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十一話 剣術訓練

 

 *1*


 屋敷に集まった笠原達は、他の護衛部隊メンバーとの顔合わせを終え、リリィによる資源釣りに関しての新しい規定の説明を受ける事となった。


 そしてリリィは、新しい資源釣り師の笠原とペギーに向け、その規定の説明をし始めたのである。


「まず、今回の新しい規定とその経緯を説明する。」


 笠原とペギーは大人しくリリィの話を聞き、そしてそれは簡潔に約10分程度で終わった。


 リリィの話によると、新しい規定とはこういう事だった。


 ーーこのミレナスでは護衛部隊や討伐部隊以外の人間は武器の所持が許されなかった。それは同じ部隊の資源釣り師も同じである。


 だが近年、野人などの襲撃により資源釣り師の殉職が目立ちつつあり、ミレナスでの資源釣り師が年を追うごとに減少している状況なのだ。


 資源釣り師が減ればそれに比例してミレナスの資源も減る。行く行くは資源の枯渇問題が原因でこのミレナスの衰退も懸念された。


 その事もあり、今回新しい規定を定める事とし、護衛部隊や討伐部隊の他、資源釣り師にも武器の所持が認められる事となった。


 その理由として、敵の襲来に対し護衛部隊でもまかない切れない時の為の”自衛手段”としての武器の所持である。


 従って、新任の資源釣り師は任務開始までに一通りの剣術、そして武術を会得してもらう事となった。


 これが今回の新しい規定の内容であるーー。


「…と、いう事だ。お前達二人にはこれから四日間、この本部で昼夜問わず訓練を受けてもらう。我々護衛部隊の不甲斐なさは重々承知の上だ。こちらとしても万全なサポートをする事を約束する。以上だ。」


 そう言ってリリィは小さくお辞儀をし、また元いた椅子に足を組んで座った。


 すると寡黙な男、スランの弟のセランが(さや)に納められた二本の(つるぎ)を持って笠原とペギーの元へやって来た。


 その剣は比較的短く、刀身(とうしん)はおよそ60センチ程で取り回しの良い剣であった。セランはそれを無言で二人に授けた。


 笠原とペギーは初めての武器に、少々困惑した面持ちで受け取った手が震えていた。


「あれ…ず、ずいぶんと軽いんですね。」


 その剣は見た目からは想像も出来ないほど軽量に仕上げられていた。また鞘に納められている事を考えると、この剣は片手で難なく振り回せる程の軽さである。


 ペギーはその若さ故に、興味本位で剣を鞘から抜こうとした。するとそれを見ていた兄のスランがペギーを制止した。


「待て、ペギー。それは単なるおもちゃじゃないぞ。皆のいるここで剣を抜く事は禁止する。いいな?」


 ペギーはスランに厳しく言われ、慌てて剣を抜こうとしていた手を離した。


 その様子を見ていた笠原は、スランの事をただ陽気な男と言うだけでは無く、自身の立場をしっかりとわきまえている大人なのだと感じた。


 そのスランが笠原の視線に気づいたのか、またニコッと笑って話しかけてきた。


「と言うわけで、カサハラさんも有事の時以外は剣を抜かないよう、お願いしますね。」


 笠原は一度頷き、そっと剣を下ろした。


「さぁ、では訓練を始めましょうかね!リリィさん、トルザさん、宜しいですか?」


 スランはリリィとトルザに確認を取るように話しかけ、それに合わせトルザが頷き、リリィは椅子から立ち上がりこれから始まる訓練の概要を話した。


「それではこれより資源釣り師の自衛術の訓練を行う。教官は各々の部隊の二人だ。カサハラは私達、ペギーはそちらの二人から学べ。これから四日間、この本部にて寝泊まりをして基本的な剣術と武術を学んでもらう。その訓練が終わり次第、資源釣りの任務を遂行する。では、カサハラは私達について来い。ペギーはそちらの二人の指示に従う様に。以上だ。」


 そう言って、リリィとトルザは笠原を部屋の奥にある訓練所へ案内した。



 *2*


 リリィ、トルザの後に続き笠原は部屋の奥の扉を抜けた。


 そこには小学校の体育館程の広さを持った訓練所があった。その訓練広間には様々な木製器具が設備されており、おそらく筋力トレーニングなどをする為の物であろうと推測出来る。


「うわぁ、こんな所もあったんですね。」


 笠原は物珍しそうにその訓練広間を見渡した。その様子を見てトルザが話しかける。


「これからこの訓練所でお前を鍛える。とは言っても、基本的な戦術だけだがな。何せお前は釣り師だ。戦士になれと言う訳では無いからな。だが、ある程度キツイ訓練になるから覚悟しておくんだぞ?はははっ。」


 トルザは笑いながら言ったが、笠原はそんな訓練など今まで一度もした事が無い為、少し緊張していた。だが仕事柄、時に険しい自然溢れる様々な釣り場に行く為、体力には自信があった。


