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刻印戦士達の異世界戦記  作者: 秋雨しずく
2/2

儀式


 「―――さて」


 ユーティファル大陸。

 台形のような形をしたこの大陸は、その昔魔物によって人類は驚異に脅かされていた。

 ここに暮らす人びとは、日々怯えながら隠れるように最低限の文明を築いて暮らしていたとされる。


 魔物は天空に輝く太陽から降り注ぐ《マナ》が邪気を含み寄り集まることで実体化、そしておぞましい姿となって人類に襲いかかる。

 そのため安息の場所などなく、繁殖の必要のない魔物によって、唯々殺されるおそろしい時代だったのだ。

 

 そんな時代に終わりを告げる来訪者が現れる。


 ―――1人の人間だ。


 彼は右目に金色に輝く文様を宿していた。

 彼は地上に現れるとこの大陸の人々の、あまりに惨めな暮らしぶりを嘆くと、次の瞬間全身に白銀の鎧を着込んでおり、身の丈ほどある大剣をいつのまにか握り締めていた。

 鎧は太陽の光とマナを帯びてライトブルーのオーラを全身ににじませ、大剣は血を求めるように赤黒く刀身を包んでいたという。


 彼はまず始めにこれ以上の魔物が増えないように、と世界に降り注いでいた膨大なマナを吸い込むと一つの塊にして見せた。


 ―――これは我の体内によってできた神聖なる《オド》の塊だ。

 ―――今からこれを空に浮かべ、あのマナを降らせ煌く太陽に、未来永劫隣に侍らせる。

 ―――これによって魔物を生み出す邪気を尽く駆逐し、マナを神聖な、淀みなきものへと変える。


 彼はそう言うと空に塊を浮かべさせる。

 塊は空に向かうと次第に大きくなりながら高く高く飛んでゆき、果てには太陽の一回り小さい程になると横に並び、暗くその存在を主張した。


 これで魔物の再出現が解決したと言うと、今度は文様のある右目を光らせると4人の下僕を突如として生み出した。

 4人とも主同様に白銀の全身鎧に身を包んでいたが、皆持っている武器は違っていた。

 一人は美しくスラリと伸ばした長剣。

 一人は禍々しくねじ狂った槍。

 一人は様々な文様が組み合わさった美しい薙刀。

 一人は柄よりも倍も大きな刃の大斧だ。

 

 4人の下僕は主に膝をつき頭を垂れると『何なりとご命令を、主様。』と唱和し、彼に忠義の姿勢を示した。

 彼は応えるように『これより人々を救済する。一切の魔物を駆逐せよ。』 ―――そう宣言してみせた。

 彼はその言葉と共に右目を光らせると、下僕に力を与える。

 紅く鮮血のように光ると、下僕の武器を持つ手に剛力が宿り、大斧を持つ者は風を切るように振り回してみせた。

 海のように蒼く光ると、鎧を包むオーラはさらに輝きを増し、オーラによって鎧に触れることさえできなくなった。

 若葉のように緑に光ると、風を纏い軽々と木よりも高く飛んでみせた。


 3色の力を与えると彼は号令を出す。

 『征け。全ての魔物を尽く狩り尽くすのだ。』


 4人の下僕は破竹の勢いで周囲の魔物を狩ると、そのままの勢いで他の人類のいる集落へ向かう。

 下僕たちはその集落につくと、民たちの安全を宣言した。

 大斧の者は東へ向かい、山に住む魔物を駆逐し、人々のために山を拓いた。

 薙刀の者は南へ向かい、密林を拓き、毒の沼を清め、蔓延る魔物を駆逐し人々と野生の動物を保護においた。

 槍を持つ者は北へ向かい、雪が濃い大地を風を巻き起こすように槍を振るい、大地を風で薙ぎ払うとたちまち魔物は駆逐された。

 剣を持つ者は西に向かい、人々をまとめあげ、剣を掲げ守護を誓い、共に魔物を駆逐した。


 彼らは各々の方法で魔物を駆逐すると、魔物の死骸から武具を作り出すように人々に命じる。

 魔物はマナの塊であり、それによって作り出される武具は人々が使うあらゆる道具では傷つけることができないのであった。

 彼らはこれから自活の道を辿り、文明を築き上げていく。

 

 人びとが文明を築き上げ、彼が嘆くことをやめ、心に安寧をもたらすと、人々を救済するためだけに現れたかのように、ゆっくりと息を引き取り砂に還ったのだった。

 彼は死ぬ間際に言った。

 『これより2000年の後、もう一度人々の安寧を見に行く。4人の下僕はこの地に残し、人びとと共に在るだろう。』

 4人の眷属はこれを諾し、領民たちはむせび泣きながら彼を看取った。


 眷属たちは主の言に従い、己の持つ武器に魂を込め、精霊としてこの地に留まった。

 領民たちは彼の身体を大陸の中心に置き、人々を好いた彼のために都市を築いた。

 そして東西南北に都市を築くと、それぞれに精霊たちを安置し、守護してもらいながら今も人びとは生きている―――。



 そして今日はその2000年後の西部都市『マリドゥエン』の地下の一室に視点は映る。

 石で作られたこの一室は4つの机が置かれており、四方は明かりによって不気味に照らし出されている。

 その机に行儀悪そうに腰掛けながら足をブラブラさせている一人の細目の男はもったいぶったように声を出すと周りを見渡す。


 机には同じように座ったり寝転んだり隣に立っているだけの、同じ雰囲気を漂わせる男達と目があった。

 彼らの居座る机には、それぞれ仰々しい武器が置かれている。


 大斧、薙刀、槍、そして剣だ。

 2000年の時を経た今でも、当時の輝きを保ち、今尚血を求めるように紅いオーラを放っている。


 全員と目があったことで満足したのか、それとも別にそんなことどうでもよかったのか、剣の精霊は目の前で手を叩くと宣言する。

 

 「おそらく面白いことになるだろうが、」


 「―――始めようか。」 


 彼は武器を手に取ると、中央の床に剣を突き立てる。

 他の3人も同様に各々の武器を突き立てると、地下室全体を覆うように魔法陣が生成された。それはどんどんと大きくなり、地下室全体が魔法陣によってマナの色に染め上げられる。

 篝火は消えるが、それ以上の明かりによって地下室が染め上げられてゆく。

 そうして真っ白に空間が包まれると、次の瞬間光は何もかもを飲み込んで、部屋には何も残っていなかった―――。

 

 

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