何故、妹は姉をざまぁするに至ったか⑯
「……ごめんなさい、情けない所見せてしまったわ」
ずっとずっと、泣かないようにと思ってた。泣きたくないと思ってた。私は公爵家の娘だから。涙など見せずに、乗り切ろうと思ってた。
でも、流石にこんな予想外の事を知ってしまって、私は動揺してならなかった。
そのげぇむというものの中で、私という存在がお姉様にとってどうでもいいという事。その事実を知って悲しかった。お姉様にとって、この世界はその乙女げぇむの世界で、だからこそ私を見ないという事実。それを私は正しく理解してしまった。
思わず泣いてしまった事を、涙をぬぐってウーログに謝罪をする。
「ううん、ごめんね、イエルノ」
「……どうして、ウーログが謝るの?」
「暴きたくない真実を、暴いてしまったかなって思って……。ごめんね、僕、イエルノに泣いて欲しくないんだ。イエルノにとって、悲しい事を言ってしまってごめんね」
「謝らないで。私は……、貴方にお礼を告げたい。謝罪なんて求めてない。寧ろ、ありがとう」
ウーログは悲しそうな顔をして、私を見てる。私が悲しんでいるのが悲しいと、そんな目で。私のために、私の事を思ってそんな表情をしてくれる事が不謹慎だけど嬉しかった。私は、この人の事が好きだ。近づけば近づくほど、私はその気持ちを実感する。
ウーログが、私の事をちゃんと見ていてくれている事が心の底から嬉しかった。
「ウーログ、私のために悲しまないで。ウーログのおかげでお姉様がどうしておかしくなってしまったのか分かったもの。悲しいけど、どうして私の事を見ているようでまるで見ていない理由が分かったもの」
悲しい。その気持ちは確かだ。
でも――、お姉様がどうしてああなっているのか、それが知れたのは私にとっての大きな前進なんだ。どうしてもお姉様と昔のように笑いあいたいって、私の事を見てほしいって。そんな過去に縋っている私にとって、重要な情報だったんだ。
「ウーログ、私は、お姉様に、私の事を見てほしいの」
「うん」
「だから、あのね……そのために、手伝ってくれる? もしかしたら、予想外の事になったりするかもしれないけど。その……、私、ウーログ以外に、お姉様の事を相談できる人がいないの。お姉様が変になっているの、なるべく他に知られたくないの。知られてしまったら、お姉様が周りをちゃんと見た時に、その後大変だから……。我儘だってのは分かっているけど……」
「うんうん、大丈夫だよ。イエルノ。そんなに必死にならなくても、僕は君の味方をするよ。イエルノは、アクノール様がちゃんと生きていけるように傷をつけたくないんだよね?」
「うん……。だって、もしこんな風に前世の記憶があるとか、この世界をその、創作物の世界だと思っているとか、そういうのが知られてしまったらお姉様は頭のおかしい令嬢と認識されてしまうもの」
「うん。イエルノは優しい子だね」
ウーログの方を見れば、驚くぐらいにやさしい目でウーログは私を見ている。何だか、私のすべてを受け入れてくれるようなそんな穏やかな瞳。そんな瞳で見つめられたら、何だかドキドキしてきてしまった。
「私は、お姉様が大好きなの。今は、私の事を見てくれてないけど。でも私はお姉様が私にやさしくしてくれていた日々を覚えているの。お姉様は確かに今は私の事を見ていないけれど、ちゃんとお姉様なの。だからなるべくお姉様の名に傷をつける事なく、お姉様にちゃんとわかってもらいたい」
「うん。イエルノはアクノール様が大好きなんだね。じゃあ、作戦会議しようか」
「作戦会議?」
「そうそう。こういうのはちゃんと、作戦を練ってから行動したほうがいいからね。後先考えずに行動したら、取り返しのつかないことになる可能性があるからね」
ウーログはそう言って笑ってくれる。こんな風な態度をされたら、何だか甘えてしまいそうになる。というより、大分、もう枷が外れてしまって、甘えてしまっていると思う。
「うん……ありがとう、ウーログ」
「お礼はいらないよ。僕はイエルノが大切だから、力を貸したいと思っているだけだから。イエルノに好かれたいっていう下心ももちろんあるし」
「意味ないわ。……もう、好きだから」
ぼそっと言った言葉だったけれど、ウーログの耳にはしっかり届いたみたいで、ウーログが「僕も、イエルノの事、好きだよ」とにこにこと笑っていた。恥ずかしくなった。
「そ、そんなことより、お姉様に分かってもらうための作戦会議をするのでしょう」
ごまかすように慌てて、話題を変える。私が恥ずかしがっているのが分かっているのか、ウーログは相変わらず穏やかで、優しい笑みを浮かべて、私を見ていた。
そして、私とウーログによる作戦会議が始まった。




