1話
北に位置する国家【シルヴァリア】
この国では対アースイーター兵器開発に力を入れている。
現在、既存の兵器の改良と共に、新型の人型兵器の開発を進めている。
「うむ、なかなかの完成度だな」
長髪の男が満足そうに頷く。
「はい!これなら実戦にも導入できると思います」
若い男が答える。
「ああ、あとはテストを行うだけだな」
「そのテストですが、ベルク博士は誰に任せようと思っていますか?余程の手練れでなければパイロットは務まらないと思いますが・・・」
不安そうな表情を浮かべる若い男に、ベルクと呼ばれた男が答える。
「安心しろ、既に考えてある。もうそろそろこの基地に着くころだろう、この三機のCFのパイロットがな」
コツ、コツと足音が響き、博士らのいる部屋の前で止まった。
「レイバート中尉以下二名入ります」
男の声とともに扉が開く。
「ああ、よくきてくれたな。紹介しよう、この三名が私の選んだテストパイロットだ」
「レイバートです。よろしく」
短髪、瘦躯の男が答える。
「俺はエリック。階級は曹長だ、よろしくな」
「私はリリー軍曹です。よろしくお願いします」
レイバートの後ろに立つ二人も、彼に続いて挨拶をした。
「ご丁寧にありがとうございます。私はベルク博士の部下のロベルトです」
全員の自己紹介が終わったところで、レイバートがベルクに話しかける。
「CFのテストパイロットということで集められましたが、戦闘機乗りの自分達に務まるのでしょうか?戦闘機の操縦には自信がありますが・・・」
不安な表情を浮かべるレイバートに、ベルクは笑いながら答えた。
「はっはっは、心配はいらん。操縦性は戦闘機にかなり近くなっている。君達ならすぐに慣れるだろう」
ベルクが機体のマニュアルを三人に渡す。
「まあ、先ずは実際に機体を見てみないとな。さあ、ついてきてくれ」
そう言って部屋を後にするベルクに、四人が続く。
エレベーターに乗り、地下へと降りていく。
しばらくすると、エレベーターが止まり、扉が開いた。
「ここは・・・」
レイバートが口を開く。
「ここが、CFの開発場だ。そしてこれがCFだ!」
ベルクが指差した先に、それはあった。
ライトブルーに染められ、スリムな見た目をしており、それは一目で「ロボットだ!」とわかる物であった。
「中尉、俺は驚きが隠せません!ロボットなんて、ゲームやアニメの物だと思ってましたよ!」
エリックが目をキラキラさせながら、興奮気味に話す。
「私もです。こんなのが現実に造れるなんて・・・」
リリーも嬉しそうに、それに見とれている。
「これがCF・・・なのか」
レイバートがCFを見ながら呟いた。
「どうだ?率直な感想を聞かせてくれ」
驚いているレイバートにベルクが話し掛ける。
「正直、もっとチープなものが出てくると思っていました。まさかこんなに立派な機体だとは思いませんでした、しかも三体もあるとは」
レイバートの言葉にベルクがニヤリと笑う。
「ふふ、そうだろそうだろ。我々が造ったCFは伊達ではないぞ。とはいえ、乗って初めてこの機体の良さがわかるというものだ」
そう言うと、ベルクは三人にカギを渡した。
「これは?」レイバートがベルクに尋ねる。
「これがCFの起動キーだ」
「という事は・・・」
「まずは試乗だ。行ってこい!」
「了解!」
ベルクの言葉に三人が応え、各自機体に乗り込んでいった。
「これがCFのコクピットか。確かに戦闘機に似ているな」
レイバートが呟く。
狭すぎず、広すぎずといった所だろうか、なかなかに快適ではある。
「中尉、これはなかなかのものですね。戦闘機より居心地は良いかも知れませんよ?」
「本当ですね、私もそう思います」
二人から通信が入る。
「確かに快適かもしれないな。なら、あとは操縦の仕方だな」
そう言ってマニュアルを開いてみる。
