう考えじゃないかなって。そういう貴族ももちろんいると思うのです。だけれど――イエルノ様はアクノール様を決して見放してはないですよね。どうでしてもアクノール様を見捨てずに、アクノール様の事をどうにかしようとしています」
ヒーナはそう言って優しい笑みを浮かべている。ああ、もうなんだかそんな慈しむような目で見られると恥ずかしい気持ちになる。だけど心地よい気持ちも感じるのは、やっぱり相手がヒーナだからなのだろうか。
「人によっては、イエルノ様の事を冷たいという人もいるかもしれません。だけど、私はイエルノ様のアクノール様への思いは優しさで、そして愛情があるからこそだと思います。
イエルノ様のどうしても、何が何でもアクノール様の事を諦めたくないという思いがとても人間らしくて……それがいいなぁって。
イエルノ様がそう言う方だから皆、イエルノ様の力になりたいと思うのだと思います。もちろん、私も……」
ヒーナはそんなことを言う。
ヒーナには、お姉様が一番ショックを受ける形で、デル兄様が婚約解消を申し出ることを伝えてある。私が何をするかもわかっているのに、それを全部受け入れた上で笑っているヒーナは、やっぱりすべてを受け入れるような優しさを持っている主人公なのだと思った。
「イエルノ様、私はイエルノ様の事が大好きです。だからイエルノ様のアクノール様への催しを全力で応援して、全力で協力しますから」
「ありがとう。ヒーナ」
「ふふ、こんな変わった催ししたことないからちょっとだけ不思議な気分です。でも楽しみでもあります。催しの中身自体は人によっては悪趣味だって言うかもしれませんけど、この催しは未来へとつながるものですから。アクノール様のための催しですから」
楽しそうに微笑むヒーナ。
そう、卒業式で行うざまぁは、私のためでもなく、デル兄様のためでもなく……一番はお姉様のためのざまぁなのだ。
お姉様を乙女げぇむの”アクノール・カプラッド”という呪縛から解き放つためのものだ。
お姉様が、大好きで、大嫌いだから。
だからこその催しの事を、ヒーナが否定せず、理解してくれることが嬉しかった。
「ええ。これは、お姉様のための催しよ。もちろん、私のお姉様を見てほしいって気持ちは強いし、そのために私は行動しているけれど――、それでも一番はお姉様のための催しよ。この催しで終わりではないの。お姉様の未来のための催しだもの」
私の人生もお姉様の人生も、ざまぁが終わっても終わらない。
だからこそ、これはお姉様の未来のための催しだ。
その催しの日は、もう近づいている。




