何故、妹は姉をざまぁするに至ったか⑬
お姉様のあのノートの中身を確認する。――そしてそれをウーログに見てもらう。それは中々難しい事だといえた。何故なら、お姉様は昔よりノートを大事に持っている事が多くなった。焦っているかのように、そのノートを手に持っていたり、一心に何かを書いていたり。
お姉様は何を焦って、何を思っているのか。
私には分からない。お姉様は相変わらず私の事をみていない。なんだろう、ちゃんと認識していない? 普通の貴族の令嬢として、私は幸せに生きている――そんな風にしかお姉様は考えていないのだ。私の事に興味を持っていない。興味を持っていないからウーログとの仲なども聞かない。何故だか知らないけれど、私が当たり前のように婚約者とうまくいっているのを知っている? みたいな感じなのだ。お姉様のお得意の未来予知のような何か。よくわからない思い込み。その思い込み? 確信? 決めつけ? 何と言ったらいいか分からない何か。それがあるからお姉様は私を理解しているつもりになっていて、私ではない何かを見ている。
ラス兄様にも相変わらずの様子で、何だかラス兄様の言ってもいない事を知っていたりするらしい。ちょっとこわいってラス兄様が言っていた。デル兄様にもその調子のようで、デル兄様は自身を見ない姉様に対して疲れてしまったみたいだった。……この前屋敷に来た時に、ぽつりと私の方を見てそう言ってた。お姉様はそんなデル兄様の事もちゃんと見ていないのだ。見ていたら分かるのに。デル兄様を見ているようで、見ていないその瞳がデル兄様を傷つけている事を。デル兄様はお姉様に元のように、自身を見てほしいと願っていたのに。だけど、お姉様はみていないから。私にするような態度で……いえ、私とはちょっと違うか。ラス兄様にするような態度というか、なんだろう、ラス兄様の事を警戒している? デル兄様の事もよくわからない態度で。
なんだろう、私に対する無関心みたいなのとはちょっと違う。お姉様にとってある意味特別視? なんだか昨日ウーログから聞いた話を含めて、頭が混乱してきた。
お姉様が、その転生者というものだとしてもどうしてお姉様が私を見ていないのかが分からない。私の事を、ちゃんと見てくれたら、ちゃんと私達と向き合ってくれたのならば私はそれだけで満足するのに。
「――ラス兄様」
「……イエルノか」
ラス兄様は、出会ってから一年。ラス兄様は出会った頃より、私に笑いかけてくれるようになった。それにしてもラス兄様は出会った時から思っていたけれど、本当に綺麗。男の人にそんな事を言うのは失礼かもしれないけれど、綺麗だなと思う。
「なんだか、疲れていますか?」
「……アクノールに何だか、付きまとわれた。相変わらず対応に困る」
「お姉様がごめんなさい。……あの、ラス兄様。もしかしたらどうしてお姉様がああなってしまったか分かるかもしれないのです。だから、少し手伝ってもらえませんか。少しラス兄様が大変かもしれないんだけど」
私は意を決してラス兄様にそう言った。ラス兄様は私の言葉に考えたような素振りをした後、うなずいてくれた。
ラス兄様にやってもらうのは、お姉様を引き付けてもらう事。お姉様は昔よりノートを大事に持っていたりするから中々その中身を見るのが難しいのだ。
だからこそ、普段お姉様に近づこうとしないラス兄様がお姉様に近づこうとすれば、お姉様は食いつくだろうと思った。お姉様はラス兄様が私と仲よくしているのを見ると何とも言えない表情を浮かべている時があるもの。お姉様もラス兄様に近づきたいのならばもっと行動を改めればいいのにと思わなくもない。
お姉様が何を思っているか、ノートの内容をウーログに見せればわかるようになりそうだ。だからこそ、ノートの中身を見ることは必須だ。
ラス兄様は理由を聞かずに、私のお願いを聞いてくれた。
……ラス兄様がお姉様を遠出に誘うと、お姉様はにこやかに笑った。そして持ち歩いているノートの事を忘れたかのように無防備に部屋に置いて行った。そのため、私はそのノートをこっそりと手にした。近くの山に花園を見に出かけたのだ。しばらくかえってこない。というわけで私はその中身を写す作業をした。
そのままノートを持って行ったらお姉様はノートがないと取り乱してしまうだろうから。お姉様、前に見た時よりもずっと多くの内容をそのノートに書いていた。私は誰の助けも借りずにそのノートを写そうとしていたのだけど、私についている侍女達は私がお姉様のノートを写すっていう変な行動をしているのに、理由も聞かずに手伝ってくれた。
――イエルノ様が理由もなしにそんなことすると思いませんから。
って、そんなこと言われたら何だか泣きそうになってしまった。
それから、お姉様がかえってくるまでの間にどうにかノートの中身を写すことができた。
……私にはさっぱり分からないけれど、これをウーログに見せたらお姉様の事が分かるのだろう。