・・・これは凄い。
もっと複雑かと思ったが、意外にもシンプルな操縦になっているようだ。
難しい操縦や細かい補正はAIが担ってくれるようで、パイロットは大まかな操縦が出来れば問題ないようだ。
「これなら戦闘機乗りの俺たちでも操縦出来そうだな」
マニュアルを見ているレイバート達に通信が入る。
「どうだ、行けそうだろ?」
ベルクからの通信だった。
「ええ、これならすぐに慣れる事が出来そうです」
「だよな。じゃあ発進だ!」
ベルクの言葉に驚いたレイバートが、慌てて聞き返す。
「いきなりですか!?」
「ああ、実際に動かしたほうがわかりやすいだろ?多少壊れても直してやるから、気にせずに動かしてこい」
「・・・わかりました。二人とも行けそうか?」
レイバートの言葉に、二人が答える。
「まあ、何とかなりますよ」
「頑張ります!」
レイバートがクスっと笑う。
「さすが俺の部下だな、頼もしい限りだ。先に発進するから付いてきてくれ」
「了解」「了解です」
機体がエレベーターにより、基地の外へと運ばれる。
レイバートがレバーを握り、ペダルを踏み込む。
「レイバート、1番機出る!」
背部ブースターにより、勢いよく前に進んでいく。
同じように、エリックの2番機とリリーの3番機が基地から発進する。
「こいつは凄い機動力ですね」
「本当ですよ、スラスターとホバーによる高い機動性と運動性、これならEEと互角に戦えるかもしれません」
「ああ、こいつなら武装次第で、あのEEを倒せるかもしれない」
二人の言葉を聞き、レイバートは一月前の事を思い出していた。
一月前、大型EEが突如としてシルヴァリアへ現れた。
そしてそれは迷うことなく、近くにあったシルヴァリア第8航空基地へと進行した。
それに対し、戦闘機、戦車を始めとした基地の全戦力で応戦した。
レイバート率いる第3小隊は、第8航空基地に所属しており、迎撃作戦に参加していた。
奮闘空しくEEを撃退する事は叶わず、結果、防衛に就いていた部隊は第3小隊を含め、僅かばかりが生き残っただけであった。
EEは基地を破壊した後、そこが巣だと言わんばかりに陣取って動かず、近くを通り掛かる生物を襲っている。
基地の奪還、戦友の仇打ち、それがレイバート達の悲願であり目標であった。
「ベルク博士、武装は現時点で何が完成していますか?」
レイバートがベルクに尋ねる。
「現時点で専用の突撃銃及びシールドが完成している」
答えるベルクに、レイバートが難しい表情を浮かべる。
「突撃銃ですか・・・奴には機銃は勿論、ミサイルすら通用しませんでした。効果はあるのでしょうか」
そう言うレイバートに、ベルクが優しく答える。
「不安な気持ちはわかる。だが心配しなくて大丈夫だ、こいつは専用の炸裂弾を使用した対EE用の専用突撃銃だ。まだテスト段階ではあるが、間違いなくダメージを与えられるはずだ」
そう話すベルクに、レイバートが頷く。
「博士、失礼な事を言ってすみませんでした。本当に通用するのか、倒せるのか、不安だったんです。申し訳ありませんでした」
「気にするな、君達は第8航空基地の生き残りだ。奴を倒したい気持ちは我々以上だろう。当然の事だと思うがな」
ベルクはそう言って言葉を続けた。
「だからこそまずは機体に慣れ、十分に性能を引き出して欲しい。そのデータから機体の調整、更には新たな機体や武装の開発が行えるんだ。君たちテストパイロットの使命はとても重要だ、頼んだぞ」
「は!了解しました!我ら3名CFパイロットとして精進します。改めてよろしくお願いします!」
「お願いします!」「お願いします!」
レイバートに続き、エリックとリリーも応える。
「ああ、共に頑張ろう。EEを倒すその日まで」
ベルクは3機のCFを目で追いながら、そう答えるのだった。