二十九話 光る鱗に潜む闇
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ばば様の屋敷には、怪我を負ったセランと先ほどまで意識を失っていたリリィがそれぞれの部屋で体を休めている。
そんな中、ばば様は笠原とトルザを自室へと招き入れ笠原の話を聞くためにゆっくりと腰を下ろしてキセルに火をつけ大きく煙を吐き出した。
「はて、カサハラ。話とは一体どんな事じゃ?」
ばば様はにっこりと笑みを浮かべながらも、その目の奥には事の異変を案じる様が映し出されていた。
そんなばば様に促され、笠原は静かに口を開く。
「…あの時リリィが俺と一緒に釣りをしていて、そしてリリィの竿に大きな魚が掛かりました。でも、もう少しという所でバレて…あ、逃してしまったんです。」
ばば様はそんな笠原の話を聞いて目を丸くして笑いながら驚いた。
「あの子が釣りを?それはそれは、随分と珍しい事じゃの!…あの子も変わったな。」
そんなばば様の様子にも、笠原は思い詰めた様子で視線を落とした。
「あれは多分、刻操魚…だと思います。」
”刻操魚”と言う言葉に、ばば様とトルザは驚きと動揺を露わにした。
「こ、刻操魚だって!?リリィが掛けた魚が、その、お前が探してる刻操魚だったってのかっ!?」
トルザは身を乗り出して笠原に問い詰めたが、ばば様がそれを制止する。
「トルザや、少し落ち着け。カサハラの話はまだあるのじゃぞ。」
トルザは大きな身体を小さく窄め、大人しく笠原の話を聞く姿勢に戻った。
「は、はい…すんません…。」
そしてトルザの様子を伺い、間も無く笠原は話を再開する。
「リリィが掛けた魚を逃してしまったあの時、ルアーの針に大きな光る鱗が付いていたんです。彼女はそれを触った瞬間、急に意識を失いました…。」
笠原の話に、ばば様もトルザも険しい顔をして黙ったままでいるが、笠原は更に話を続けた。
「まだ確信は持てませんが、あの光る鱗は刻操魚の鱗だと思います。俺が見た刻操魚と同じような光を発していました。」
その笠原の話の後、三人の間に暫しの沈黙が続いた。
「…なるほど。つまり、あの子は刻操魚による力の何らかの影響を受けて意識を失った。そう言う事がお前さんの見解じゃな?」
ばば様は笠原の話を疑うことも無く、理解を示した。
「はい、俺はそう思います…。何て言うか、あの時何処かで感じた様な胸騒ぎがしました。俺がまだこの世界に来る前の…ちょうど刻操魚を釣り上げる直前の時みたいな…そんな感じです。」
笠原の話を聞き、ばば様は大きくキセルを吸ってゆっくりと煙を吐き出し、少しの間を置いて口を開く。
「ふぅ…やはりリリィに直接聞いてみるしかないのぉ。あの子の調子が戻ったら、また話を聞くとするか。トルザ、カサハラ、ご苦労じゃった。また後ほど集まる事にしよう。」
そう言ってばば様はキセルの灰を小皿にポンと落とし、この話を終わらせた。
トルザと笠原はゆっくりと立ち上がり、ばば様に挨拶をしてこの部屋を出て行く。
二人が出た後、扉の閉まる音が小さく部屋に響き、ばば様はもう一度キセルに火を付けた。
「…何か、嫌な予感がするな。」




