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空色少年物語  作者: 青波零也
第一部 空色少年と賢者の行方
87/131

18:鏡の中の道化師(1)

 『機巧の賢者』ノーグ・カーティスの忠実な部下……道化の少女ティンクルは、まるで重さがないかのように、天井近くで一回転してセイルの前に下りてくる。

 しゃらり、耳の奥底にまで響く鈴の音。

 その音に導かれるように、驚きに固まっていたセイルの思考も回転を始める。シュンランを守らなければ――まず頭の中に浮かんだのはそれだった。シュンランの手を咄嗟に握り締め、一歩前に出てティンクルの視線を遮る。

 そんなセイルの姿を一瞥したティンクルは、あからさまに表情を歪めた。青と黒のちぐはぐな色をした瞳を細め、ぷうと白塗りの頬を膨らませる。

「騎士様気取り? そんなことしたって無駄無駄」

 ティンクルも、鈴の音を引きながら一歩前に。彼女の手には初めて出会った時にも見た真っ赤な鞄が握られている。丸みを帯びた形は、心臓を意匠化したものだと気づく。一体、その鞄の中には何が入っているのか、セイルは緊張で心臓が高鳴るのを感じながらも、体の隅々まで意識を行き渡らせる。いつでも、シュンランの手を引いて飛び出せるように。

 その時、ディスが低く鋭い声を投げかけてきた。

『……待て、セイル。気づかねえか』

 気づく? と言いかけて、はっとする。

 ここは店の中、自分たち以外の人の姿だって当然ある。けれど、その誰もが突如として現れた鈴の道化師に気づいた様子もなく、その場を行き過ぎていく。これだけ目立つ見かけをしているのだから、一度目に入ってしまえば絶対にそちらを見ずにはいられないというのに、だ。

 この感覚は、初めてではない。セイルは旅立った頃の記憶を思い起こす。

 街中で、シュンランを追って来たチェインと対峙した時。その時も、一瞬前まで自分の空色の髪をじろじろ見ていたはずの通行人が、急に「そこにセイルがいることに気づかない」ように通り過ぎていくようになったのだ。あの時はチェインが張った『結界』の魔法の効果によるもので、それに気づいていたブランが一時的にでも打ち破って見せたのだった。

 だが、今は。

「セイル?」

 後ろから、訝しむようなチェインの声が聞こえる。

「突然どうしたんだい、そんな怖い顔して」

 ……チェインも、気づいて、ない?

 ちらりと後ろを見ると、チェインとブランは呆然とセイルを見ていた。何故セイルが急にシュンランの手を引いたのか、わかっていないようであった。どうして、と思いかけたところで、鈴の音に合わせて声が響く。

「ワタシは何処にもいないもの。誰にも気づかれない、誰の目にも留まらない、だってワタシは何処にもいないもの」

 それは呪文のようで、歌のようでも、あった。節も拍子もない、ただの呟きでしかないはずのそれは、セイルの耳の奥の奥まで染み渡っていくようで――

 そのままティンクルの声に聞き入りそうになっていたセイルを現実に引き戻したのは、片手を強く握り締める感覚だった。はっとして、繋いだ手の先を見る。背中に庇ったはずのシュンランは、いつの間にかセイルの横に立っていて、すみれ色の瞳で真っ直ぐにティンクルを見据えていた。

 シュンランには……見えて、いるのだ。

 極彩色の道化師が。誰の目にも留まらないと嘯く、鈴を鳴らす少女が。

「違います」

 凛、と辺りに響き渡るのはこれもまた鈴の鳴る音色に似た、声。けれど、ティンクルの放つ騒々しい無数の鈴の音とは違う、単音の、ただ真っ直ぐに空気を貫く声。

「あなたの言葉は間違いです、ティンクル」

 言葉を切り、すうと息を吸って。

「あなたは、ここにいます」

 きっぱりと言葉を放ったその瞬間、空気が、震えた。シュンランを中心に、声が見えない波となって駆け抜けていくのを、セイルは肌で確かに感じていた。

 いや、それはセイルにしか感じられないものだったのかもしれない。周りに飾られた服はその空気の震えに合わせて揺れることもなく、通路を行く人の様子だって変わらないままだったから。

