何故、妹は姉をざまぁするに至ったか㉘
お姉様が学園に入学してから、初めての長期休みがやってきた。
デル兄様からの手紙は何度か来た。だけど、お姉様からの手紙は一度としてこなかった。お姉様からしてみれば、私と言う存在はげぇむの世界では取るに取らない存在でしかないのだ。それを思うと少しだけ心が痛んだ。どうして、私の事をお姉様はそんな風にしか見ないのだろうか。
学園という新しい世界に飛び出してもなお、お姉様にとってこの世界はげぇむでしかないのだろうか。広い世界に飛び出して、此処が現実で、私がちゃんと生きて生きる人間だって、どうして理解してくれないのか。
ちなみにお姉様はラス兄様とお父様には手紙をしたためていた。それはやはり、攻略対象と自分を勘当する父親だからだろうか。ラス兄様は私にお姉様からの手紙が届いていないことを知っていたからこそ、最初、お姉様からの手紙が届いたことを言わなかった。私が傷つくと思ったかららしい。でも私は、それを知った時、やっぱりと思った。
ああ、お姉様はやっぱり、何も見えていないのだと。
ラス兄様への手紙を私は見せてもらったけれども、それもどちらかと言うと的外れなものばかりだった。
ラス兄様自身を見ていないからこそ出てくる言葉が並んでいた。お父様の手紙には当たり障りのない事が書かれていたそうだ。……本当に、お姉様は何も見ていないのだ。
お姉様がもうすぐ帰ってくる。
忙しいお父様はお姉様と話をしてくれると言っていた。それでお姉様が、ちゃんと私を見てくれたらいい。そんな希望を抱くけど、事はそんなに簡単ではないことも知っている。お姉様がそんなに簡単に変わってくれるような人ならば、私は此処まで何年もお姉様に見てほしいって苦しんだりなんてしないから……。
学園からこちらに戻ってきたお姉様は、美しさに磨きがかかっていた。お姉様は、大人になればさぞ美しく成長するだろう。今は大人になって行っている途中だ。
お姉様は学園でもその美しさで周りを魅了しているらしい。近くにいる人たちはお姉様がこちらを見ていないことに気づけるけれど、遠くから見ている人たちはお姉様のおかしさに気づけない。だからお姉様は学園で高嶺の花のように憧れられているらしい。
表面上は完璧で心優しい公爵令嬢。
だからデル兄様は一部にはあんな婚約者を持ってうらやましいと言われるらしい。……近づかなければ、お姉様がおかしい事実には気づけない。
お姉様は帰宅してすぐで疲れているからということで、その日、お父様がお姉様に話をすることはなかった。
翌日になって、お父様はお姉様を呼び出した。
私は今、お父様の執務室の近くでドキドキしながらどうなるのだろうかと待っている。その隣には、ウーログがいる。ウーログは私が不安がっているのを知って屋敷にやってきてくれた。
お姉様はお父様の言葉にどうなるのだろうか、それが気になっている私にとってウーログが隣にいてくれるということはとても心強い事だった。
ちなみに以前、私がここはげぇむではないと言った時にお姉様があれだけおかしな様子になってしまったことを考慮して、人払いを済ませてある。
「……お姉様、どんな対応するかしら」
「一番悪いのは現実逃避してまた暴れることかな……。なかったことにして公爵の前でも暴れるのか……」
「……ええ。それもありえるわ」
私はウーログとそんな会話をしながら執務室の方をじっと見ていた。
そうすれば、声が聞こえた。お姉様の声、ああ、やっぱりと私は思った。お姉様が叫び声のようなものを上げてる。そしてそれがピタリとやんだ。
ああ、やっぱり。私は執務室をノックした。お父様から入っていいと許可をもらって入れば、倒れこんだお姉様と困惑したお父様と、この家に長く仕えている執事が見えた。
「……やっぱり、お姉様はお父様の言葉だって聞けないのね。お父様、お姉様は叫んで気絶されたのでしょう?」
「……ああ。アクノールはイエルノが言っているように少しおかしくなっているようだ。どうして、私は娘がこんなになるまで気づけなかったのか……」
「お父様のせいではありません。私だって……お姉様がこちらを全く見ていないから、見てほしくて行動してるのに全然上手くいきませんもの。そうだ、お姉様は恐らく目が覚めた時には全て忘れてしまうと思います。前に同じことが起こってましたから……」
私はそう言って、気絶しているお姉様を見る。やっぱり、お父様の話だってお姉様は聞かない。この世界をげぇむだと思っているから、信じ切っているから――げぇむではないと否定するような言葉や実感するものを見ようとしなくて、見せようとしたらこうなってしまう。本当に困ったお姉様だ。
だけど、お姉様が私を見てなくてもやっぱり私はお姉様が大好きで、嫌いになんてなれない。
「……お父様、お姉様はベッドに移動させましょう。その後、お姉様にどう接するべきかなど話し合いをしましょう。幸い、人前でこんな風にはなってませんが、何かの拍子にお姉様はこんな風に取り乱してしまうことがあるかもしれません。それは公爵令嬢としては問題です」
私がそういうと、お父様は神妙な顔をして頷いてくれた。




