希望の雨
これは、ほんわかした 恋人たちの、日常のお話。
今日は一日、大変だった。
なぜだかは知らないが、私たちのクラスは月曜日はスケジュールがハードなのだ。
それは、彼氏である慎とも話す時間が削れてしまうほど。
「じゃあすばる、また明日ね」
それだけ言って、傘をさして出て行った慎。今日は午後から雨が降り出した。私も慎も、あまり雨が好きではないため、なんとなく陰気になる。
そういって昇降口でサヨナラしたら、今日はもう会えない。逆に彼の部活は月曜日が休みのため、ちょっと寂しい結果となっている。
なんでそんなハードスケジュールになったのかといえば、あれだ。
一時限目を二年生全体での学年集会として、問題はそのあとの時間割だった。われらが3組はなぜか、そのあとの授業がすべて五教科で埋まっているのだ。
馬鹿ではないが、勉強を進んでやるほど好きではない私は、本日何度目かしれないため息をついた。
そして慎と一緒に帰れない理由。それは毎週月曜日の放課後に行われる中央委員会だった。
私は生活委員。生活委員の委員長で、中央委員会にも所属しなければならない立場だ。
中央委員会集合場所は一回の食堂。そして私はその集合場所に向かっているところだった。
*
「今日は、来月に行う募金活動についての分担などを決めます」
いかにも、といった風貌の生徒会会長が私たちに言った。
すでにプリントが配られているので、わかりきった内容ではあったのだが。
「今回行うのはユニセフ募金で、アフリカの難民のための募金です。駅前で行うので全員制服での参加を____」
会長が何かを話しているが、正直あまり耳に入っていない。今日の話はこれだけだと聞いていたので、半分右から左に聞き流してしまっている。委員長としてどうなんだ、と突っ込まれれば何も言えないが。
「___です。役割分担その他については、次回の集まりで行います。それでは解散です、お疲れ様でした」
「お疲れ様でした」
みんなで挨拶をして、集まっていた食堂を後にする。その途中で、理科の先生に呼び止められた。
「おーい、雨宮」
「あ、はい、なんでしょうか?」
理科の久保先生。よくお世話になっている先生だ。
「今日、アフリカの難民の話が出ただろ?それでちょっと思い出したんだがな」
今日雨だろ?と言って窓の外を指さした。
校庭には水たまりができている。
「アフリカには、希望の湖、っていうのがあるらしいんだ」
「え?」
「それは、雨が降った時にできた水たまりが始まりでな。アフリカの砂漠のどこかにあるらしい。」
それは面白い話くて、綺麗なお話だった。私から見たなら、まるで御伽噺のような。
「どろどろの水たまりからできたはずなんだけど、なぜか透き通ったきれいな水で。その水を飲むと幸せになれるという「希望の湖」。ロマンティックだろ?」
「・・・いいお話ですね」
笑顔を浮かべて言うと、先生はうんうんとうなずいた。
「雨もいいことを運んでくるときがある。それを覚えとけよ、雨宮」
「はい!」
「引き留めて悪かったな、気をつけて帰れよ」
「はい、ありがとうございました、さようなら!」
・・・なんとなく元気がないのを、見てくれていたのかもしれない、久保先生は。
昔から雨はあまり好きではなかった。苗字に入ってるけれど、それがまた嫌で。
元の性格がおとなしいから、雨っていう文字が私をもっと暗くさせる気がしてた。
もうそんなことを思っていなかったが、なんとなくうれしい気分で昇降口に向かう。
靴を履き替えて、折り畳み傘をさそうとして______気が付いた。
「傘がない・・・」
そうだ。先週の金曜日も、同じように雨が降り出して、折り畳み傘を使ってしまった。
・・・家の前に置いてきたみたいだ。
はぁ・・・・と、深く深くため息をついて、手に持っていたブレザーでしのぐかと覚悟を決めて昇降口を
出たとき。
私の上に傘がさされた。
「・・・やっぱり。すばる傘持ってないでしょ?」
「・・・慎、待ってたの?」
「うん、すばるのことだから、傘持ってなかったら濡れて帰って、それで風邪ひくなぁ、と思ったから」
「・・・あはは、お見通しかぁ」
さすが慎だ。私の性格をよくわかっている。
「それに、傘もってたらもってたで一緒に帰れるしね」
格好良く笑った慎。私も笑いながら一緒に校門を出た。
帰る方向は同じだ。大通りに出たときさりげなく車道側によった慎。
自分の行動に自分で照れて、少し耳を赤くしている。
そんな慎を見て笑いながら、私は、今日一番、慎に話したかった話題を投げかけた。
「希望の湖、って知ってる?」
慎ならきっとこの話を、きちんと聞いてくれる。そして、いい話だね、と笑ってくれるはずだ。
今日は、少し嫌いだった雨に、幸せな時間をもらった日。