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空色少年物語  作者: 青波零也
第一部 空色少年と賢者の行方
25/131

05:連環の聖女(4)

「ま、話は最後まで聞きません? 『連環の聖女』さんよ」

 女が腕を上げた姿勢のまま固まる。ディスの背後に立っていたはずのブランがいつの間にやら女の横に立ち、そのこめかみに銃を突きつけていたのだ。

 女はぐっと息を飲み、視線だけをブランに向ける。ブランは常と変わらぬにやにやとした笑顔を浮かべて言い放つ。

「攻撃したければどうぞご随意に。俺様の方が早いけど」

 それは、「動いたら死ぬ」という意味だ。

 女は悔しげに歯を食いしばったが、観念したのか左手を下ろし、体の力を抜いた。ブランは銃を構えたまま一歩下がり、笑みを深める。

「物わかりがよくて助かる。俺様も、お嬢さんを撃つには抵抗があるのよ?」

 嘘はつかないと嘯くブランの言葉だ、それもまた嘘ではないだろう。ただ、抵抗があったとしてもその躊躇いは躊躇いにも含まれない刹那でしかない。そう信じさせる凄みが、ブランの氷色の瞳にはあった。

 女はブランとその手に握られた銃を眼鏡の下から睨んだまま、低い声で言う。

「鋼の武器……アンタ、異端研究者ね」

「そ。希代の天才研究者、ブラン・リーワード。以後お見知り置きを、異端狩りの聖女様」

 ブランはおどけて会釈する。ただ、言葉とは裏腹に銃口は女の額に向けられたまま寸分たりとも動かない。女は眉を寄せるが、少しだけ間を開けてブランに問いを投げかける。

「『魔弾の射手』ブラン・リーワード? アンタが?」

「あら、俺様も随分有名になったものね」

「仲間が相当痛い目に遭わされているからね。知らないはずもないよ」

「そりゃあ、襲われりゃ俺様も抵抗しますからねえ」

 正当防衛正当防衛、と笑うブラン。楽園の常識から考えて、異端というだけで影追いに襲われて当然なはずなのだが、そんな考えは完全に欠如しているらしい。

「ま、とにかくそこの二人は偶然目的が一緒でね。ちょいと保護者をやってるのさ」

「保護者なら、もうちょっときちんと教育したらどうだい」

 女はディスを一瞥して言い放つ。ディスはむっと眉を寄せるが、それに対してブランが「考えとくよ」とへらへら笑うものだから、ディスの眉間の皺は更に深くなった。もちろん、ブランはディスがどんな顔をしようとも取り合わず、女に向けて語りかける。

「ともかく、この二人を今連れてかれちゃうと俺様も困る。結果的にはお前さんも困る」

 唐突に断言され、女はむっと眉を寄せる。

「は? 何で、私が困るんだい」

「困るさ」

 ブランは笑みを深め、しかし凍り付くような視線で女を見つめて言い放つ。

「だって、『奴』と相対するチャンスをみすみす逃すことになるのよ?」

 途端。

 女の放つ気配が色を変えた、そう、セイルは感じた。今までも張りつめた空気を纏っていた女だが、その空気が急に肌を刺すような痛みを伴って感じられる。横に立っていたシュンランもひゅっと息を飲み、女を見つめたまま固まる。

 一際鋭さを増した瞳で、女はなおもへらへら笑い続けるブランをぎっと睨む。

「――アンタ、何言ってんの?」

「あら、業界では有名な話よ。異端狩りの『連環の聖女』はちょうど六年前、とある異端研究者に復讐する、ただそれだけのために影追いとなった」

 とある、異端研究者。

 不意に背筋に冷たいものを当てられたような錯覚に襲われ、セイルの体は自然と震えた。わからないはずがない。「とある」などと言っても、その言葉が表す人物は一人しかいない。

