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二十一話 少年の影

 

 *1*


 一人、孤島の波打ち際の岩場に立ち尽くすペギー。


 その(かたわら)には既に息絶えたスランの姿がある。


 ペギーの裏切りにより命を落としたスラン。そして重症を負いながらも何とか生き延びたセラン。


 いくらスラン達が油断していたからとは言え、ペギーの身のこなしは数日だけ訓練を受けた人間が成せる(わざ)とは思えない程であった。


 恐らく、正々堂々と戦ったとしてもその実力はスラン達と同等か、もしくはそれをも超えていたかもしれない。


 そんな実力を持った謎の少年ペギーは、何かを待つかのように岩場に立ち水平線を眺めていた。


「やっと来た。」


 ペギーの見つめる先に、一隻の大型の帆船がゆっくりとこちらに向かってくるのが見え、彼は陽気に手を振って見せた。


 その船上には数人の人影が見え、何やら武装した姿で物々しい雰囲気であった。


 その帆船がペギーのいる孤島に接岸し、動きを止めた。するとペギーは岩場をひょいひょいと軽い身のこなしで帆船へ向かい、大きな岩の上から船上の甲板に飛び移った。


「よっ…と。」


 見事な着地を見せたペギーは、その帆船にいる武装した男に向けてにっこり笑って見せた。


「ご苦労さま。でも、もうちょっと早く来てほしかったなぁ。」


 その武装した男は慌てた様子で言う。


「す、すみません。途中、舵の不具合がありまして…。」


 その男の話しに対し今まで微笑んでいたペギーの顔からスッと表情が消え、彼は小さく口を開く。


「…言い訳なんて聞いてないよ。」


 ペギーが剣に手をかけ瞬間、武装した男の前を白銀の刃がキラリと光りを反射させ通り過ぎる。


 するとその男の頭部がゴロリと音を立て甲板に転がり落ち、間も無くして首から下の体が崩れ落ちるように倒れた。


「使えない奴だな、まったく。あ、邪魔だからそいつは海にでも放り投げて魚の餌にでもしておいてね。」


 ペギーはまたニッコリと微笑み、武装した他の男達に言い捨てた。


 その他の男達は慌てふためき、首を落された者の処理をし始める。一人の男は頭部を拾い上げ、他の男達は頭のない首から(おびただ)しく血を流した胴体を持ち上げると、海へ放り投げた。


