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何故、妹は姉をざまぁするに至ったか㊶

「イエルノ、最近はよく学園外に行っていると聞いているけど」

「ラス兄様……。今度学園に通う予定の方と交流を深めているの」

「そうなのか」

「ラス兄様は、疲れてる?」



 私はラス兄様と話している。



 ラス兄様は、学園内でも人気者の一人である。学年が違うからたまにしか会うことはない。

 だけど私とラス兄様の関係は、それなりに良好だと思う。それにしても主人公であるヒーナのお相手候補というのは、誰も彼も見目麗しい人が多いものだと改めて実感する。



 ヒーナ自身は、身分の高い王侯貴族と恋をするなんて今は考えていないように思える。

 一人の少女が、何人もの異性と恋をする――それだけ聞くと、恋に溺れているような移り気の激しい方に聞こえてしまう。だけどヒーナはそういう子ではない。

 乙女げぇむの世界でヒーナがどういう子だったかは分からないけれど、少なくとも現実のヒーナは同性である私にとっても好感が持てる女性だ。




「……アクノールが、よく俺に話しかけてくるんだ。何だか高等部に上がってから余計によく分からなくなった」



 お姉様は私に関わってくることはない。――あくまで私はお姉様にとって脇役でしかないから。だけれどもラス兄様は、お姉様にとってみればいうなれば主要人物だ。

 だからこそ、機会があれば話しかけようとしているのだろう。



 お姉様は高等部に入学し、その影響で益々様子がおかしくなっているのだ。お姉様はヒーナのことを恐れている。ヒーナが現れることでざまぁされることを考えている。

 ……そのことしか考えていないから、お姉様はラス兄様に警戒されているのだ。




 ヒーナはラス兄様にも好かれたりするのだろうか。複数の異性とそういう関係になるのは、はしたない行為だが、ヒーナが誰か一人とそういう関係になるのならば、それはそれで応援しよう。もちろん、婚約者がいる相手だと色々と手続きもいるだろうけど。

 別に婚約者同士が必ずしも結婚するわけでもない。何かしらの要因が婚約破棄をもたらすこともある。まぁ、大体は婚約者同士で結婚するけど。今はまだ結婚も考えていないヒーナが学園で異性とそういう関係になるかどうかは分からないけれど、何か悩むことがあるのならば力になろう。




「そうなんだ……」

「ああ。最近昔よりもおかしい。……イエルノは何か動いているだろう」

「……うん、ちょっとね」




 ラス兄様との付き合いも長いから、私がそういう風に動いているのを分かっているのだろう。ラス兄様にはお姉様のことをすべて話しているわけではない。

 だけど、ラスあ兄様は私がお姉様のことを気にかけ、何か動いているのは分かっているのだ。




「……ねぇ、ラス兄様」

「どうした」

「来年になったら、もっと事態は動くと思うの。お姉様のことがどんどん動いていくの。だから……ラス兄様は気を付けてね」



 ヒーナのことは心配していない。ヒーナは学園に転入しても今のヒーナならば上手くやっていけるだろう。私だってヒーナの力になるもの。



 だけど、お姉様は……ヒーナの登場でどう動いていくのかが分からない。ヒーナが学園に現れて、もしかしたらお姉様は此処が現実だと、げぇむとは違うのだと分かってくれるのではないか――そう期待する心はあるけれど、その可能性は低い。



 お姉様は、きっとヒーナがお姉様の知る主人公とは違うとは信じないだろう。きっとヒーナのことを主人公だと思い込んで、勝手に暴走するだろう。……そんなお姉様を見たいわけでもない。




「……分かった。イエルノも気を付けて」

「私は大丈夫よ。お姉様は私のことは何も気にしていないもの」




 私は気を付けることはあまりない。何故ならお姉様は私のことを気にもしていないから。――私がヒーナと接触していることも、お姉様は考えもしていない。

 だって、私はお姉様にとってみればただの脇役で、その乙女げぇむには私は名前しかいないから。




「いや、だからって大丈夫ではないだろう。何かあれば俺にも言ってくれ。何が出来るかは分からないがちゃんと力になるから」

「ありがとう。ラス兄様」

 ――お姉様はもったいない。

 ラス兄様は、乙女げぇむの中の、お姉様の記憶の中のラス兄様よりもきっと素敵なのに。ちゃんと目を見て、きちんとその人を見たら、お姉様もこの世界が現実だってわかるだろうに。




 私はお姉様に現実を見てもらう。そして私という存在を見てもらって、ラス兄様たちのことだって、見てもらう。

 ――それが私のずっと昔からの願いだから。













「イエルノ様は、私に何か言いたいことがありますよね?」

「え」

「何か言いたいことがあるなら教えてほしいです」





 ……私は貴族として表に表情を出さないようにしていた。けれど、ヒーナは私から沢山のものを学んで、そして……、私の様子を見て何か思う所があったのだろう。

 私がヒーナに対して、特別な気持ちを感じていることが分かったのだろう。



 悪役令嬢であるお姉様よりも、主人公であるヒーナの方が、短期間で私のことをよく見てくれているなんて……と少し複雑な気持ちになった。




「……何でもないわ。いえ、ヒーナには言えないわ」




 なんでもないわと口にして、ヒーナにじっと見られ、私はヒーナには言えないと言いなおした。

 お姉様のことはヒーナには言えない。私がただお姉様に現実だと分かってもらいたいからと、ヒーナにそれを手伝うことを強要することなど出来ない。



「――わかりました。イエルノ様がそういうのならば、私はこれ以上聞きません。でもイエルノ様、イエルノ様が困っているのならば、私は力になりますからね。ちゃんと言ってくださいね。それに私は勝手にイエルノ様を助けますから」



 ヒーナは真っ直ぐだ。

 まるで太陽のように明るく、周りを照らすような存在だ。

 そのことをヒーナと過ごせば過ごすほど実感するのだった。









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