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希望の雨

これは、ほんわかした 恋人たちの、日常のお話。



今日は一日、大変だった。

なぜだかは知らないが、私たちのクラスは月曜日はスケジュールがハードなのだ。

それは、彼氏である慎とも話す時間が削れてしまうほど。


「じゃあすばる、また明日ね」


それだけ言って、傘をさして出て行った慎。今日は午後から雨が降り出した。私も慎も、あまり雨が好きではないため、なんとなく陰気になる。

そういって昇降口でサヨナラしたら、今日はもう会えない。逆に彼の部活は月曜日が休みのため、ちょっと寂しい結果となっている。

なんでそんなハードスケジュールになったのかといえば、あれだ。

一時限目を二年生全体での学年集会として、問題はそのあとの時間割だった。われらが3組はなぜか、そのあとの授業がすべて五教科で埋まっているのだ。

馬鹿ではないが、勉強を進んでやるほど好きではない私は、本日何度目かしれないため息をついた。

そして慎と一緒に帰れない理由。それは毎週月曜日の放課後に行われる中央委員会だった。

私は生活委員。生活委員の委員長で、中央委員会にも所属しなければならない立場だ。

中央委員会集合場所は一回の食堂。そして私はその集合場所に向かっているところだった。




「今日は、来月に行う募金活動についての分担などを決めます」


いかにも、といった風貌の生徒会会長が私たちに言った。

すでにプリントが配られているので、わかりきった内容ではあったのだが。

「今回行うのはユニセフ募金で、アフリカの難民のための募金です。駅前で行うので全員制服での参加を____」

会長が何かを話しているが、正直あまり耳に入っていない。今日の話はこれだけだと聞いていたので、半分右から左に聞き流してしまっている。委員長としてどうなんだ、と突っ込まれれば何も言えないが。


「___です。役割分担その他については、次回の集まりで行います。それでは解散です、お疲れ様でした」

「お疲れ様でした」


みんなで挨拶をして、集まっていた食堂を後にする。その途中で、理科の先生に呼び止められた。

「おーい、雨宮」

「あ、はい、なんでしょうか?」

理科の久保先生。よくお世話になっている先生だ。

「今日、アフリカの難民の話が出ただろ?それでちょっと思い出したんだがな」

今日雨だろ?と言って窓の外を指さした。

校庭には水たまりができている。

「アフリカには、希望の湖、っていうのがあるらしいんだ」

「え?」

「それは、雨が降った時にできた水たまりが始まりでな。アフリカの砂漠のどこかにあるらしい。」

それは面白い話くて、綺麗なお話だった。私から見たなら、まるで御伽噺おとぎばなしのような。

「どろどろの水たまりからできたはずなんだけど、なぜか透き通ったきれいな水で。その水を飲むと幸せになれるという「希望の湖」。ロマンティックだろ?」

「・・・いいお話ですね」

笑顔を浮かべて言うと、先生はうんうんとうなずいた。

「雨もいいことを運んでくるときがある。それを覚えとけよ、雨宮」

「はい!」

「引き留めて悪かったな、気をつけて帰れよ」

「はい、ありがとうございました、さようなら!」


・・・なんとなく元気がないのを、見てくれていたのかもしれない、久保先生は。

昔から雨はあまり好きではなかった。苗字に入ってるけれど、それがまた嫌で。

元の性格がおとなしいから、雨っていう文字が私をもっと暗くさせる気がしてた。

もうそんなことを思っていなかったが、なんとなくうれしい気分で昇降口に向かう。

靴を履き替えて、折り畳み傘をさそうとして______気が付いた。


「傘がない・・・」


そうだ。先週の金曜日も、同じように雨が降り出して、折り畳み傘を使ってしまった。

・・・家の前に置いてきたみたいだ。

はぁ・・・・と、深く深くため息をついて、手に持っていたブレザーでしのぐかと覚悟を決めて昇降口を

出たとき。

私の上に傘がさされた。


「・・・やっぱり。すばる傘持ってないでしょ?」


「・・・慎、待ってたの?」


「うん、すばるのことだから、傘持ってなかったら濡れて帰って、それで風邪ひくなぁ、と思ったから」

「・・・あはは、お見通しかぁ」

さすが慎だ。私の性格をよくわかっている。

「それに、傘もってたらもってたで一緒に帰れるしね」

格好良く笑った慎。私も笑いながら一緒に校門を出た。

帰る方向は同じだ。大通りに出たときさりげなく車道側によった慎。

自分の行動に自分で照れて、少し耳を赤くしている。

そんな慎を見て笑いながら、私は、今日一番、慎に話したかった話題を投げかけた。



「希望の湖、って知ってる?」



慎ならきっとこの話を、きちんと聞いてくれる。そして、いい話だね、と笑ってくれるはずだ。


今日は、少し嫌いだった雨に、幸せな時間をもらった日。

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