 ただ、シュンランが言葉を放った瞬間に、目には見えない何かが起こっていたことは疑いなかった。

 その証拠に、

「……なっ」

「ティンクル! アンタ、いつからそこにいたんだい!」

 ブランとチェインの驚愕の声が唱和する。どういう仕掛けかセイルにはわからなかったが、シュンランの言葉がきっかけになって、二人にもティンクルの存在が認識できるようになったのだ。その様子を見たティンクルは、両腕で赤い鞄を握り締め、黒く塗った唇を噛んでシュンランを睨みつける。

「『歌姫』……っ!」

 ティンクルの唇から漏れたのは、呪詛にも似た低い声だった。シュンランは背筋を伸ばし、あくまで毅然として真正面からティンクルの瞳を覗き込む。握った手から伝わってくるのは、決して恐怖ではない。細い指でしっかりセイルの手を握り、己の両足で立つシュンランの姿には、強い決意がみなぎっていた。

「ティンクル! わたしは逃げも隠れもしないです。わたしを連れて行こうとするなら、遠慮なく来ればいいです。しかし」

 青い花を咲かせた白い髪を揺らし、シュンランは静かに、それでいて奇妙な凄みのある声を放つ。

「セイルが、ブランが、チェインがわたしを守ってくれると、信じています。それに、わたしも、守られるだけではないです」

 そっと胸に片手を添えて――

「わたしは、歌います」

 怒りのようにも、恐怖のようにも見える奇妙に歪んだ表情を浮かべるティンクルの前で、シュンランは己の言葉で宣言する。

「わたしを、わたしの思いを守ってくれる、仲間のために。そして何よりも、セイルたちを守りたいと思うわたしのために」

 それは……セイルも知らなかった、シュンランの偽らざる決意だった。

 シュンランはこの旅の中で、癒す目的以外でその力を振るうことはほとんどなかった。出来る限り、歌うことを避けようとしていたことは、セイルもよくわかっていた。シュンランの『歌』は……シュンラン自身にもわからないほどの、強大な力を秘めていたから。

 きっと、言葉にはしなかったけれど。シュンランはずっと、悩んでいたのかもしれない。これだけの力を持ちながら、ただ守られるだけの自分に疑問を覚えていたのかもしれない。セイルが今まで悩み続けていたように、シュンランにもシュンランの葛藤があったのだ。

 いつも笑顔を浮かべ、どんな時にでも決して己を見失わずにセイルに指針を示してくれている。それだけでセイルにとっては十分だったけれど……シュンランは、セイルと同じように、己の足で立つことを選んだのだ。

 その時、振り向いたシュンランと目が合った。シュンランはすみれ色の瞳を大きく見開いて、それから、ふわりと笑った。セイルの大好きな、蕾が開いて鮮やかな色を広げるような、そんな笑い方で。

「セイル。もう、守られてばかりはおしまいです」

 温かな繋がりを確かめるように、ぎゅっと手を繋いで。

「わたしも、戦います。わたしの望みが叶う時までは」

 本当は、止めたかった……ブランではないが、そんなことを思わずにはいられない。何もシュンランが戦うことはないのだ。シュンランは何をしたわけでもない、ただ自分でも何であるのかわからない『棺の歌姫』としてそこにいて、不思議な力を持っていて、何故か『エメス』に狙われている、というだけ。

 だから、シュンランが戦うことはないのだ。あえて己を危険にさらす必要などなく、自分やブラン、チェインに任せてくれていればいい。それでいいのだ、と言ってしまいたくなるけれど、その言葉は喉の奥に飲み込む。

