三十三話 孤島へ、再び
*1*
ゼオール兵が静かにミレナス近郊の領海で作戦行動を開始する中、リリィ率いる第三護衛部隊の三人はばば様の屋敷に集合していた。
相変わらずばば様はロウソクの灯りが灯る薄暗い部屋でキセルをふかしながら話をする。
「さて、リリィの体調も良くなったようじゃし、そろそろお前らにも資源釣りの仕事を再開してもらおうかのぅ。」
ばば様はニコっと笑みを浮かべ、もう一度キセルを大きくふかした。
怪我を負ったセランやリリィの一件もあり、ここ数日の間ミレナスでは真相解明と警戒態勢の為、資源釣りなどでの出航を一時休止していたのである。
その為、リリィは少なからず自分にも責任があると感じ、伏せ目がちに小さく話した。
「ばば様、私のせいでこんな事になってごめんなさい…みんなも、その、ごめん。」
その様子を見かねてか、トルザは大きく笑って応えた。
「ハハハッ!何をそんなにシケた顔してるんだ?むしろコッチは暫くの休暇で久しぶりにゆっくり休む事が出来たってもんだ!なぁ?カサハラ?」
笠原も、リリィやセランの容体が良くなった事だけが何より嬉しく安心していたので、トルザの様に笑って応える。
「そうだね、俺もこの期間にゆっくり釣り道具のメンテナンスが出来たし、何よりリリィ達の具合が良くなったって事だけで嬉しいよ。だからまた頑張ろう。」
二人の言葉、そして仲間としての想いにリリィはほんのりと頬を赤らめ、瞳を潤せ嬉しそうに笑ってみせた。
「ありがと、二人とも。」
ばば様はこの三人を優しく包み込む様に、ニッコリと笑ってゆっくりとキセルをふかした。
「ホッホッホっ…お前達を見ているとワシまで幸せな気分になるワイ。なかなか良ろしい事じゃな!ホッホッホっ。」
ここ数日の間、いくつかの不穏な出来事があったが、今この時にまた平穏で優しい日常が戻って来た様に感じていた。
そんな三人がばば様と談話をしていると、部屋の扉から小さくノックをする音がし、そのすぐ後にセランが扉を開けて部屋へやって来た。
「しつれ…します。」
まだ思う様に言葉を話す事が出来ないセランだが、何とか理解出来る程度ではあった。
「おぉ、セランや、待っておったぞ。どれ、身体の具合はいかがかの?」
ばば様は優しく言葉を掛けると、セランはペコリと一度頭を下げ、まだ覚束ない言葉で絞り出す様に話をする。
「しんぱい…かけ…した。もう、だいじょ…です。」
彼の様子を見て、一度は安堵の表情を浮かべ仲間の回復を祝った。
皆それぞれがセランに声を掛け、怪我の事や死んでしまった兄スランの事など、彼を心中を察する様に優しく接した。
その様子を見ていたばば様は、キセルをふかしゆっくりと口を開く。
「セランや、残念だが既に第五護衛部隊はお前しか残っておらん…。そこでだ、お前はこれよりリリィ達の第三護衛部隊と共に行動して貰いたいと思っておるが、、どうじゃ?」
リリィ達もばば様の提案に特に驚く様な事もなく、むしろそうして欲しいと言わんばかりに、セランに優しく微笑みを浮かべていた。
セランは一度俯き、だがすぐに顔を上げしっかりとした眼差しで皆の想いに応えた。
「はい…ありがと…ござます…。これから…よろしく…。」
今まで生まれつき言葉が発せない事もあり、普段から殆ど表情を変化させる様な事が無かったセランだったが、この時彼は皆の前でニッと笑ってみせた。
新たにセランを迎え入れた第三護衛部隊の皆の様子を見て、ばば様は今後の任務を命じた。
「それでは、今後のお前らには通常通りの資源釣りと、ミレナス近海の巡回警備をしてもらう。また、消息を絶ったペギーの手掛かりを詮索してもらいたいので、セランには少々酷かもしれぬが…最後に向かった孤島へ調査に行ってもらいたい…よいか?」
リリィ達はセランの様子を伺ったが、彼は迷う事なく凛とした表情で一度だけ頷いた。
「だいじょ…です。兄さ…のためにも…行かせてくだ…さい。」
そのセランの意志に応えるように、新しく絆を結んだ第三護衛部隊は堅い握手を交わし会った。
*2*
ミレナスの玄関口であるミレナス港には、今回の任務により新たにセランを加えた第三護衛部隊が集まっていた。
また、部隊のメンバーが一人増えた事により、シドラ船もそれに合わせて手を加える事となった。
通常のシドラ船は、動力として一匹のシドラが小型船を牽引するのであるが、新たに部隊員が一人増えた為に、亡きスラン率いる第五護衛部隊のシドラ船をリリィ達のシドラ船と結合し、双頭のシドラ船として今後の運用を決めたのであった。
リリィは二頭のシドラの額や頬を優しく撫で、穏やかな表情で言葉をかけた。
「ヒューイ、良い子ね。これからはティニーと一緒に頑張るのよ。」
セラン達の第五護衛部隊のシドラはティニーと呼ばれており、比較的お転婆なヒューイとは対照的におっとりとした性格のシドラである。
シドラは同種で争う習性は無く、生存の為にお互いの心を通い合わせ共存して行く、言わば人間が最も見習わなければならない習性を持っているのだ。
その習性もあり、ヒューイとティニーはお互いの頬を合わせたり長い首を絡ませ合ったりして意思の疎通を交わしていた。
それを見てホッとしたリリィは、一息置いてまるでスイッチが切り替わった様に隊長らしい威厳のある口調で皆に声をかける。
「皆、いい?これより新たにセランを加えた第三護衛部隊によるミレナス領海の警備任務及び、反逆者であり消息を絶ったペギーの捜査任務を行う。では、気を引き締めて行くぞ。」
そう言うと、リリィは軽い身のこなしで少し広くなったシドラ船に乗り込み、その後をトルザ、セラン、そして笠原の順に乗り込んで行った。
「ヒューイ、ティニー。それじゃあ、お願いね。」
リリィは二頭のシドラに小さく声をかけ、二本の手綱をクイっと引く。
すると二頭のシドラ達は頭を海中に潜らせ、普段の二倍程の力でグンっと船を引き、リリィ達を乗せた第三護衛部隊の小舟は白波を立て勢い良くミレナス港を発ったのであった。