「ちょっと不安ですが、頑張ってみます。」


 するとリリィがマントを脱ぎ、訓練を始める準備をし始めた。


 リリィの体は思いの外小さく、一見すると普通の女の子の様に見えた。だが、鍛えられて引き締まったその体からは、戦士としての風格が漂っている。


「さ、お喋りはここら辺で終わりにしてそろそろ始めようか。トルザ、まずは私が剣術の基礎を教える。お前は体術を教えてやってくれ。」


「了解です!じゃあ、俺はちょっとそこで見てるから、怪我しないように頑張れよ!カサハラ。」


 トルザは軽く手を振り、その場から離れた。そしてマントを脱いで軽装になったリリィは腰に携えている二本の剣のうちの一本をスルリと抜いた。


「じゃあ、まずはその剣の鞘についている紐を解き、腰に巻くんだ。利き手で剣を抜ける位置で構わない。」


 そう言われて、笠原は鞘に巻き付いた紐をスルスルと解き、左側の腰に巻きつけた。


「こ、こうですかね?」


 笠原は言われたまま見よう見まねで剣を腰に携え、何とか形になった様な気がした。


「まぁ良いだろう。では、剣を抜いてみろ。言っておくが、本物の剣だからな。」


 リリィにそう言われて、笠原は緊張した手つきで剣の(つか)を握り、そしてゆっくりと剣を抜いた。


 鞘から鋭く光る白銀の刀身が現れ、笠原の顔を映し出した。


「うわぁ、綺麗だ。そして軽い。これなら俺でも扱えるかもな。」


 その白銀の剣は金属の様な重さはなく、まるでプラスチックで出来た様な軽さであった。


「いいか、この剣は資源魚である鋼魚(はがねうお)を加工して出来ている。この加工方法は工房の主人にしか出来ない。そして何より素晴らしいのは、鉱物から作られるどんな金属よりも硬く強い事だ。」


 リリィの言葉に、笠原はふと工房の主人であるカルノの事を思い出した。


「カルノさんですね。俺、昨日会って来ました。とても良い人ですね。それと…アルノさんの事も聞きました…。」


 その笠原の言葉に、リリィは少しだけ視線を落とした。


「そうか…。」


 何とも言えない雰囲気が二人の間に広がる。リリィは守りきれなかったアルノの事を未だに気にしている様子であった。


 それに気づいた笠原は、その場の空気を変える為に少し明るく振舞った。


「じゃあ、早速教えてください。なんならリリィさんより強くなって俺が守ってあげますよ!」


 その言葉にリリィは軽く鼻で笑い、今まで一度も見せなかった笑みをこぼした。


「フッ…言ってくれるじゃない。まぁ私より強くなるには百年以上かかると思うけど。」


 いつもクールだったリリィが見せたそんな表情に、笠原は少しばかりの安心感を覚えた。


 笠原のいた世界で、普通ならリリィくらいの歳の女の子はオシャレをして街でショッピングを楽しんだりしている頃だ。だがこの世界ではリリィやペギーの様に若者が命懸けの仕事をしている。その為か、先程の様なリリィの可愛らしい笑顔を見ると、どんな世界でも若者は若者らしくいる事に変わりはないのだと思った。


「じゃあ、始めるわよ。まずは剣の握り方から。」


 そう言ってリリィは自分の握る剣を笠原に見せた。


「手首は柔らかく、小指の方に力を入れて握る。どう?わかる?」


 普段は釣り竿ばかり握っている笠原だが、何と無くそれと似ている感覚であったのですぐに剣を握る事に慣れた。


「こ、こうですね?何と無く分かります。釣り竿の握り方とほとんど同じ感じだな。」


 それを見て、リリィは自分の剣を慣れた手つきでクルリと回し、余裕の表情を見せた。


「まぁ握り方なんて誰でもすぐに覚えられるわね。じゃ、これから基本的な剣術を教えるわ。」


 そしてリリィと笠原は、この後数時間程の剣術の訓練をした。


 リリィの動きを見て、笠原もそれに続ける。剣の振り方、手返しの作法など、時に厳しくその訓練を繰り返す。


 もうアルノの様な犠牲者を出したくないと言う、リリィの思い。


 そして、若いリリィにアルノの事の様な後悔をさせたくないと言う笠原の思い。


 その二人の気持ちが剣を握る手に宿り、一振り一振りに思いを乗せる。


 次第に滲んでくる汗が時折飛び散り、キラキラと輝いていた。


 その二人の様子を離れた場所で見ていたトルザは、穏やかな笑みを浮かべで二人を見守っている。


「なかなかイイ感じじゃないか。あの二人。フフッ。」


 こうしてこの剣術訓練は数時間にも及び、既に昼を過ぎた頃にまでなっていた。



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