9話
大型ショッピングモール襲撃の決行日がやってきた。
時刻は夜中の2時。
「いよいよやって来たわね」
「あぁ、やってきて欲しくなかったよ」
「もう、今更ぐちゃぐちゃ言わないの!!」
春奈はいつにもまして張り切っていた。
「まだ、ショッピングモール内には従業員がいるから、今から様子を伺うわ。何事もなければ一時間後に計画実行するわ」
「ああ、わかった」
「何回か下見はしたけど、今回が最終チェックよ。私が中を見てくるから、紫晃は外回りを確認して。特に爆破部分は念入りにね。」
「了解。」
「じゃ、45分後に倉庫にて待機。監視カメラは、電源切っとくから、周りに人がいないかを注意しながら来なさい。」
「おう。」
「じゃね。何かあったらすぐに報告すること。ホウ・レン・ソウよ!わかった?」
「はいはい」
「はいは一回よ!」
「・・・・・・」
上司と母親がいるような錯覚に紫晃は襲われた。
「健闘を祈る!」
そう言うと春奈は足早にショッピングモールの裏口から入っていった。
「・・・ほんと只者じゃないなあいつ。簡単に監視カメラの電源切るだの、爆破するだの・・・全く・・・」
しかし、張り切っていたのは春奈だけではなかった。紫晃もいつにも増して興奮していた。
ホワイトエンジェルとの戦いを考えると、恐怖が募るが、それでもここ三週間ぐらいの間、春奈と紫晃は念入りに計画を立ててきた。その三週間で、紫晃は、春奈の多くのことを知った。紫晃はその期間で体験したことのない日々を送ることができた。アジトで喧嘩になったり、ジャスティスで偵察ついでにショッピングを楽しんだ。そんな日々がこれからも続いてほしいと願い、そのために紫晃はこの計画を必ず成功させようと誓った。
「カサッ。」
いきなりの物音に紫晃は気付き、茂みの中に人影がいることを確認した。
(まさか、ホワイトエンジェル・・・!?この計画に気付いていたのか!)
幸い紫晃は、ピュアブラックの格好ではなく、私服のままの姿だった。
(何とか、戦闘は避けることができるか・・・!?)
そう思った瞬間、座り込んでいた人影が立ち上がり、徐々に紫晃に近づいてくる。
紫晃は身構えたが、その正体はホワイトエンジェルではなかった。
「ううーん、確かに感じる。並々ならぬ気がぁぁぁ」
声の正体は、一人の少女だった。
「・・・何やってんだ?」
「ぬうぁぁぁ!も、申し訳ございません。すぐに立ち退きますのでぇぇぇ!!」
唸り声を上げながらしゃべる少女は、紫晃は暗くてよく見えなかったが、丸眼鏡をかけており、宝探しでよく見られる二本の金属棒の、ダウジング・ロッドを両手に一本ずつ持っていた。
深夜の少女の奇行に紫晃は戸惑った。
「・・・何、してんですか?」
思わず紫晃の口調が少し丁寧になった。
「うん?警備員さんではないのですねぇ。驚きましたよー。
私が何をしているか知りたいですか?知ると後戻りできませんよぉ?」
「な、何なんですか・・・一体・・・。」
(まさか、計画がバレているのか・・・!?)
冷や汗をかいた手をギュッと握り締め、ゴクリと唾を飲み込みながら、その少女を見た。
「なーんと・・・。」
「何と?」
「幽霊探しどぅえぇぇぇぇーす!」
「・・・は?」
「何とここ最近、黒髪の美少女が深夜にこのあたりをうろついているとの目撃情報があったので、絶対に私が追い求めていた幽霊だと思いまして、わざわざ足を運んだわけですぅ!!」
「・・・はぁ・・・。」
(春奈の奴、一番目立ってんじゃねーかよ!!)
計画が知られてはいなかったので内心ホッとしたが、目撃情報が上がっている以上うかつに動くことはできなかった。
「と、とにかくこんな所で女の子一人は大変危険ですので、早く帰ってください。」
「うーん、仕方ないですねぇ。他のメンバーにも連絡しましょうか。」
「ほっ、他にもっ!?」
女の子は、携帯を取り出し、無料通信アプリを開く。
「・・・あれ?」
“部長、眠たいので先帰るっす!”
“俺もー”
“私も、夏希ちゃんと一緒に帰ります!気をつけて帰ってくださいね。”
“部長、幽霊探しも程々にして欲しいっすよー(><)あ、あとここには幽霊いませんよ!”
チャット内容によると、仲間にまんまと裏切られたようだ。
「もう帰りますよね?」
「・・・はい。」
シュンとなった女の子を連れて紫晃はショッピングモール内の敷地から出たところまで、案内した。
「お見送りまで、ありがとうございますですよー。」
「い、いえいえ。」
「ところで、あなたはここに何の用なんですか?」
紫晃は内心ぎくりとしたが、表情を変えずに話した。
「俺は、ここの警備員のアルバイトをしています。その帰りです。」
「あっ、やはり警備員さんだったんですねぇ。大変ご迷惑をおかけしました。」
「もう深夜に一人でウロウロしては行けませんよ?」
「は、はい・・・。」
「では、他の人もいたようなので、見回りだけして俺も帰ります。気をつけて帰ってくださいね。」
「ありがとうございますぅ。あなたみたいな優しい警備員さん初めて見ましたー。」
(この様子だと何回か深夜徘徊してるな!)
少女を見送った後、紫晃は見回りに戻った。何人かで来ていたということは、もしかすると、まだ残っている人がいるかもしれない。紫晃は念入りに見て回ったが、帰りゆく従業員が二名いただけで、他の人はいなかった。本当に仲間全員に裏切られたようだ。少女のションボリとして帰りゆく様子を思いだし、気の毒に思えてきた。しかし、その少女との出会いはまさに運命的だった。そのことに紫晃が気付くのはもう少し先のことだった。




