物語の呼び声-
僕は、気配を悟られないように大和を後ろから殴りつけたはずだった。
「ッツ!!」
殴りつけた瞬間何者かが僕と大和の間に入り込み僕の攻撃を止めた。
そう思った瞬間、視界が反転し、体に凄まじい衝撃が走った。僕は壁に叩きつけられていたのだ。
「ごはっ!」
お腹と背中に走った衝撃で僕は血反吐を吐いた。
地面に広がる自分の血を見ながら急いで息を整えようとしたが、上手く呼吸することができなかった。それが、衝撃のせいなのか、それとも恐怖心からなのかは分からないがとにかく上手く呼吸ができなかった。
しかし、呼吸ができなくとも今の現状を認識しなければと思い顔を上げた。
僕は一体何にやられたのか、少なくともガルーダではなかった。
顔を上げるとそいつは僕の目の前にいた。
まるで中世時代のヨーロッパに存在した騎士のようだった。しかし、ただの騎士ではなかった。
その騎士は顔が無かった。
ネットのオカルト掲示板で見たことがあるそれは、アイルランドに伝わる死を予言するといわれる妖精。
「デュラハン!」
デュラハンは僕に一撃を与えただけで、あとはその場にいて僕を観察しながら、大和の指示を待っているようだ。
「デュラハンか~~。残念ながらハズレでーす。まあいい線イッてるね~。」
大和は、少し笑いながら指をパチンと鳴らした。
顔無しの騎士から黒い闇のような何かががうねうねと出てくる。黒い闇が騎士の頭の部分に集まり顔のような者を形成した。
だがそれは顔とは呼べない、いや、呼びたくない風貌をしていた。しいて言うなら、ホラー映画や心霊番組なんかで出てくるような幽霊の顔に似ていた。
人間が本能的に恐怖を覚える絶対的な存在。
そうとしか思えなかった。
「正解は反神の影騎士だよ。って言ってもわからないよな。」
反神の影騎士。聞いたことがない。ただ一つ分かることがある。それはコイツがとんでもなくヤバイということだ。
息が整いかろうじて立てるようになった。しかし、それでも依然として危険な状態だ。
逃げなければ。そう思っても逃げられるとは思えない。絶体絶命だ。
「やれ。反神の影騎士。」
その刹那。反神の影騎士は鞘に収まっていた剣を抜き、そのまま上に切り上げた。
僕は横に倒れるように回避した。
僕にはその一閃は僕に当たることはなかったがその一閃はすさまじい威力だった。
建物、僕が今いるプラネタリウムが真っ二つに割かれたのだ。
まるで、ルパンの五右衛門が刀でつまらぬものを斬ってしまうようにプラネタリウムは真っ二つに割かれ方だった。
僕は逃げた。反神の影騎士に殺されないために。だが追いかけて来なかった。追いかけるそぶりはあったが追いかけては来なかった。
少し、安心した瞬間。
ボゴォという音がした。音がした時には僕は壁にめり込んでいた。
追いかけてこなかったのはいつでも追いつけるからだったのだ。
絶対にアイツからは逃げられない。
血も止まらない。たぶん骨もほとんど折れてる。
殺される。そう思った。
目をつぶった。もう無理だと思ったから。
十数秒経過しても僕は殺されなかった
大和は顎に手をあてながら何やらこちらを見つめて考え込んでいるようだ。
「なぁ、兄ちゃん能力使わんの?死ぬよ?」
大和は僕が能力を使わないことを疑問に思っていたようだった。
それもそのはずである、倒そうとする気があるのならさっきの不意打ちで多少なりとも何
か能力を使うはずだ。
しかし僕は使わなかった。
「あぁ、まだ能力使えないんか。そりゃ残念やな。」
やはりバレた。
「冥途の土産にイイもん見せようか。まあ兄ちゃんにとっては怖いもんかな?皆!出てこい!」
大和がそういうと、
5つの影が浮かび上がってきた。
5つの影は徐々に形を成していった。
1つは見覚えのある姿だった。そうガルーダだ。その他4つの影は暗くて見えないが、たぶん、ガルーダや反神の影騎士と同じくらいの強さだろう。
「ちょっと瓦礫が邪魔だなぁ」
ガルーダが突風を起こした。突風どころじゃない暴風それ以上だ。
僕がめり込んでいる壁以外、すべて風で飛んで行ったのだ。
初めから大分手加減してたのか。
そんなことを思っていると、その場にいるすべて影だった物の姿が見えた。
ガルーダと反神の影騎士は置いておくが、その他は『赤い髪の少女』、『巨大な人間』、
『忍者』『マントの男』だった。
どれも恐ろしいほどの強さを持っている。
見た瞬間本能でそう感じた。
「どうだい兄ちゃん。物語のキャラクター・登場人物・生物を7体まで同時に呼び出し使役するこれが俺の能力『物語の呼び声』だ。」
そんな能力に勝てるわけない。まだ能力だってわかってないし。
僕は生き延びることはもう諦めた。
「なんや、兄ちゃんもうあきらめたんか?しゃーない。ガルーダよろしく!」
ガルーダの爪が僕に迫ってくるのが見えた。
また僕はガルーダに殺されるのか、そんなことを思った。歯向かっても勝てるわけがない。
だけど、これでいいのか。
また、同じようにガルーダに殺されていいのか。
なにも出来ないまま、また殺されたくない。
でも、勝てるわけがない。そんな自問自答を僕は繰り返していた。
眼前に迫るガルーダの爪が迫った。
手も腕も足も動かせないかろうじて動かせるのは顔だけ。
だけど、このままでいいなんて思えなかった。また殺される。だけど、このまま黙ってやられてたまるか。どうせ死ぬなら、一泡吹かせてから死んでやる!!
僕は爪が当たる瞬間に首を少しづらして、爪に噛みつき食いちぎった。しかし、もう一つの爪は僕に胸を裂いた。
ガルーダはが痛そうな叫び声を上げたのを聞きながら、僕はガルーダの爪を勝利の勲章として飲み込み、地面に沈んでいった。