「なあ、聖女様。六年間も、行方のわからない野郎を探す気分ってのはどんなもんなの?」

 ブランが笑顔で言い放った次の瞬間、女の袖から放たれた鉤がブランの頬すれすれを掠め、鈍い音を立てて壁に突き刺さった。ブランは自分の横に延びた鎖を苦笑混じりに見つめ、言う。

「吃驚させんなよ。危うく引き金引いちゃうとこだったぜ」

「引きたければ引けばいい。アンタのような異端如きに殺られる私じゃない」

 女は零下の視線でブランを見据え。

「私は」

 血の色を思わせる、赤い唇を開き。

「奴を、ノーグ・カーティスをこの手で殺すまで、止まるわけにはいかないんだ!」

 凛と響き渡った、強すぎる「思い」。

 それが、セイルの胸に真っ直ぐに突き刺さる。

 女の声が余りにも大きな、怒りと悲しみの感情に満ちていると気づいてしまったから。

 ……ああ。

 唇から漏れるのは、力無い声だった。

 そうだ、自分に足りなかったのは、覚悟だ。ブランの言うとおり、それはシュンランを守って戦う覚悟、戦いの中で死ぬ覚悟なんかではない。それ以前の、今の自分を取り巻く全てを認める覚悟。今の兄が「何」であるのかを、認める覚悟だった。

 今まで、浮ついた、ぐらぐら迷う心を抱えていたけれど。今の一言で、セイルの中では全ての歯車が噛み合った。

 もはやノーグ・カーティスは、楽園の敵だ。

 そして、自分の知らなかった、誰かの敵だ。

 セイルにとって大切な兄であろうとも、彼との過去がセイルの真実であろうとも……兄がこの女にとって、殺したいほど憎い「敵」であることもまた真実なのだと、初めて実感した。

 ラヂオの報道や、壁の手配書などでは感じられるはずもなかった、強い、強い、生の感情を肌に感じ、セイルはもう一度「ああ」と声を落とす。

「あのさ……兄貴は、何をしたの?」

 そのまま、声は意味のある言葉に変わった。女ははっとしてセイルを見て、あからさまな困惑の色を浮かべる。

「……兄貴?」

「ノーグは、俺の兄貴なんだ。ただ一人の、兄貴」

 セイルはゆっくりと立ち上がって、女の目を見つめる。女の表情が、見る間に歪んでいくのがわかる。ただ、セイルはそれがどういう感情なのかを感じ取ることは出来なかった。自分の中に浮かんだこの不可思議な感情を、どう言葉にしていいのかもわからないくらいだったから。

 女はぐっと唇を噛み、セイルを見つめ……吐き捨てるように、言い放った。

「奴は、殺したんだよ。私の、一番大切な人をね」

「大切な人を、殺した……」

「そう。アンタが奴を『ただ一人の兄貴』と言ったのと同じ。奴は、私にとっての『ただ一人の人』を奪っていったんだ」

 だから、自分は影追いになったのだ、と。

 異端を追い続ければ、その先に立つ異端の長、『機巧の賢者』ノーグ・カーティスの喉笛を掻き切れると信じて、武器を取ったのだと女は言う。そこにもはや表情は無く、ただセイルを見下ろす青い空虚な視線だけがあった。

 セイルは、今にも麻痺しかけた思考で、しかし克明に想像する。大切な兄が誰かに殺される瞬間、そして、横に立つシュンランが誰かに殺される瞬間を。自分はその横に膝をつき、ただ呆然とその様子を見つめているだけ。そんな想像が頭の中に浮かんでは、消える。

 胸の中に沸き上がる気持ちは、何かとても強い感情のような気がするけれど、掴もうとすると硝子のように脆いもののようでもあって。セイルは銀色の瞳をゆっくり瞬きして、俯く。

「あなたの大切な人を殺したのは、本当に兄貴だったんだ」

「ああ、そうだよ」

「そっか。そう、なんだ」

 はっきりと肯定され、セイルはぐっと息を飲む。

 感情のままに否定するのは簡単だ。兄はそんなことする人じゃないと、言い張るのは誰にだって出来る。ただ、その証拠をセイルは持っていない。ならば、自分に言えることは何だ。

