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十三話 腹ごしらえ

 

 *1*


 四日間に渡る訓練が無事に終わり、笠原達は屋敷の広間に集まっていた。


 そこでペギー達の部隊と明日からの資源釣り任務の健闘を讃え合って、笠原は彼らと別れを告げた。


「じゃあ、ペギー君。明日からの任務、頑張ろうね。」


「はい、カサハラさん。今度は釣った魚の大きさで勝負しましょう。次は負けませんよ。」


 そう言ってペギーは少年らしい笑顔を見せて去って行った。


 リリィ、トルザ、そして笠原の三人は明日からの資源釣りに関して少し打ち合わせをする為屋敷に残っていた。


 すると小さな音を立てばば様が扉を開けこちらにやって来た。


「ほほぅ、なかなか良い仲になったものじゃのぅ。」


 ばば様は笠原達三人の様子を見て優しく微笑んでいた。


 その様子に気づいたリリィが少し明るく話をした。


「あ、ばば様!彼、なかなか上達が早くてこれなら資源釣りの任務を遂行しても問題無さそうです。」


 リリィは少し嬉しそうだった。普段あまり見せないそんな表情に、ばば様もトルザも内心驚いていた。


「そうかい、そうかい。そりゃぁ良い事じゃ。どれ、カサハラ殿。ちょっとこっちへおいで。」


 ばば様が小さく手招きをしたので、笠原はばば様の元へ寄った。そしてばば様は笠原に静かに話しかけてきた。


「カサハラ殿。お前さんがこれから行う任務は命の危険をも伴う、重要な任務じゃ。リリィやトルザの様に護衛部隊が一緒だが、危険なのは皆同じ。どうか、お前さんも皆の事を守ってくれ。そして、必ず皆でここに帰ってくるのを約束してくれ。」


 そう話すばば様の目は、いつに無く真剣だった。確かに資源釣り師がい無くなればここミレナスの資源も取れ無くなる。だがそれ以上に、人の命があってこそだと言うばば様の強い思いがそこから伝わって来た。


 そのばば様の思いに対し、笠原も真剣に受け止め、約束の言葉を交わした。


「はい、ばば様。皆で力を合わせて必ずここに帰って来ます。」


 ばば様はそんな笠原の言葉に、無言で優しく笑いその場を去った。


 そしてその後、明日からの任務の説明を受けリリィは一旦解散する事を告げ、屋敷を出て行こうとした。


 その時、笠原はリリィを呼び止めた。


「あっ、リリィさん!ちょっとまって!」


 リリィは足を止め、笠原の方へくるりと振り返った。


「どうしたの?まだ何か用?」


 あどけな表情をしたリリィに向け、笠原はちょっとだけ照れながら告げた。


「あ、あの…訓練、ありがとうございました。」


 するとリリィはクスっと笑い、笠原に対して明るく振舞った。


「私からすれば、まだまだだっケドね。でもまぁ、良く頑張ったわ。認めてあげる。あと、これからは”リリィ”でいいわよ。アナタの方が歳上なんだし、何か敬語使われると気持ち悪いわ。」


 そう言って可愛らしい笑顔を見せ、リリィはこの屋敷を出て行った。去り際に見せたあの笑顔が、笠原の胸をツンと小さく突いた。



 *2*


 屋敷には笠原とトルザの二人が残り、これからどうしようか話していた。


「さて、無事に訓練も終わった訳だし、親睦も含めて一緒に飯でも食いに行くか!」


 そのトルザの誘いに笠原は二つ返事で気前よく返した。


「良いですね!行きましょう。」


「ヨシっ、決まりだな!はははっ!」


 笠原とトルザは最後にばば様に挨拶をし、屋敷を出て行った。


 ちょうどお昼時、街には良い匂いが漂っている。笠原はまだこの街の事をあまり知らないので、トルザの後について行った。そしてトルザは一軒の店の前で立ち止まり、ニコッと笑って親指で店を指差した。


「ここが俺の行きつけの店だ。とにかく量が多くて味も文句無し。何でも好きなもの食えるぞ!」


 そう言われて笠原の腹がグゥっと鳴った。思えばこの四日間、屋敷で貰えた軽食の様な物しか食べていなかったので、今の笠原にとって量が多いという点では非常に魅力的であった。


「いやぁ、楽しみだ。早く入りましょう。俺、腹ペコです。」


 そんな笠原の様子にトルザは大きく笑い、二人はその店へと入って行った。


 席に着くなり、トルザは店員の女性を呼び慣れた口調で注文をした。その女性店員も、いつもの事かの様に軽く笑って店の奥へと入って行く。


「トルザさん、ここの常連さんなんですか?」


 笠原の問いにトルザはニカッと笑い腕を組んで自慢げに頷いた。


「まぁな。俺がまだ20代の頃から通い続けいる。もうそろそろ15年になるかな!はははっ!」


 トルザの話を聞く限り、やはり歳は三十後半と言った所だろう。そう笠原は思ったが、今となれば歳などあまり関係ない事だ。ましてやリリィの様な若い女性やペギーの様な少年ですら命懸けの仕事をしているのだから。


 そんな事を考えていると、二人のテーブルの中央にに大量の食事がドサッと運ばれて来た。


 焼き魚や野菜の炒め物、揚げ物や白米、そしてスープなどもありとても豪勢な食事であった。


「さぁ!たんと食うがいい!明日からの任務に備えてエネルギーを蓄えておかないとなっ!」


 トルザはその大量の食事を前に、勢い良く食べ始めた。笠原もかなりの空腹だったので、遠慮なく食べる事にした。


 二人はしばらく世間話や任務の事を話して食事を楽しんだ。だが、笠原のちょっとした疑問に食事をしているトルザの手が止まったのだ。


「そう言えばトルザさん。野人(のびと)って武器まで使ってくるんですか?あ、ほら。訓練でやった剣術って相手の剣を薙ぎ払ったり躱したりするじゃないですか。」


 トルザは手に持つナイフとフォークを置いて、先ほどの彼からはまるで別人の様な険しい顔つきになって、重たい口を開いた。


「…いや、野人は武器を持たない。武器を持つのは、人間だ。」


 何やらまずい事を言ったかと思い、笠原もナイフとフォークを静かに置いて黙り込んだ。


 しばらくの沈黙の後、トルザは真剣な表情で笠原に語りかけて来た。


「まだ、話してなかったな。単刀直入に言うと、俺達の敵は野人だけでは無い。人間もだ。」


「人間も…ですか…。」


 笠原はこれからの任務を遂行する上で、もしかしたら自分が他の人間を殺すかも知れないと言う事に、恐怖を覚えた。


「そ、その人間って、どんな人なのでしょうか…。」


「何度か聞いた事があるかもしれないが、その人間とは帝都の兵士だ。」


 その”帝都”と言う言葉を聞き、笠原はハッと思い出した。そう、あの無人島で気を失っているの時にリリィとトルザが言っていた言葉だ。


「一体、”ていと”って何なのですか?」


 笠原の問いに、トルザは答える。


「これから話す内容は、今のミレナスが抱える現状と、リリィに大きく関わっている。仲間であるお前にも、この事はしっかりと知っておいて欲しい。」


 そしてトルザは帝都についてゆっくりと話し始めた。





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