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何故、妹は姉をざまぁするに至ったか㉑

 お姉様に冷たくして一年たった。お姉様は私が必要以上にお姉様に近づかなくても、全然気にしない。お姉様は自分から私に近づいてくることもない。

 なので私とお姉様の間に今は接点は全くない。そんな状況にも関わらずお姉様は私がお姉様を慕っていて、私がお姉様と仲が良いのだと信じている。



 お姉様は――そのげぇむの中での設定を絶対としているのか、やっぱりおかしくなったまま。現実の私の事なんて欠片も見ていなくて、それは悲しいけれど真実だった。



 デル兄様との間も、何だか変な感じになっている。デル兄様は第二王子として、王太子であるお兄様を支えるために勉強をしているのだ。そんなデル兄様は年を重ねるにつれ忙しくなっている。それでも時間を見つけてこちらにやってきているのに、お姉様は相変わらず何だか違うものを見ている。ウーログが言うには、そのげぇむのキャラクターとしてのデル兄様しか見ていないんじゃないかって言ってた。……ああ、もうお姉様はなんて馬鹿なんだろう。



 ここがその空想上の世界とか、そんなのより現実を見ればいいのに。ちゃんと私やデル兄様やラス兄様自身を見てくれたらいいのに。



 ウーログがこちらにやってきた時にお姉様に話しかけても、優しくはあったけれどあまりこちらを見ていない態度だったと言っていた。そのげぇむの中に出てこないウーログはどうでもいいようだったって。……私の婚約者にそんなどうでもいいって態度しないでほしい。ちゃんと見てくれたらいいのに。どうしてだろうか、と悲しくなる。



 私はそろそろ、距離をおいても何の反応も示さないお姉様に疲弊してしまって、『乙女げぇむではなく、現実を見てください』と言いに行こうかとウーログと話し合っていた。




 今、私は十歳、お姉様は十二歳。そのげぇむは、お姉様が十七歳の時に学園に転入生がやってきてからはじまるそうだ。そして終わりは卒業式を迎えた時。入学式から間もなくして転入してきた主人公が恋をしながら成長していく物語らしい。そんな風にお姉様のノートには書いてあったそうだ。

 ……もう来年にはお姉様は王侯貴族の多く通う学園の中等部に入学する。王都の学園にはこの家からも通えない事はないが、寮が完備されていて大体が寮に入るそうだ。お姉様もこの家から寮に行ってしまう。その前に出来たらお姉様をどうにかしたかった。でも、お姉様は此処が現実だって、気づいてくれないのだ。悲しい事に。



 そういえば、近いうちにデル兄様だけではなくデル兄様のご友人も来るらしい。来年から同じ学園に通うお姉様との顔合わせみたいなものだそうだ。私もそれに出席するようにと言われた。私が入るのは二年後だけど、先輩となる人達だからって。あとラス兄様も参加する事になっていた。




 どうやらそのやってくる二人のご友人は、げぇむの中の攻略対象らしい。ああ、お姉様がまた変な行動をしてくるかもしれない。そう思うとちょっと頭が痛くなってきた。デル兄様にただでさえ貴方を見ていないみたいな態度をしているのに、デル兄様のご友人にまでなんかよく分からない態度をしてしまいそうだ。




 そう思っていたら、案の定だった。




 デル兄様が連れてきたご友人は、一人が宰相様の次男であるマジェッグ・ウィングフィールドで、もう一人の方が騎士団長の三男のヴァレリー・オストロモ様だった。




 お二人とも顔立ちが整っていて、その乙女げぇむというものの攻略対象と言うのは本当にこれだけ顔立ちが整っているのだなと私は驚いた。デル兄様から何かしら話を聞いているのか、笑顔だったけれど何か考えるような感じだった。




 ……相変わらずお姉様は、彼らに対しても何か決めつけたような態度をしていた。笑顔を浮かべられて安心しているのかにこにこしているけれど。

 なんというか、お姉様が言っている言葉もお姉様自身の言葉に聞こえない。そう言えばいいのだろうと考えて発せられた言葉というか。……お姉様は、その大変な未来にならないために動いているのだとは思うけど、もっと自分の言葉で声を発したほうがきっといい事になるのに。




 私は何とか、彼らやお姉様に話しかけた。こういう場でまでもお姉様から距離を置くのはどうかと思ったから。一年もあまり話しかけてこなかった妹が話しかけてきたらもっと何か感じるだろうに、お姉様は本当に私が近づいてない事実も見ていないんだろうなぁと思った。




 ラス兄様は私が一生懸命話しかけるのを見て、私の方を見た。そしてお姉様が相変わらずな様子を見て小さくため息を吐いていた。

 デル兄様とマジェッグ様とヴァレリー様が帰宅する時間になって、デル兄様だけが私とラス兄様に話しかけてきた。お姉様がいないうちにだ。





「――アクノールは、やっぱり少しおかしいね」

「……デル兄様、ごめんなさい」

「どうして、イエルノが謝るんだい? イエルノにも、何だかまるで見てないみたいな態度をしているからイエルノ辛いだろう?」

「……ごめんなさい」




 デル兄様は、私の頭を撫でてくれた。でもごめんなさい、しか言えない。近くにいるのに。同じ家にいるのに。お姉様がもとに戻るように私は出来ないのだ。出来なかったのだ。……お姉様がどうしてこうなっているかもわかったのに、出来ないのだ。それが情けなくて、謝ってしまった。




 それからデル兄様は私を慰めるように「謝らないでいいよ。笑って」と言ってくれて、そのまま帰っていった。ラス兄様は私の手を引いてくれた。……お姉様は戻らないままだけど、血はつながらなくても兄のような存在が二人もいる事が心強かった。



 デル兄様だって傷ついているはずだ。お姉様が見ているようで見てなくて。同じ思いが帰ってこないのにお姉様に対してあれだけ優しくして。帰って来ないのに愛情を注いで。ああ、お姉様。もう、四年もデル兄様は悲しんでいるだよ。そう思うと胸が苦しかった。大好きな婚約者がおかしくなってデル兄様だってつらいはずだ。



 そう思ったから私はお姉様に直接乙女げぇむではないと告げに行くことにした。





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