何故、妹は姉をざまぁするに至ったか⑩
私はウーログの事が好きだとは思った。確かに好意は抱いている。だけれども、私はずっとこの好意がずっと続いていてくれるのか分からない。今は私に優しいウーログが、ずっと私に優しくしてくれるのか分からない。お姉様の事があって、私は恐れを感じている。同じ様な事が起こったらと、そう思うから本当の意味で近づきたくない、そんな風に思っている。
「イエルノ」
ウーログは、多分、私の事を色々と勘付いている。けれどもやっぱりいつだって優しい笑みを零している。私と同じ年にも関わらずウーログはいつだって私を受け入れてくれるようなそんな笑みを浮かべている。私はそれに安心をして仕方がない。
私が何も心の内を語らなければ、ウーログは私の側から離れていくだろうか。私だったら心の内を一切話そうとしない人が居れば、訝しむ。それが分かっている。分かっているのに、私はやっぱり躊躇う。お姉様の事は、誰かに話そうという気にやっぱりならないのだ。
「イエルノ」
優しく微笑む、ウーログは私にとって心の癒しであり、愛しさを感じる存在だった。けれどもきっと彼は、私から離れていく。いつか、離れていくかもしれない。お姉様の、ように。なら、今の幸せを私は満喫しよう。
だけど、でも―――、私がある時見ていたお姉様の書いていた謎の文字。あれをウーログの前で見せてしまった。
ウーログはそれを見て、驚いた顔をした。
私は、見た事のない文字だからだと思った。だってその文字は様々な事を貴族令嬢として学び続けている私でさえも見た事がないものだったから。この世の何処にもないような不思議な文字だった。なのに、ウーログは「日本……語?」と口を開いた。
まるで、その文字がなんなのか知っているとでもいうように。
その「日本語」というものを私は何のことかさっぱり分からないのに、ウーログは確かにその文字を、何語か理解していたのだ。
――ウーログは固まっていた。
お姉様が書きなぐった何かを写した、それを見て。
私は私で固まっていた。
どうして、お姉様が書きなぐった意味の分からない文字の事をウーログが知っているのかと。
「……どうして、イエルノが日本語を? イエルノも―――転生者?」
「転生者って、何なの? ウーログはこの文字を知っているの? 私には、この文字の意味が分からないの」
ウーログの問いかけに、私が逆に問い返せば、ウーログは益々狼狽した様子を見せた。こんなウーログを見たのは初めてだった。私はその、「日本語」という文字が私とウーログの関係を、私とお姉様の関係のように壊してしまうのではないかと、怖くなった。
だけど、知りたいとも思った。
その「日本語」というものがなんなのか。ウーログが口にしている「転生者」というものがなんなのか。それを知りたいと思った。知ってしまったら、もう戻れないかもしれない。理解してしまったら、私とウーログの関係性はこのままでいられるか分からないけれども、それでも知りたかった。
だから、私は口を開く。
「ねぇ、ウーログ。これが何か知っているなら、私は教えて欲しいわ。私にはお姉様が居るの。ウーログにはちゃんと話した事がないけれど、私より二つ上のお姉様が。そのお姉様がある時、おかしくなったの。変になってしまったの。私の大好きだったお姉様が———今までと変わってしまったの。私は……その理由が知りたい。お姉様が何を考えて、どうしてそういうことになってしまったのか。それを私は知りたいの。そして出来たら、昔のお姉様に戻って欲しいの。お姉様は、この文字のような何かを書いていたの。その文字の事が何か知れたら、私はお姉様が何故変わったのか知れると思うの。――だから、教えて欲しいの。この文字、今、ウーログが「日本語」と口にしたものがなんなのか、知りたいの。私は、お姉様がこのままなのは嫌なの」
私は、ウーログと出会ってから初めてこれだけ長文を喋ったと思う。こんなにも何かについて一気にしゃべる事なんてしてなかった。だから、こんなに一気に話した私の事を見て、貴族の令嬢としてはどうかと思うから、引かれるかもしれない。こんなこといって、ウーログはどう思うだろうか。
ウーログは私の言葉を聞いて、真っ直ぐに私を見てた。目をそらすこともなく、私が口にしていた言葉を一笑することもなく、ただ受け入れてくれている。ウーログはやっぱり、大人びている。
ウーログは、言った。
「ああ、イエルノのお姉さんが僕と同じ『転生者』なんだね。そっかぁ、ちょっと詳しく話してもらわないと推測とかは出来ないけど、そうだなぁ。まず、『転生者』の説明をしようか。僕は頭がおかしいってイエルノに思われるかもしれないけれど―――僕には、前世の記憶があるんだ」
そのような、信じられない言葉を。