 セイルにはシュンランが戦うと言った気持ちもわかる気がしたから。

 己の力で目の前に立ちはだかるものに抗いたい、そう望んでいたのはセイルも同じだったから。

 それならば、今、セイルのすべきことは一つ。

 握った手を、固く握り返す。

「……うん。戦おう……一緒に」

 そこにあったのは、もはや不安ではなかった。今度こそ共に歩んでいけるという、喜び。

 セイルはその力強さを胸に、顔を上げる。セイルとシュンランの様子をじっと見つめていたティンクルの顔に、今まで見てきた人を小馬鹿にしたような笑顔は無かった。青と黒の瞳の奥底に揺れるのは……静かな苛立ちの炎と、セイルにはわからない、何か。

 ティンクルは、赤い鞄を胸元に引き寄せて、両腕で抱きしめる。そして微かに俯いて、掠れた声で呟いた。

「どうして」

 セイルには、そう聞こえた。

 けれど、次の瞬間にはティンクルはぱっと顔を上げて、満面の笑みを浮かべる。だが、それは決して晴れやかな笑顔ではなく、ぐるぐると渦巻く暗い感情を押し込めた、空っぽの笑顔に見えた。

「そうだね、ノーグ! ワタシのお仕事は、シュンランを連れて行くことだもんね! 大丈夫、ワタシ、出来る子だもん!」

 何処か調子の外れた甲高い声を上げて、ティンクルはぎゅっと赤い心臓を抱きしめる。

「だから、ノーグの邪魔をする人は、みんな、みんな、いなくなっちゃえばいいんだ。そうだよね、ノーグ。ワタシ、間違ってないよね」

 その声音が、急に低くなって。

 セイルとシュンランは身構える。ティンクルが動くと思ったのだ。ティンクルが背を向けている鏡張りの壁越しに、ブランとチェインがいつでも動けるように体勢を変えたのもわかった。

 けれど……動いたのは、ティンクルではなかった。

 突然、ティンクルが背にしていた鏡が姿を変えて、無数の腕となってセイルたちに襲い掛かった。思わぬ攻撃にセイルもシュンランも、そしてブランとチェインも正しく反応することが出来なかった。

 いや、出来たとしても、爆発的に広がって檻のように退路を断つ鏡の腕から逃れられたとは思えなかった。呼吸も許さぬ速度で、セイルの腕が、足が、腕に絡み取られる。そして視界が突如金色に染まって……

 かろうじて手を繋いだままであったシュンランが、唇を開いたところまでは、見た。その先にあったであろう歌声を、耳が捉えることは無かったけれど。

 

 

 ――なあ。

 頭の中に響く、声。

 少年のような、高く明るい音色。

 ――俺さ、空を目指してんだ。

 そんな言葉を、記憶の中の誰かが言っていた気がする。あれは、誰だっただろう。とても近しい、大切な人だった気がする。分厚い硝子の向こうから覗くのは、いつだって澄んだ、何処か冷たい色をした瞳で……

 そこまで思い出したところで、何かの掛け金が外れたかのように、記憶が溢れ出す。

 灰色の空に向かって聳える灰色の何か、不思議な形の服に身を包んだ人影が行き交う廊下、銀色の機巧に囲まれている白い部屋。

 これは……何処だ?

 セイルは自問する。こんな風景、自分は知らない。自分の世界は林の中の家と今までの旅で訪れた場所、それが全てだ。

 なのに、何故。

 この風景を「懐かしい」と感じてしまうのだろう……

 セイルは風景に向かって手を伸ばす。その中に、セイルの知っている姿を見た気がしたのだ。すみれ色の瞳で笑う、白銀の髪の少女。いつも側にいて手を繋いでいる、大切なひと。自分がここにいる理由を教えてくれた……

 

 

 セイル。

 セイル。

 呼び声が聞こえる。少年のような、高く明るい音色。

 そうだ、自分はこの声を知っている。これは――

『セイル!』

 頭の中に響く声に、はっと目を開く。気づけば、セイルは今までと同じ女性ものの服の売り場に立ち尽くしていた。そして、声が体の中に潜むディスの声であったということに、一拍遅れて気づいた。何故なら、今、セイルの頭の中に浮かんでいたのは別の人物であったから。

