ハッピーニューイヤー、愛しい君へ
彼女から年賀状が届いた。
それは、むずがゆくこそばゆい内容だった。
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これは、ほんわかした恋人たちの、日常のお話。
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年始。慎はポストを開けた。昨日夜遅くまで起きていたこともあって、目を覚ましたのはAMの10:30。それでもまだあくびをしながら外に出て、年賀状をチェックしている次第だ。
母さん宛てが数枚、父さんの会社関係もろもろが十数枚、慎宛てが数枚だ。
母さんたちと一緒に分けた年賀状に目を通す。慎宛てに届いていたのは友達から数枚と、担任から一枚。全部で七枚だ。
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まず手に取ったのは担任から。今年の担任の先生は男性だけれど気が利いていて、人気の先生だった。
夏にも暑中見舞いが届いた。聞いてみればクラス全員に送ったのだそう。
今回は年賀状が来るのを予測して、先に出しておいた。今頃先生も目を通してくれているだろう。
内容はといえば、今年も頑張ろうな的なことだった。それと一緒に、年末に家族で行ったであろう旅行の写真が張り付けてある。
こっちは手書きだ。鏡餅と干支を書いた。うまく書けたかは保証しないが、先生が喜んでくれればいい。
担任のを横に置く。次に手に取ったのはクラスメイトだった。
「め で たいや」
どうしようもなく絶句した。いや、そういうやつなのはわかっている。クラスのムードメーカー、中井からの手紙だからだ。
上から瞳、手、タイヤが書かれており、その横に「めでたいや」と書かれている。ご丁寧に、僕と同じように手書きだった。効率的といえば効率的なのだが、非効率といえば非効率的である。
年末に住所を聞かれたので、年賀状はあらかじめ出しておいた。返事をする必要はないなと割り切って、その年賀状を担任の年賀状の上に置いた。
そのほかの年賀状はいたって普通だった。干支がかかれていたり、写真が印刷してあったり。住所を聞かれたメンバーだったため、もう年賀状は出してある。返事を書く必要ならないな、と思って最後の一枚に手を伸ばした。
差出人の名前を見る。___雨宮すばる。
・・・彼女の名前だった。
さっきから何度も繰り返しているフレーズではあるが、すばるにも年賀状は出してある。しかし今度は返事の心配などではなく、純粋にドキドキしていた。はがきをそっと裏返す。
そこには、クリスマスのデートの写真が載っていた。はにかんだ二人分の笑顔と、後ろできらめいているツリー。イルミネーションが彼女の鞄に反射している。
そしてその年賀状には、新年のメッセージと一緒に、切符が張り付けてあった。
クリスマスデートの日。あの日はちょっと遠出して、都心の方まで出て行った。
その時、昼間に電車に乗ったとき、改札を通らずすばるが受付に寄ったことがある。何をしたのか聞けば、切符をもらっていたのだと。
日付の入った、かわいいパンダのスタンプ。それをおしてもらったすばるは上機嫌で、切符をしまっていた。
そしていまだ。年賀状にはこんなメッセージが。
《この切符、慎にあげようと思ってもらったんだ》
・・・クリスマスデートの日から、そんなことを考えていたのか。
年始は会えないとわかっているすばる(家族旅行である)。年賀状送るねとは言っていたが、まさかこんなサプライズがついているとは。
嬉しいような恥ずかしいような愛しいような。そんなむずがゆい年賀状を貰ってしまった。
「・・・慎?そんなにニヤけてどうしたの?」
となりで年賀状をチェックしていた母さんから突っ込みが入る。
「ちょっとね。」
そう返して、年賀状を持った。部屋に戻るねと一言両親に声をかけ、自室のドアを開けた。
年賀状を貰うと、慎はその一年間自分の引き出しにしまっておく。そして年末の大掃除の時に年賀状を毎年入れている箱にしまうのが慎のやり方である。
でも今年は一枚だけ例外がある。愛しい彼女からの年賀状を、慎は自分の棚の上にそっと飾った。