何故、妹は姉をざまぁするに至ったか㊽
デル兄様がどんなふうにヒーナに惚れていったのか。
どんなところを好きだと思ったのか。――そのあたりは完全にプライベートな情報なので、詳しくはデル兄様からは聞かなかった。
だけど、デル兄様はヒーナと心を通わせたいとは思っているらしい。デル兄様は王太子というわけでもないし、既にお姉様との婚約解消を進めているのもあり、それが終わった後ならばデル兄様が誰と心を通わせようがそれは自由である。
ヒーナの家の伯爵家も力のある伯爵家であるしね。
「――アクノールとの婚約を解消してからヒーナに告白をしようと思うんだ」
お姉様との婚約は、デル兄様の枷である。
デル兄様はお姉様と婚約解消を行えば、そんなことを気にせずにヒーナに接近が出来る。そう考えるとデル兄様に対して申し訳ない気持ちになった。
「……ごめんなさい。デル兄様。私が、卒業式にお姉様に催しをしたいって言ったからですね。デル兄様が今すぐ婚約解消をしないのって」
デル兄様には、乙女げぇむの事は言っていない。この世界が、そういう空想の世界と一緒だなんてそういうことは伝えていない。
乙女げぇむのエンディングをちゃんと迎えさせる。そこでざまぁを決行する。
私が卒業式でざまぁをすると言ったのを、理由も聞かずにデル兄様は了承してくれた。
それでも私が卒業式でざまぁをしたいからという理由で、デル兄様に枷をつけてしまっているのではないかと……そんな気持ちに苛まれた。私は今すぐでもお姉様と婚約解消してヒーナに思いを告げてくださいというべきかもしれないという気持ちと、きちんとエンディングを迎えてざまぁをしないとお姉様は私を見てくれないのではないかという気持ちがせめぎあっていた。
此処でデル兄様のためを思って言葉をかけられない私自身に、嫌な気持ちにもなる。
「大丈夫だよ。僕はアクノールのこともやっぱり大切だから。アクノールの事を一番見てきたイエルノが卒業式でその催しをするのが一番良いと思っているんだろう? 何、たった一年ぐらいだ。気にしなくていいさ。それに可愛い妹分の頼みは聞きたいから」
デル兄様は、優しい。
私の事を本当の妹のようにかわいがってくれていて、だからこそ卒業式でざまぁをしたいという私の我儘を聞いてくれている。
優しいデル兄様は、お姉様と婚約解消をすることを決めても、やはりお姉様のことを気にかけてくれている。例え、そこに将来夫婦になる婚約者という関係がなかったとしても、デル兄様はお姉様を大切にしてくれている。
……どうしてお姉様はそういうデル兄様の気持ちに気づかないのだろうか。ただ乙女げぇむの世界の事を信じ切っていて、それ以外の事を見なくて――、デル兄様がお姉様に酷いことをするかもしれないなんて思い込んで。
お姉様さえ、ちゃんと周りを見たら――、すぐにわかることなのに。
「ありがとうございます。デル兄様。……お姉様はこのまま周りのことなど、欠片も見ないでしょう。お姉様は誰の言葉も聞かずに、ただ信じているだけです。だからこそ、催しをしてお姉様に衝撃を与えて……、私たちの事を見てもらう必要があります。それでも駄目だったら……どうしようもないですけど。私は来年行う催しで、お姉様が周りをちゃんと見てくれることを信じています」
――考えたくないけれど、私がざまぁをしてもお姉様は周りを見ない可能性も十分にある。それでも乙女げぇむの世界が終われば、流石にその世界にだけ縋ることはお姉様は出来ないはずだ。お姉様は……卒業式という乙女げぇむの世界が終わる時だからこそ、私のことも見てくれるはず……。
「そうだね。僕も……アクノールが昔のように周りを見ることを願っているよ。僕とアクノールの婚約は解消されるけれど、それでもアクノールは僕にとって大切な幼馴染だから」
「デル兄様……。なんとしても、催しを成功させましょうね」
「もちろんだよ。そのために僕もイエルノも頑張ってきたんだから」
――お姉様を、取り戻すために。
――お姉様に、私を見てもらうために。
本当にそれだけの願望で私は此処までやってきた。
あと一年。
長かった、お姉様をざまぁする日がもうすぐやってくる。
それを思うと不思議な気持ちにさえなる。……お姉様は、乙女げぇむの”イエルノ・カプラッド”じゃなくて、”私”を見てくれるだろうか。昔のように、私の目を見て、私に笑いかけてくれるだろうか。
いえ、そんな笑いかけてくれるだろうか、と悩むだけ無駄だわ。
くれるだろうかではなく、現実をとことん見てもらって笑いかけさせる。そのくらいの意気込みで挑まないと。
……それにしてもデル兄様がヒーナに恋をしたことは分かったけれど、ヒーナの方はどうなのかしら。
デル兄様が恋をしたとしても、ヒーナがデル兄様を好きになっているかは分からないものね。
デル兄様はヒーナが他に好きな人がいるならば引き下がるだろうけれど……。
お姉様へのざまぁには、ヒーナが協力をしてくれた方が効果的なのは分かっているけれど、ヒーナを巻き込みたくない気持ちも強いからそのあたりだけどんなふうにしていくか悩んでしまう。ヒーナの協力なしでも十分なざまぁになるようにはしているけれど……。




