7話
紫晃は一週間前の出来事を振り返った。
桜ヶ丘学園の伝説となった後、すっかり打ち解けたホワイトエンジェルと春奈との三人で帰り道を共にした。
「いやぁ、本当に君は面白い人だね。春奈の舎弟なんてもったいないよ。僕の師匠になってくれないか?」
先ほどのしかめっ面とは一変して、屈託のない笑顔でホワイトエンジェルは話しかける。
「か、勘弁してください。」
「そ、そうよ!も、もう私の舎弟なんだからね。」
先ほどのむちゃぶりを紫晃に強いてしまったことの申し訳なさによって、春奈は紫晃と目が合わせることができなかった。
「僕の名前は、森下直人だよ。君の名前を教えてもらってもいいかな?」
(春奈といい、森下直人といい、名前のモブ感と正反対なその容姿は一体どうしたんだ!!)
そんな疑問を心に投げかけながら紫晃は答えた。
「俺の名前は、萩野紫晃。よろしくお願いしますね。も、森下・・・さん」
「そんなに固くならないで欲しいな。直人って気軽に呼んでよ。僕も紫晃って呼ばせてもらうよ。」
直人が紫晃の肩に腕をかけると、その後ろにいた春奈がむすぅとしていた。
そんなどこにでもある帰り道の出来事を共にした三人が、ニュースになるほどのどんちゃん騒ぎを起こす張本人達とは、紫晃はとても思えなかった。
あれから一週間、何も起こることはなかった。春奈とも一切連絡をとっていない。
「♪~~~♪~~~」
紫晃の携帯のメールの着信音が鳴り響く。件名は“絶対に見るな”だった。紫晃はそのメールを見ることはなかった。
「冗談じゃない。あんな幼馴染の戯言に、死にかけになるまで戦うなんて御免だ。」
携帯電話を通学リュックにしまい、学校から家に帰ろうと、なるべく人と目を合わせないように教室を出た。紫晃が廊下に出た途端、教室は一段と賑やかになった。紫晃の周りではいつもそうだった。クラスの女子と目が合うと、女子の顔がひきつり、ごめんなさいと謝ってくる。楽しそうに会話するグループに目をやると、会話が止まり、別の教室に移動する。
みんなに避けられることに紫晃は慣れていた。だから、自分から人に歩み寄るのはやめた。
だが、そんな自分に話しかけてくる人が現れた。最初はダークエンジェルと名乗る意味不明な女だったが、たった数回会っただけなのに、紫晃は随分と慣れ親しんでいた。自分に対して恐怖心を抱かずに、普通に接して(振り回して)くれる彼女を紫晃は苦手と思いながらも、心のどこかで嬉しさもあった。たとえそれが、命懸けで戦う悪者であっても。
紫晃は立ち止まった。今、このメールを見たら、また彼女に会えるのではないか。しかし、森下直人の存在が頭に過ぎった。春奈と直人は普通の幼馴染よりも親しい関係だった。特に春奈は、直人に対しての眼差しが、特別だった。まるで、好きな人を見ているかのようだった。どうせメールを見て、春奈の元へ向かったとしても、どうせ自分は顔の傷だけが理由で悪役に任命されただけの関係だ。春奈に利用されただけで、終わってしまうだろう。そう思って紫晃は、何事もなかったように歩き始めた。
あれこれと考えながら、校門に差し掛かったとき、妙に周りがざわついていた。
「見ろよ、あの子。超可愛い。」
「おおー。しかも桜ヶ丘の制服だ。」
そんな野次馬の声に耳を傾けた紫晃はハッとした。そして、一人の少女と目があった。
「・・・奥宮・・・」
けれど、紫晃は目を逸らし、春奈を避けるように歩いた。
「待って、紫晃!!!」
慌てて追いかけた春奈が紫晃の制服の裾を掴んだ。
「やめろ。」
紫晃は春奈の手を振り払い、足早に去ろうとする。
「何あいつ、女の子の手を振り払ってどっか行くとか最低。」
「あんな可愛い子にひどい事するの誰だよ?」
「あーあいつ、二年の萩野って奴らしいぜ。」
「ひっでー奴だな。」
周囲の目がどんどん紫晃に対して冷たくなってくる。それに対して紫晃の歩みもますます早くなる。
「待ちなさい・・・よっ!!」
春奈が紫晃のカッターシャツを掴んだと思うと、そのまま後ろから紫晃に抱きついた。
「・・・・・・!!」
「・・・よくもこの私を無視したわね。今日は最後までとことん付き合ってもらうから!!」
しがみつくように抱きついた春奈は、走ったせいで呼吸が乱れ、離れようとしなかった。はあ、はあと漏れる息が紫晃の背中に当たる。そんな様子に紫晃は顔を真っ赤にしながら、
「わ、わかったから、いい加減離れろよ。」
と言うと、春奈は今の自分の状況に気付き、急いで紫晃から離れた。
「ご、ごめん。・・・つい・・・」
そう言いながら、うつむく春奈は何ともいじらしく愛らしかった。さらに湧いた周囲から逃れるために紫晃と春奈は、校門から走り去った。