 その様子をペギーはニッコリと見ながら非情にも明るく振る舞う。


「うんうん、それでよろしい。」


 このペギーと言う少年は、人の命を奪う事に対して何も感じず、躊躇無く剣を振りかざす。


 自分の思い通りに行かなければ、それを排除する事に生き甲斐を持っている人格の持ち主であった。


 そんなペギーに、他の男達は心底恐怖していた。口ごたえも出来ず、ただペギーの機嫌を損ねない様にするのに必死であった。


 そんな男達が甲板の血を洗い流していると、何処からともなく一羽の鳥が飛んで来てペギーの腕に止まった。


「伝令、ご苦労様。良くやったね、ウィグ。」


 その鳥は小さな鷹の様な姿をしており、ペギーの相棒のウィグと言う名前である。良く訓練され、主に伝令役を担っていた。


 ペギーはこの伝令役の鳥、ウィグを使って誰かに状況の密告をしていたのだ。


 それはペギーがミレナスにいる時も、そしてスランやセランと共に任務を遂行していた時もだ。


 初の任務が終わり、孤島でペギーが忘れ物を取りに戻った際にセランが見かけたあの一羽の鳥が、紛れも無くこのウィグであった。


 そんなペギーはウィグを肩に乗せ、武装した男達に向けいつもの普通の少年の様なあどけない笑顔で言う。


「それじゃあ、戻ろっか!」


 その言葉にキリッと背筋を伸ばした男達は、急いで出航の準備をした。


 そして天へと真っ直ぐに伸びるマストにビシっと張られた大きな帆が風を受け、帆船はゆっくりと動き出す。


 ペギーは船首に立ち、水平線を見つめながら大きな声を上げた。


「ゼオールに向けて、出発進行っ!」




 *2*


 ペギー達を乗せた帆船は程なくしてゼオールの城壁門へと到着した。


 空気を震わせるほどの轟音と共に城壁の門が開くと、帆船がゆっくりと門をくぐった。


 船首に立ち、その巨大な城壁と門を見つめるペギーが大きく伸びをしながら言う。


「いやぁ、久しぶりだなぁ。最後に見たのは…4、5年前くらいかな?」


 ペギーは少しだけゼオールの懐かしさに浸って辺りを見回していた。


 そんなペギーを乗せた帆船は城壁内の桟橋へと停泊し、武装した男達がタラップを降ろした。だがペギーはそれを使わずに軽い身のこなしで船上から桟橋へと飛び降りる。


「あらよっ…っと!」


 見事な着地を見せたペギーは、他の男達に早く来いと言うジェスチャーをして促した。


 久しぶりのゼオールに少々機嫌が良い様で、ペギーは至って年頃の少年の様な素振りでいた。


「ほら、早く!急いで王の所に行くよ!」


 ペギーは武装した男達、すなわちゼオールの兵士を連れて、王のいるゼオール城へ急いだ。


 帝都ゼオールの街は、ミレナスとは違い立派な石造りの高い建物が無数に建ち並び、人々は活気に溢れそれはまるで笠原のいた世界の街並みと良く似ていた。


 その高い建物の先にある城壁の奥、そこに更に巨大な城砦造りの建物が見える。それがゼオール城だ。


 ペギーとゼオール兵達はそのゼオール城に向けて真っすぐ歩いていた。


「しばらく見ないうちに、ここもずいぶんと変わったなぁ。」


 ペギーがゼオールを離れたのは約4年半ほど前、彼が12歳の時であった。


 彼はまだ今よりももっと幼い頃から剣術、武術の訓練をしており、10歳の頃には既に他の兵士と対等にやりあえる程の技術を習得していた。


 その高い技術を王であるゼオリウスに見込まれ、王直属の兵士として特別な扱いを受けていたのだ。


 その為、幼い頃から他の大人の兵士よりも高い地位に立つことが出来、今のわがままな性格や傲慢な態度を示すようになって行った。


 だがある時、王の前に遥か遠い国の使者がやって来たのだ。


 そう、それはミレナスより和平調停の申し立てをしに来たフィリィやリリィ達であった。


 そして王ゼオリウスがフィリィの命と引き換えに和平調停を結んだ後、密かにある命令をペギーに伝えた。


 それはミレナスにスパイとして潜り込み、新たにゼオールの脅威になりうる勢力が発足しないか、そしてまたミレナス内部の情報を探る任務を遂行する事であった。


 王ゼオリウスは、まだ幼い少年のペギーであれば、たまたま漂流して来た難民として疑われ難いと踏んだのだ。


 そしてペギーは難民としてミレナスに潜伏する事になる。そんな彼が16歳になった頃、ある出来事があった。そう、別の世界からやって来た笠原の出現だ。


 ペギーは潜伏中にミレナスの歴史を探り、遥か昔に別の世界から来た人間によりミレナスが大きな影響を受けた事を知っていた。


 それと同じ様に、別の世界から来た笠原に対してペギーはなんとも言えない胸騒ぎを感じて、急いで伝令鳥のウィグを使い王ゼオリウスに笠原の事を報告したのであった。


 その密かにスパイ活動をしていたペギーの報告により王ゼオリウスは笠原の出現を脅威と感じ、詳しい事情を聞く為にペギーを呼び戻す事にした。


 そして今、こうしてペギーは数年振りにゼオールへと帰還したのであった。


「相変わらずでっかい城だなぁ。」


 ペギーとゼオール兵は巨大な城砦の大門(だいもん)の前に立ちならび、守衛の者に門を開けさせた。


 少しして、地響きがする程の大きな音を立て大門がゆっくりと開く。


「お待ちしておりました…おや?しばらく見ないうちにずいぶんと立派になられましたなぁ、ペグリウス様。」


 門の向こうから長い口髭を伸ばした一人の老人がペギーを出迎えに来て、ニッコリと笑っていた。


「あっ、セス!久しぶり!よかった、相変わらず元気そうだね。」


 その老人はセスと言い、王ゼオリウスの相談役であり王族の子守も兼ねている人物でもある。両親のいないペギーがまだ幼い頃に親代わりとして面倒を見てきたので、久しぶりの再会に両者とも嬉しそうであった。そんなセスが口髭を触りながらニッコリと笑って口を開く。


「私もまだまだ元気ですぞ。ペグリウス様も相変わらずお元気そうで何よりです。さぁ、お疲れでしょう。中へ入って少し寛いで下され。後の兵の者達もご苦労であった。あとは私に任せてしばし休息を取るが良い。」


 するとゼオール兵達は背筋をピッと伸ばし、一度敬礼をしてその場を去って行った。


 そしてペギーとセスは門の中へ入って行き、また大門が大きな音を立ててゆっくりと閉まった。

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