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空色少年物語  作者: 青波零也
第一部 空色少年と賢者の行方
105/131

21:ディスコード(4)

「ディス!」

『事実だ』

 ディスの言葉は、静かだ。だが、ディスの内側に渦巻く何かを、理性で押し殺しているだけであることは、明らかだった。そこには、様々な思いが篭められているに違いない。先ほどまでの怯えも、恐怖も、何もかもを抱いたまま。ディスは、それでも理性的だった。

 ガブリエッラは、ディスの名を呼んだセイルに一瞬意識を向けたようだったが、すぐにつと視線を逸らし、

「……リーワード博士も、異論はないかな」

 異形の仮面をブランに向けると、ブランは肩を竦めて答えた。

「ねえよ。俺が知ってる事実もその程度だ。ディアンの思考の推移なんざ、俺様が語る意味もないでしょうしね」

「博士は、ディアン・カリヨンはお嫌いかな。彼と同じ力と知識を持つ君ならば、ディアンと同様の解決に至っても決しておかしくはないと思うが」

「好きになれねえ。俺は事なかれ主義なもんでね。……もう少し正しく言えば、今、ここにいる奴らを傷つけてまで、真実を貫こうとは思えない」

 ブランの言葉は、何処までも落ち着いていた。感情を交えることのできない、彼らしい喋り方とも言える。だが、セイルの目には、ブランが淡く笑っているようにも見えた。

「俺様はね、何よりも幸せな結末が好きなんだ。例えば、この目に映る奴が、屈託なく笑っていられるような結末が」

 それが、真実からかけ離れた幸せであろうとも。ブランはそう言い切った。

 ガブリエッラは、そんなブランの言葉が意外だったのか、言葉を失ってブランを見下ろしている。セイルも同様だ。現実主義者のように見えたブランの口から、「幸せ」なんて言葉が出るとは思いもしなかったから。シュンランも、チェインも。それぞれ、何を思っているのか、目を見開いたまま固まっている。

 けれど、ディスだけは。ブランのその言葉を受け止めて、長く息を付いた。

『異端が主張する「正しさ」からはかけ離れてるが……奴らしいな』

 ――ブラン、らしい?

 らしくない、と思ったセイルとは正反対の意見に、疑問符を飛ばさずにはいられない。ディスは、言葉が足らないと判断したのか、口を開きかけて……

「ディス、余計なこと言わないの」

 ブランの声に、制される。ディスはちっと舌打ちをして、それきり黙った。訝しげな顔をするセイルたちに向かって、ブランは目を細める。今度こそ、笑ったのかもしれなかった。

「俺様、嘘はつけねえもの。まともに考えることが出来なくても、人の感情がわからなくても……人が笑ってるのを見るのは、悪くねえもんだ」

 あくまでさらりとした言葉ではあったが、そこにはブランの強い意志が感じられた。それは、セイルの知らないブランの一面でもあった。

「だから、俺はディアンを受け入れられねえ。それが世界に必要な『痛み』だったとしても、俺がこの手で成し遂げようとは思わねえ。他の奴が勝手にやってろ、ってこった。それが答えで構わねえかな、竜王陛下」

「ああ」

 ガブリエッラは、満足げに頷いた。そして、再び視線をセイルに向ける。部屋中に張り巡らされていた緊張感はふっと途切れ、仮面の竜王は玉座に深く腰掛けなおして肘をつく。

「私から話せることは以上だ。あとは、『ディスコード』本人と、クラウディオから話を聞くことだな」

「はい……ありがとう、ございます」

 セイルは、深く頭を下げた。シュンランも、一緒になって頭を下げるのが横目に映った。そんなセイルの肩を、ブランがぽんぽんと叩く。

「じゃ、クラウディオんとこ行ってこいよ。ディスも、喋りたいことがあるみてえだしな」

「うん」

 ディスが、改めてクラウディオと対峙して、何を言うつもりなのかはわからない。船の上で見せたような激情に支配されてはいなかったが、ゆっくりと、ゆっくりと、呼吸を整える感覚が伝わってくる。

 薔薇園の場所はわかるな、というブランの問いは、ディスに投げかけられたもの。ディスは、セイルの内側でもう一度深呼吸をして、言った。

『わかるさ。忘れられるはずもねえ』

「オーケイ。なら、行ってこい」

 背中を押される勢いのままに、一歩を踏み出す。

 その後ろで、ブランがチェインを引き止めているようだった。そちらはそちらで、ガブリエッラと話すべきことがあるようだ。例えば、この先の話。『機巧の賢者』……ノーグ・カーティスが息を潜めているという、海底の塔への突入方法など、話すべきことはたくさんあるはずだ。

