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何故、妹は姉をざまぁするに至ったか㊼

 ヒーナとデル兄様は接近しているらしい。とはいえ、そこは友人としてである。互いにどう思っているかは定かではないけれども、それでも接する時は二人きりなんてこともなく、ヒーナの友人である女子生徒やデル兄様の友人であるマジェック様たちも一緒にいる時だけらしい。




 ヒーナはお姉様からよく分からない態度をされているのだ。ヒーナを乙女げぇむの主人公だと思い込んでいるからこそのお姉様の言葉は、実際のヒーナとは全く違うのに。

 それでもお姉様は……ヒーナの事をそういう風にしか見ていない。そういう風だからこそ、デル兄様はヒーナの事を気に掛けたのだ。デル兄様は優しいから。自分の婚約者がそういう態度をしているというのは、デル兄様にとって詫びなければならないことだったのだ。



 ――私が、お姉様がごめんなさいとヒーナに口にしたように。

 デル兄様も、アクノールがごめん。と口にしていたらしい。




 このことはヒーナ本人から聞いた。




 ……お姉様は、私やデル兄様がそんな風にしていることなんて知らない。私たちが周りに根回しをしていることも把握していない。あれだけおかしな様子のお姉様に「その態度はどうかと思う」と意見する者がいないわけではない。だけどお姉様はその言葉一つ聞きやしない。




 それだけ周りの態度が変わっても、何か言われても何一つお姉様が周りを見ないのは、やっぱりこの世界が乙女げぇむの世界である事を何一つ疑っていないからだろう。




 私がお姉様と二歳も離れていることがもどかしい。もう一学年上だったら高等部でしっかりお姉様の言動を確認出来たのに。来年、お姉様をざまぁする時には私も高等部に上がっているけれど……。

 ヒーナが学園に入ってからの一年はもうすぐ過ぎていく。この一年の間で、どれだけの人がお姉様の周りから去っただろうか。どれだけの人がお姉様の言動に目を見開いただろうか。……お父様は、お姉様を今すぐに家に引き戻した方がいいのではないかとも考えているようだった。




 でも私はお姉様にちゃんと見てもらうために卒業まで待ってほしいと頼んだ。貴族にとってこの学園を中退するというのは、評判に悪すぎる。卒業さえしていれば、それでいてお姉様が現実を見てくれるようになるのならば卒業後になんとか立ち直れる。





「イエルノ会長、紅茶をお持ちしました」

「ありがとう」




 私は中等部の生徒会長としての仕事をしながらも、ずっとお姉様のことばかり考えていた。幾ら私が学園に入学して、私の世界が広がったとしても、やっぱり私の脳内はお姉様の事が大半を占めている。





「イエルノ会長ももうすぐ中等部卒業ですね。寂しくなります」






 後輩の令嬢がそう言いながらしゅんとした表情をする。こんな風に慕われるとやっぱり嬉しい。私は「また来年も会えるでしょう」と口にして笑った。

 私ももうすぐ中等部を卒業する。――でも私が卒業することも、乙女げぇむの世界に夢中なお姉様にとっては、どうでもいいことなのだろう。お父様は来てくれると言っていたけれど、お姉様はそんなことを欠片も口にしない。



 お姉様は、私が中等部を卒業しようが、高等部に進学しようが、本当にどうでもいいのだ。

 そう考えると持っていた羽ペンに力がこもる。思わずピキッと音がなり、慌てて自分の気持ちを静める。




「イエルノ会長……、どうしました?」

「なんでもないわ。それより私が卒業したら生徒会の事、よろしくね」

「はい。もちろんです。イエルノ会長に恥じないように頑張ります」





 そう言って後輩令嬢は、目をキラキラさせるのだった。







 

 

 私は生徒会の仕事を終えると、学園内にある談話室に顔を出した。







 そこで私はお姉様についている侍女と待ち合わせをしていた。珍しくデル兄様も居た。デル兄様とは時々あっているけれど、婚約者の居る者同士、下手な噂が立たないように時々しかこうして会うことはなかった。




「デル兄様、ごきげんよう」



 淑女の礼を取って、デル兄様に笑いかける。デル兄様も笑う。




「デル兄様、来年の準備は着々と進めてます。デル兄様の方の進捗は?」

「僕の方も進んでいるよ。このまま何も起こらなければ……決行されるだろうね」





 そう言うデル兄様が少し悲しそうなのは、やっぱりお姉様が現実を見てくれることを期待しているからだと思う。私だって、お姉様が私をちゃんと見てくれるなら、長い間準備してきたざまぁだって無駄になったってかまわない。

 けど、そんな未来はありえないだろう。限りなく可能性が低いと私もデル兄様もとっくに実感している。






「ところでイエルノ、ヒーナ嬢とは親しいんだって?」

「ええ。友人ですわ。デル兄様も最近、親しくしているのでしょう?」

「ああ。そうだな」




 デル兄様はそう口にして、柔らかく笑う。……ヒーナの事を考えているのだろうか。




「ヒーナは良い子ですからね。私もヒーナの事は大好きですわ」




 ヒーナの事が大好きだとこんな風に自然に語れるのは、やっぱり相手がデル兄様だからだろう。本人相手には恥ずかしくてこんなことなんて言えない。ウーログの前でもちょっと恥ずかしいかもしれない。でもデル兄様は、私にとって血が繋がらなくてもやっぱり”兄様”なのだ。



「――僕はさ、イエルノ」





 そしてその後、デル兄様が口にした言葉に私は驚いてしまった。

 ――デル兄様は、ヒーナに惚れてしまったらしい。




 


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