桜の木の下には
時間は彼女を置き去りにして残酷にも、休む事なく過ぎていった。
彼女の時間はこの世を離れてから止まっていた。
僕の時間もその時から止まっていた。
生きているのに僕の時間は死んでいた。
君が居なくなり初めての春がやってきた。春風が吹き流れる中一本の桜の木がそこにはあった。
この桜の木の下で僕らは多くの時を過ごした。
「桜の木の下には死体が眠っている」
どこかでそんなを言葉を聞いたことがあった。
思い出の桜の木の下、彼女の止まった時間はここにあるのか?
僕は必死に掘り起こした。
当然、死体なんて出てこなかった。あったのは、中に手紙が入った瓶だった。
「ありがとう 私はいつでもここに居るから 強く生きて」
流れる涙と共に、僕の中の時間の針は音を立てて動き始めた。
「強く生きよう」
桜の木の下には死体など眠っていなかった。だが、
強く生きていく希望が、そこには眠っていた。
~完~