 ――そっか。そうだよ。

 何故、今まで気づかなかったのだろう。

 大丈夫か、と呼びかけてくるディスの声を聞きながら、ぎゅっと胸元を握り締める。

 ――これは……兄貴の声だ。

 今までにも、ディスが放つ声が妙に記憶に引っかかることがあった。その理由が、今になってやっとわかった。

 喋り方の癖や感情の篭め方こそ違うが、ディスの声は、兄であるノーグ・カーティスの声によく似ていたのだ。この不思議な符合に驚きながら、先ほど聞こえてきた声と垣間見えた風景のことを考えようとして……

『セイル、人の話聞いてんのか!』

「あ、ご、ごめん」

 ディスの声で、現実に引き戻された。

 そうだ、ぼうっとしている場合ではない。一体何があったのだろう。いきなり鏡が形を変えて襲い掛かってきて、それからの記憶が無い。ぱっと見る限り何も変わっていないように見えるけれど、何となく違和感があった。

「……静かだ」

 ぽつり、落とした声がやけに耳に響く。

 自分が立っている場所は、百貨店の中であったはずだ。だというのに、やけに静かだ。人の姿は見えず、声も音楽も聞こえない。完全なる静寂の中、セイルはたった一人で立ち尽くす。

 一人、で?

「そうだ、シュンランは!」

 慌てて周囲を見渡すけれど、今までその手を繋いでいた白い少女の姿は見えない。それどころか、側にいたはずのブランやチェインの姿もない。ティンクルが彼らに何かを仕掛けたのだろうか、それとも、自分が今まさにティンクルに仕掛けられている最中なのか。

 何が起こっているのか、セイルには全くわからない。しかし、とにかくシュンランが攫われることだけは阻止しなければならない。

 慌ててシュンランを探しに一歩を踏み出そうとするセイルを、『待て』というディスの声が制止する。

『ふらふらすんじゃねえ。不安なのはわかるが、相手がどう仕掛けてくるかわからねえんだ。何処から何が来てもいいように、気ぃ張っとけ』

 恐怖と不安と焦りに背を押されているセイルに対し、ディスは何処までも冷静だった。いや、ディスも不安を感じていないはずはない。頭の奥底に感じられる気配は、ほんの少しだけではあるが、ちりちりと不快な音色を奏でていたから。

 それでも、苛立ちや不安を押し殺し、強いて冷静であろうとするディスの言葉に、セイルも己を取り戻す。そうだ、自分が不安に押し流されてはいけない。今頼れるのは自分と……この体の中に息づく相棒だけなのだから。

 胸の奥まで息を吸って、吐く。

 それだけで、波立っていた心がゆっくりと凪いでいく。その感覚を確かめながら、セイルは唇を開く。

「ありがとう、ディス」

『は、使い手がどうこうなったら困るのは俺だからな』

 口先ではそう言っているけれど、ディスが本気でこちらを心配してくれているのは、伝わっている。こんな時まで素直じゃないんだから、とちょっと笑ってしまいながらもセイルは右手を握り締める。

 意識を集中させれば、握った手から刃の翼が広がっていく。それは右腕全体を覆うように展開していき、突撃槍を思わせる形状になる。そうして、セイルのための『ディスコード』は、金属同士が触れ合う音を響かせ、セイルの右腕に収まった。

 シュンランを、探そう。

 思いながら、先ほど姿を変えて襲い掛かってきた鏡を見やる。鏡に映し出されていたのは、空色の髪に銀色の瞳を持つ少年だ。売り物として吊るされている無数の服を背景に、翼のようにも、槍のようにも見える銀色の刃に右腕を包み、難しい顔をして立っている。

 この鏡に、何か仕掛けがあるのだろうか……?