「セイル?」

 シュンランが、不安げな声をあげてセイルを見上げる。セイルは「大丈夫」と小さく笑って顔を上げる。血に染まった腕をそっと押さえ、虚勢でも胸を張って、女に向かって笑う。それは、とんでもなく不細工で無理やりな笑い方ではあったけれど。

「あのさ……俺たちは、兄貴を探してるんだ。この子は、兄貴の力を借りるため。俺は、兄貴に話を聞くため。ブランは何故か教えてくれないけど」

 いつか話してくれるとは、言った。

 女の鋭い視線の前に、セイルの言葉は萎みそうになる。それでも、何とか心を奮い立たせて、女を見上げる。自分には、ディスのように戦う力も、ブランのように立ち回る思考も無い。ただ、今、自分が、自分の言葉で言わなくてはならないことがある。その思いが、セイルの唇を動かしていた。

「あなたは俺たちが抵抗しなきゃ手を出さないって言った。それは信じていいと思う。神殿に行けば、安全だってのもわかる」

 異端研究者がユーリス正統神殿に足を踏み入れるということは、死刑台に上ることと同等。ましてや相手は異端の長であるノーグ・カーティス、絶対に神殿とは相容れない存在だ。『エメス』を警戒する神殿に直接赴いてシュンランを狙うような馬鹿な真似はしないだろう。

「けど、そしたら兄貴に会えないのはあなたも同じだ。『エメス』は、兄貴はシュンランを探してる。そのシュンランを神殿に連れて行ったら、兄貴はまた姿を隠すよ。絶対にだ」

「アンタは、何が言いたいんだい」

 女は苛立ち以上に困惑の色を顕にしてセイルに問う。言いたいことは決まっているのだ。シュンランを守るため、兄を探すため。答えは一つだけれど、その答えが上手く言葉にならない。言葉にするのが、怖いのかもしれない。

 けれど、今の自分に出来ることは、これだけだ。

 腹に力を込めて、銀の瞳を見開いて、セイルは言い放つ。

「本当に兄貴に会いたいなら、兄貴を殺したいなら、俺たちを見逃して欲しい。ううん、別に見逃してくれなくてもいいから、俺たちを見張っていたっていいから、神殿に連れて行くのだけは止めて欲しい」

「それは」

 女の瞳が、微かに揺らぐ。それは、彼女の心の揺らぎそのものでもあった。セイルはそれを見逃さず、すかさず畳み掛ける。

「シュンランとディスがいれば、兄貴は現れる。その時、あなたが兄貴を殺したいなら、俺は絶対に止めないって約束する」

 もちろん、自分やシュンランにも目的があるから、すぐに殺されても困るけれど。兄が殺されると思うだけでも、胸が苦しくてたまらないけれど。セイルは喘ぐように、しかし確かに言葉を紡いで、空色の頭を勢いよく下げる。

「だから、どうか、お願いします!」

 ぎゅっと目を閉じて、小さく足が震えるのを感じながら、女の言葉を待つ。女は、何を思っただろうか。馬鹿なことを言うと呆れただろうか、ふざけるなと怒るだろうか。虫の良い頼みだということはわかっている、わかっているけれど――

 その肩に、ふわりと触れるものがあった。少しだけ目を開けると、シュンランがセイルの肩に手を置いて、同じように頭を下げているところだった。どのくらい、そうしていただろうか。小さな息と共に、「顔、上げなよ」という声が耳に入った。

