僕と君の朝
これは、ほんわかした恋人たちの、日常のお話。
その日は、珍しく早く目が覚めた。目覚ましもなっていなくて、もう春先とはいえまだ薄暗い。
枕元に置いてある電気をつければ、時刻は朝の5時。そろそろ日が差してきてもいい時間だ。
自分の部屋のカーテンを開ける。まだ覚醒しきっていない脳が今日は月曜日だぞ、と言ってくる。
それなら学校に行く支度をしてから、少し運動してこようかと考える。
目が覚めてきた。そして先ほどまでの思考に少しの違和感を感じて、ふとカレンダーを見る。
・・・危なかった。今日は祝日の月曜日だ。学校はない。
違和感の正体はこれである。昨日準備した鞄は火曜日の時程だ。
制服に着替える前でよかったな、と思いながら僕は自分の部屋を出た。
もう宿題も何もかも終わっているため、今日一日は自由時間だ。テスト前でもあるまいし、わざわざ勉強をしようなどという考えは起きない。どうしようかと思考を巡らせ、とりあえず二階で寝ている両親を起こさないように、一階の自分の部屋を出た。
キッチンで少し砂糖を入れたコーヒーを淹れて、飲む。高校生だが、まだブラックは飲めない。いや飲めるけど好んで飲むほどではない。
コーヒーがまだ熱いな、と思って着替えを先にすることにした。いつも休日に着ている服に着替える。なんとなく、外にも出られるくらいの格好にしておいた。
洗面所で顔を洗って、申し訳程度に髪を梳かす。もともと髪がはねる性質じゃないので、手をぬいて梳かしても問題はない。
キッチンに戻るころにはコーヒーがぬるくなっていた。飲みながら外を見ると、そろそろ朝日が顔を出しそうだ。
何で時間をつぶそうかと考える。なんとなく持ってきたスマホを開くが、もともとインターネットサーフィンはあまり趣味ではない。写真部なので、いくつか巡回しているサイトはあるが、今日の分の更新はまだだろう。
それならラインやメール。しかし、祝日のこの時間だ。まだ起きている人はいないだろう。
図書室で借りた本は土曜日の時点で読み切っており、まだ図書館も本屋も空いていない。
今この状態を一言で表すのなら暇だ。暇。
部屋の片づけをしようにも、いつもある程度は整っているため、ここから
片づけをするとなると両親を起こしてしまう音量でやるしかない。
そしてわざわざラインやメールの通知音で叩き起こしてまで話したい人など_____思い当たる限り一人しかいない。そしてその一人はできるだけ迷惑をかけないようにしたい相手だ。
どうしたものかとため息をつく。暇だ。
***
メッセージを打ち込んでから早10分。送信ボタンを押すか否か、僕は悩んでいた。
「おはよう」
その一言だ。もしも起こしてしまったら悪いし、なんていう無駄なことを考えるのは、相手が彼女であるから。
僕はそれだけのことに十分間、考え込んでいたのだ。
いいか。一通くらいなら起こすわけはないな。
そう思って送信ボタンを押す。
こちら側としては送った時点で自己完結、それで満足だったはずなのだが。
・・・二秒と開けず、返事が返ってきた。
「え」
よもや起こしてしまったか。
少しの不安を抱えつつもメッセージを見る。
《おはよう、慎も起きてたんだね!》
《私も起きちゃって。メッセージ送っていいか悩んでたんだ》
遅れてきたもう一本のメッセージ。それをみた僕の顔は緩んだ。
自己完結のつもりだったけれど、考えてはいた。返事が返ってきたら、急で悪いけれどどっかに行こう、と誘うつもりだった。
《おはよう、すばる。今日暇?》
僕のいる部屋に、朝日が降り注ぐ。
こんな朝が、僕は大好きだ。