 思いながら、じっと見つめていると。

 不意に、自分の姿に被さるように、白い影が映った気がした。鏡越しにこちらを見つめる、すみれ色の、瞳――!

 その瞬間、セイルは確信した。

 シュンランは、この向こうにいる。

 鏡に向けて手を伸ばそうとしたその時、ディスの鋭い声が響いた。

『後ろだ、セイル!』

 その瞬間、考えるよりも先に反射的にセイルの体が動いていた。振り向きざま、甲高い音色を奏でる右腕の翼を振るう。すると、何かを斬り裂いた感覚が確かに腕に伝わってきた。

 目を見開いてそちらを見れば、灰色の、影をそのまま立体にしたような「人の形をしたもの」が、胴体の半分を斬り裂かれた状態でたたらを踏んでいた。顔から体までのっぺりとしていて顔立ちを見ることも出来ないが、長い髪に細く柔らかそうな腕や足、その周りに広がるスカートのような布。形だけ見れば、それは「少女」のように見えた。傷口からは血は流れておらず、ぽっかりと黒い空間が広がっている。

 やがて、影の少女は斬り裂かれた腹から溶けるように空気に消えていく。断末魔の声を上げるでもなく、ただ、ちりん、という鈴の音だけを後に引いて。

『何だったんだ……?』

 呆然とするセイルの頭の中で、ディスも呆気に取られた声で呟く。

 亡霊、という言葉が頭の中にちらつく。死しても世界樹に還れなかった魂が、マナと結びついて現世に干渉する力を手にいれたもの、と聞いたことがある。だが、それには実体はなく『ディスコード』で斬り裂けるようなものではない。

 人の形をした、人でないもの。

 それを斬る感覚を思い出して、何とももやもやする気分になっていると、棚や吊るされた服の影から、湧き出すように灰色の影が飛び出してくる。それぞれの手には、包丁や金槌など、物騒なものが握られている。これらの得物ものっぺりとした灰色の影ではあったけれど。

 セイルは軽く唇を噛みながらも、『ディスコード』を構える。ディスもまた、覚悟を決めたのだろう、セイルの視界から真っ先に対峙すべき相手を選び、的確に指示を飛ばす。

 無数の刃が触れ合って奏でる不協和音。その音色が響くたびに、一人、また一人と灰色の影がその場から鈴の音を残して消し飛ばされていく。それぞれ体格や髪型は違うけれど、そのどれもが同じような格好をした少女の姿をしていて、心が、痛い。

『制服? こいつら、学生か?』

 指示の合間に、ディスが小さく呟く。学生というと、そろいの制服を着て、学校という場所で学問を学ぶ少年少女のこと……セイルは思いながら、『ディスコード』を体の方へ引き寄せて目を細める。

 セイルは、学校を知らない。故郷の町にも学校はあったが、町の子供たちに恐れられ、大人たちに忌み嫌われていたセイルが学校に通うことはついぞ無かった。両親はセイルの自由で構わないといい、当のセイルは結局学校に行くことを望まなかったのだ。

 学ぶことは家でも出来るのだから、別に学校に行かなかったことを後悔しているわけではない。ないけれど、学生、という言葉に羨望を抱いているのも、また確かではあった。

 とはいえ、今は己について考える時ではない。セイルは流れていきかけた思考をすぐに目の前の事象に結び付けなおす。

「どうして、学生に襲い掛かられなきゃならないんだよ?」

『さあなあ。あの道化に聞いてみなきゃわからねえが……これじゃ、きりねえな』

 ディスが脳裏で舌打ちする。セイルとディスは正確に相手を仕留めている。だが、相手が増える速度の方が速い。今や、売り場はほとんど灰色の影に埋め尽くされていて、セイルは鏡に背をつける形で追い詰められていた。

 どうする?

 迫りくる少女たちと凶器を前に、セイルは息を飲む。

 その時、唐突にセイルの肩を誰かが強く引いた。

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