 目を上げれば、女は今までセイルたちに見せていた鋭い気配を消し去り、何処か鈍い笑みを浮かべて立っていた。

「確かに私には好都合だね、いいだろう、アンタの言うとおり上に掛け合ってあげる」

「ほ、本当?」

 セイルはぱっと顔を輝かせかけたが、即座に女の矢のような言葉が振ってくる。

「けれど。アンタが言ったその言葉は、守ってもらうよ」

 そうだ。目的を果たすためとはいえ、とてつもなく大きく、重い約束を交わしてしまった。兄を殺すという女を相手に何を言ってしまったのかと、今になって後悔が湧き上がる。

 ただ。

 人を殺すのは良くないとか、憎しみは何も生まないとか、そんな綺麗な言葉で飾り立ててもきっとこの女には届かない。誰もセイルと兄の優しい思い出を否定できないように、誰もこの女が抱く思いを否定することは出来ないのだ。

「守るよ。絶対に」

 セイルは胸をぎゅっと締め付けるような感覚に襲われながらも、きっぱりと言い切った。女は一瞬だけ何か痛みが走ったような表情を浮かべたが、すぐに無表情に戻って今まで沈黙を守っていたブランに視線を向ける。セイルもそちらを向くと、ブランはくつくつと場違いな笑い声を漏らしていた。

 女は、呆れ半分、苛立ち半分でブランに言う。

「で、何でアンタは笑ってるんだい」

「はは、言おうとしてたこと、全部言われちゃったなあと思ってな。もう、ガキんちょったら先走りすぎ」

 大きく肩を竦めるブランは心底おかしそうに笑っていた。セイルは自分の思いまで笑い飛ばされたような気分になって余計に胸が苦しくなる。だが、ブランはすぐに笑うのを止めて、セイルの頭を軽く手の平で叩いた。

「そう、本当は俺が言うべきだったのにな」

「ブラン?」

 珍しく自嘲気味の響きを宿した声に、セイルはブランを見上げる。ブランは口元に微かに苦笑を浮かべたが、すぐにいつものにやにや笑いを取り戻して女に向き直る。

「ま、お前さんは俺らを見張る、俺らは奴を探すってことで一時休戦としましょうや、聖女様」

「本当ならアンタだけでも神殿に突き出したいんだがね、『魔弾の射手』リーワード博士」

「いやん、やめてっ。俺様も奴に会わなきゃなんだからん」

 気色悪く体をくねらせたブランは女から逃げるように走り出す。いつの間にやら、その手から銃は消えていて腰のベルトに収まっていた。女はその背中を溜息混じりに見送ってから、セイルとシュンランを見下ろした。セイルは何か言われるのかと息を飲み体を硬くしたが、女は唇を微かに歪めて力なく言った。

「悪いね。でも奴を殺す、その一点は譲れない」

「うん、わかってる」

 胸の痛みを隠して、セイルは頷く。その答えがどう聞こえたのかは知らないが、女は一瞬更に苦しそうな顔をして、しかしすぐに表情を消した。袖から金属の触れ合う音を立て、石畳の上に生い茂る草を踏んで、女は問う。

「そうだ、アンタらの名前を聞かせておくれよ。それに、さっきの奴とアンタは何なんだい」

 言われて、セイルは「あ」と声を上げる。

 そういえば、自分はいつの間にディスから解放されていたのだろう。当たり前のように言葉を喋っていたけれど、今まではあれだけ抵抗してもディスには敵わなかったというのに。体の中にディスの気配はあるが、声もすっかり聞こえなくなってしまった。不思議に思いながらも、セイルは女の問いに答える。

「俺はセイル。セイル・カーティス。こっちがシュンランで、さっき俺を操ってたのはディス。『世界樹の鍵』らしいんだけど、どんなものか兄貴しか知らないらしいんだ」

 言って、右の手からナイフの刃を取り出してみせる。先ほどディスが同じようにしてみせたからだろう、女の目に驚きは無かったが、それでも何故人の体から刃が出るのか、何故『世界樹の鍵』が人の体を操るのか、理解が出来なかったのだろう、不思議そうに首を傾げる。

