悪に染まりし商店街
「作戦会議始めるわよ。」
そう言って、どっしりとピンクのソファーに座り込んだ春奈は、にんまりとした表情を浮かべていた。綺麗に肩につくぐらいに切り揃えられた髪を指先で遊ばせながら、彼女の口から言葉が出た。
「いよいよ、お待ちかねのバトルを始めないとね!」
「俺は待ってないぞ。」
「取り敢えず、次なる戦の場は・・・」
春奈は紫晃の話を聞かずに淡々と話を続ける。
「大型ショッピングモールよ!!!」
「大型ショッピングモールって、あのジャスティスモールか!?」
ジャスティスモールは、ここ数年前に新しくできた大型ショッピングモールで、紫晃達が在住する県で唯一のショッピングモールだった。大型ショッピングモールでは洋服・雑貨・スポーツ用品・日用品・食品売り場、さらには映画館やゲームセンターなどの娯楽施設もあり、この大型ショッピングモールがあれば、他の店に行く必要がないほど揃っている。
「ええ。狙うはジャスティスよ!!」
「それって、ただ単に名前がジャスティス(正義)だからか?」
紫晃は冗談交じりに聞いてみた。
「ああ!そうね!」
「今ひらめいたのか!!!」
「別の理由もあるのよ。」
「・・・一応聞くがどんな理由だ?」
「よくぞ聞いてくれたわね!!」
「あーこの流れ・・・」
「偵察よっ!!!」
勢いよくソファーから身を乗り出した春奈は、紫晃を無理やり引き連れ街へ繰り出した。
「・・・おい。ここショッピングモールじゃねーぞ。」
「うん。そうね。」
「なんで商店街に連れてきたんだよ!!!」
紫晃が連れてこられた先は、ショッピングモールではなく、とある商店街だった。
「あんたっていちいち声が大きいわ。ボリューム下げなさいよ。」
「仕方がないだろ、今の俺にはお前の行動が疑問でしかないからな!!」
「そんなことより、偵察始めるわよー。」
「俺の疑問は無視かよっ!」
「見て!紫晃。あのポスター懐かしくない?」
春奈が指をさしたのは、一枚の古びたポスターだった。
「ああ。こんなポスターあったなあ!」
そのポスターは、十年前に大ブレイクした飲料水のポスターだった。この飲料水が大ヒットしたため、このポスターに映る当時の駆け出し女優は今では、数々のドラマに出演する大物女優となった。紫晃も、七歳ながらにして初めてあのしゅわっとした炭酸飲料水を飲んだことは記憶に残っていた。泡を出しながらパチパチと音が鳴る水の音を聞きながら、一口くちに含んだ途端、口の中で水がはじけていく。ゴクリと喉を通したあとも、まだ口の中に残る感覚に、幼い紫晃は辛いと勘違いし、大人の飲み物だと思ったのだった。
そんな懐かしさに浸りながら、紫晃は商店街を見ていた。
「ここの映画館、閉館したんだよね・・・。」
春奈はそう言って、途中で買ったソフトクリームが溶け始めているのにも気付かないまま、寂しい眼差しで映画館だった建物を見つめていた。
「俺も、ここの映画館で見たことあったな・・・。確か、魚が主人公の話の映画で、人気だったから、ギリギリでチケット買いに行ったら間に合わなくて、立ち見で観たことがあるよ。」
「あーあの映画ね!私もここで観たわ!」
「まだ俺が5歳くらいだったから、途中で親に抱っこしてもらいながら観た覚えがあるなあ。」
「へぇー、よく覚えてるのね!」
ようやく春奈は溶けていたソフトクリームの存在に気付き、慌てて食べ始めた。
「まあな。なんだかんだで幼い頃の思い出が一番楽しかった。」
「あんたにも、そんな可愛い幼少期があったのね。」
「・・・悪いかよ。」
急に赤面した紫晃をみて、春奈はさらに笑いがこみ上げた。
「と、ところで、そろそろここに来た理由を教えてもらってもいいだろ。」
「うん。そうねぇ。あんたはここに来てみてどう思った?」
「お、俺?そうだな・・・。」
紫晃は、商店街をぐるっと見回してみる。
「何ていうか、懐かしいって思ったけど、前よりも人が減ってるし、店も閉まってるところが多いし、活気がないな。」
「そう!まさにそうなのよ!!」
ぐぐっと春奈は紫晃に迫り、続けて言った。
「私たちが幼い頃は、この商店街も賑やかだったわ。けど、それがだんだんスーパーに押されて人が来なくなったのよ。さらに、極めつけが・・・」
「あの、ジャスティスモールってことだな。」
「ピンポーン!あなたにはクリスタルな春奈ちゃんを差し上げましょう。」
「これはまた、クリスタルとは太っ腹だな。」
「さっきの映画館もジャスティスモールのせいで閉館を余儀なくされたわ。」
「そうだったのか・・・。」
「そこで、あのジャスティスモールをどっかーんとやってしまおうと。」
「待て待て、大問題だろ。」
「ちょっとどっかーんってのは言い過ぎたけど、しばらくおとなしくしてもらうわ。」
「ってか、あんな人が集まる場所で騒ぎを起こしたら、絶対に負傷者が出るだろ!」
「そこは、負傷者が出ないように、しっかり計画してマース!」
「お前がこの商店街をどうにかしたい気持ちはわかるが、ジャスティスの工事が終わったら、また人が減るんだぞ。」
「この私にとってもいい考えがありマース。」
この時にニヤリと笑った春奈の顔はまさに悪役の表情だった。




