何故、妹は姉をざまぁするに至ったか④
デル兄様に会っても、お姉様はおかしかった。お姉様は私を見ていない。デル兄様の事も見ていない。今まで、ちゃんと私達の事を見ていてくれていたはずなのに、今はもう見てくれていない。
私はデル兄様ならお姉様の事を元に戻してくれるのではないかと期待していたのに。お姉様の様子は益々変になった。
お姉様はデル兄様が帰った後もおかしかった。
お姉様は部屋にこもって、何かを一心に書いているというのが侍女から聞いた話だ。お姉様の部屋をちらりとのぞいたら確かに机で何かを書いていた。でも……なんかやっぱりおかしいの。お姉様は。いつも背をきっちり伸ばしていた、姿勢が正しかったお姉様が腰を曲げて、何か悩んでいるような姿勢で何かを書いていた。
その書いている何かを見たら、お姉様が何を考えているかわかったりするんだろうか。お姉様が変わってしまった原因も分かるのだろうか。
私はそれを知りたい。
お姉様に私を見てほしい。ちゃんと、私自身を見てほしい。
それにデル兄様だって、あんな風な態度だと嫌になっちゃうと思う。
そう考えると、もっと色々お姉様がどうして変わってしまったかとか調べてからデル兄様に相談してみたい。ただ、お姉様の婚約者であるデル兄様と個人的に手紙のやりとりとかするのは色々問題がある可能性もある。もうちょっと考えてみないと。
「お父様」
「……ああ、イエルノか」
お父様は公爵家当主としての仕事はきちんとしているけれど、まだお母様が亡くなったことでいつも上の空だ。
お父様は男の人に使う言葉ではないかもしれないけれど、凄く綺麗な人だ。
赤い髪を持っていて、見た目よりも若く見える。……お母様が亡くなったことで、再婚相手を紹介されているらしいっていうの、使用人が言っていたの聞いた。亡くなってそんなに経っていないのにそういう話が来るのは、特にこの家に男の子が居ないからだろう。
女児で家を継ぐ人ってあんまりいないって聞いている。
婿を取って継いだりはするかもしれない。実際、今の所の予定だとデル兄様を婿に迎えて家を継いでもらうのはどうかという話にはなっているらしい。ただ、男児がいないから~という理由で次の奥さんをお父様は進められている。
そのことでお父様が悩んでいるのも知っている。
……私やお姉様がまだ幼いから、だからこそ、新しい奥さんを迎えるべきではないかという思考もちゃんとお父様は考えているらしい。
「お父様、お姉様が変だわ」
「……そうだなぁ。セアが亡くなってからアクノールも悲しんでいるのだろう」
「それとは、違う気がするわ」
「そうか? 確かに少し様子がおかしいかもしれないが、時間が解決してくれるだろう」
「……うん」
お父様はお姉様がおかしいのはお母様が亡くなったせいだと思っている。ちょっと違う気がする。悲しんでいるのとは違う気がするけれど……お父様は分からないみたい。……お母様の事、きっと誰よりも悲しんでいるからそこまで考えられないのかもしれない。
もう少し長い時間、お姉様がおかしければお父様にも分かってもらえるかもしれない。うん、そうだね、じゃあそれまでにお姉様がもとに戻る事を願おう。戻ったならば私はそれを喜んで受け入れる。
もし、戻らなかったら――、その時はその時に考えよう。
それまでに、戻ったとしても戻らなかったとしても役に立つだろうからお姉様が何をどう考えておかしくなってしまったのか、それを知っておきたい。
お姉様の事を観察しよう。
――そして沢山の情報を集めよう。
お姉様に私を見てもらえる努力をしよう。
――今のお姉様は私を見ていないから。
お姉様、私の大好きなお姉様。変わってしまったお姉様。――私はお姉様に私をちゃんと見てほしい。ちゃんと、私を認識してほしい。
だから頑張るの。
私は六歳の時、それを決意した。
でも二年経ってもお姉様はそのままだった。
お姉様は私を相変わらず見ていない。私がどれだけ、話しかけても、何か別の何かを見ている。私という存在をどこかどうでもいいと思っているような態度。
デル兄様にはまた違う態度みたい。変な態度。だけど、私よりも、デル兄様の事は気にしている。だけど、見ていない。
お姉様がおかしくなって二年経った私が八歳になった年は二つの大きな出来事が起こっていた。