 だが、考えても答えが出ないこととすぐに気づいたのか、女はすぐに首を振って二人に向き直る。

「私も一応名乗っておくよ。私は影追い第四六二七番、女神ユーリスから賜った名はチェイン」

「チェイン? 鎖を使うから、ですか?」

 女、チェインはシュンランの言葉の意味が理解できなかったようで、微かに眉を寄せる。それで、シュンランも「何でもないです」と首を振る。同じようなことが、前にもあったような気がするけれど……そんな二人のやり取りを聞きながら、セイルはふと、肩や腕の痛みが全く消えていたことに気づいた。血塗れの肩を押さえると、傷がすっかり消えていることに気づく。

 話すことに気を取られていて、全く気づかなかった。これも、シュンランの『歌』の力なのだろうか。

 驚きの息をついた、その時だった。

『何なんだよ。マジで何なんだよ、これ』

 頭の中で、声が響く。意識の底に沈んでいたディスが、やっと声を放ったのだ。だが、その声はとても低く、意識を共有しているはずのセイルにも聞き取りづらいものだった。

「ディス?」

 声に出して、呼びかけてみる。すると、ディスはぎり、と歯を食いしばるような音を立て、セイルに鋭い言葉を浴びせる。

『約束とか殺すとかわけわかんねえ! 何考えてんだよ!』

「それは俺が聞きたいよ。何言ってるんだ、ディス」

『確かに俺のやり方にも問題があったのは認めるけどな、お前だって何約束してんだよ、これじゃあ奴の思う壺じゃねえか!』

「……奴? 思う壺って……」

 さっぱり、ディスの言っていることがわからない。ディスは自分の思った言葉を勝手に喚き散らしているだけで、セイルの中では全く意味が通らない。セイルが混乱していることに気づいたのか、ディスは一瞬だけ言葉を止め、だが噛み付くような言葉遣いで言う。

『わからなくていいんだよ、手前は! だから俺は嫌だって言ったんだ――』

「セイル。ディスが何か言ってるですか?」

 シュンランの言葉に、セイルは意識を外に戻す。ディスは変わらず意味の取れない言葉をぎゃあぎゃあと喚くばかりで、少しもセイルの意識には入らなかった。わからなくていい、と言った以上、ディスもセイルに理解させる気はないのだろう。

 ただ一つわかることは、ディスは何かに苛立っているということ。それは何も今からではない、それこそ昨日からセイルを乗っ取るような振る舞いを見せたように、何か棘の生えた感情がディスを支配している、そんな気持ちにさせられる。

 セイルは胸に右手を置いて、微かな不安を込めて呟く。

「何か、すごい、怒ってるんだ。俺、また何か間違ったのかな」

 そんなんじゃねえよ、と。ディスが憮然とした声で応えた気がした。けれど、それ以上の言葉は無く、ディスは再びの沈黙に入ってしまったようだった。

 確かに、後悔はしている。目の前の女が冷たくも何処か悲しげな視線をこちらに向けている。いつかこの女が兄を殺す日が来るのだ、そう考えずにはいられない自分がいる。

 けれど、もう覚悟をしなければならない時だ。自分を取り巻く何もかもを認めて、自分が立っている場所を見失わないように。そう心に決めて、セイルは顔を上げてチェインを見上げる。チェインはついとセイルから視線を外し、少し離れた場所で手を振っているブランに視線を向ける。

「何してんのよ? 早く逃げないとまずいぜ」

「何で……あ」

 セイルが疑問を投げようとして、気づく。

 そう、シュンランの『歌』によって生えた木々は、今もなお青々と生い茂っているのである。こんな現象、魔法でも起こせやしない。既に何かが起こってると察した人々の声がこちらに向かってきているのがわかる。

「セイル。逃げるですよ」

 シュンランが笑顔で手を伸ばす。セイルは一つ頷いてその手を取って、草を蹴って駆け出す。

 その背を追う赤毛の影追いの声が微かにセイルの耳に届く。

「私も、結局は奴と同じ、か――」

 切ない響きを込めた言葉の意味は、今のセイルにはわかるはずもなかった。

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