 そんなブランたちの声に背を向けて、セイルはディスと共にクラウディオの元を目指す。実のところ、これ以上セイルが聞くことは何もないともいえた。事実を知った今、むしろ、クラウディオと相対するのが怖くもあった。

 クラウディオにとって、『ディスコード』は妹の仇であり、また、親友の凶行を許した存在でもある。かつてのディスが、どのような人物……もとい、剣であったかはわからない。だが、クラウディオがディスを決してよく思っていないことは、明らかだ。二十年を経た今もなお、クラウディオの胸の中には、事件に対する思いが根付いているに違いない。

 そんなクラウディオに、ディスは、どんな言葉をかけるつもりなのだろうか。

 内側から、微かに伝わってくる指示に従って、セイルは長い廊下を歩く。後ろから、シュンランの足音がついてくる。

「セイル」

 鈴のような声が、名前を呼んだ。セイルは一旦立ち止まり、振り向く。

「どうしたの?」

「ガブリエッラの言葉は、全て、本当でしょうか」

「どういうこと?」

「わたしには、ディスが、ディアンのやり方を許すような人だとは思えません」

 はっきりと、シュンランは言い切った。それは、もちろんセイルだって同じだ。ディスが『事実だ』と言い切るから、否定できなかっただけで……納得がいかないのは変わらない。

 シュンランのすみれ色の瞳に映しこまれた、セイルの顔が歪む。いや、顔を歪めたのはディスだった。

「……すまん、借りるぞ」

 セイルの喉を使った言葉に、セイルは小さな肯定の意識で応えた。ここからは、ディスの口から語ってもらう必要がある。ガブリエッラの語る客観とはまた違う、ディスの主観。セイルが一番知りたかったものは、それだ。

 ディスは、シュンランの視線を逃れるためか、再び歩きだす。ただ、その足取りはゆっくりとしたものだった。

「まず、一つ訂正させてくれ」

「何です?」

「俺は、人じゃねえ」

 久しぶりに、変なところに拘り始めたものだ。セイルは内心おかしくなるが、ディスはいたって真剣だった。そして、即座に、笑いそうになったことを後悔する。

 次の瞬間、ディスは、こう言ったからだ。

「人じゃねえ俺が、人みたいな意識を持ってるのがそもそもの間違いなんだよ」

「……どういう、ことです?」

 シュンランの問いは同時にセイルの問いでもある。それを受け止めたディスは、口の端にイビツな笑みを浮かべて答えた。

「二百五十年。光も差さない箱の中で、言葉を交わす相手もいない。そんな状態を続ければ、何もかも嫌になるってもんだ」

 その言葉に、シュンランがはっとした表情を浮かべた。セイルだって同じだ。

 先ほど、二百五十年という時間を聞いた時には考えもしなかった、ディスのあり方。それを、目の前に突きつけられた衝撃は、大きかった。

 ディスが置かれていた孤独。それは、セイルが意識したことのあるどんな孤独よりも、深く、冷たく、恐ろしいものだったはずだ。心の中で、目を閉じて、耳を塞いでみるけれど、何をしたところでディスの感じていたものには届かない、そんな確信がセイルの中に生まれる。

「もちろん、そのうちほとんどは、何もかもはっきりしねえ、泥の中にいるような感覚だったが、時々、ふっと意識が覚醒することがあるんだ。だが、開ける目もなけりゃ、助けを呼ぶ口もねえ。箱を壊そうにも、暴れるための腕も足もねえ。ま、当然といえば当然だが、それを『当然』って理解するまでにかなりかかった」

 そいつは、理解でなく……諦め、だったのかもしれないが。

 そう言うディスの声は、静かだった。空っぽだった、と言い換えた方が正しかったかもしれない。

「で、『当然』って理解した後は、どうして、俺がこんな目に遭わなきゃならねえんだ、って思ったよ。何をしたわけでもねえのに、意識だけ、冷たい箱の中に閉じ込められて、挙句その理由がさっぱりわからない。理由を聞く相手もいねえ。そんな、絶対に答えの出ない自問自答を繰り返してるうちに……」

 ――自分を含めた何もかもを、ぶち壊してやりてえな、って思ったんだ。

 乾いた声で紡がれた、ディスの絶望。

 それが、何の解決になっていないことは、わかる。ディス自身、百も承知だったはずだ。ディスは馬鹿ではない。馬鹿ではないからこそ、己の終わりの見えない孤独を理解してしまった。

 完全に、何もかもがわからなくなるほどに狂ってしまうことができれば、きっと、ずっと楽だったに違いない。それでも、ディスは狂いきることもできずに、二百五十年を過ごした。

 そこで、出会ったのが――ディアン・カリヨン。

 ディスとはまた別種の絶望を抱えた、男だった。

「ディアンと俺は、すぐに協力態勢を取ることになった。奴と一緒にいれば、壊すことには事欠かなさそうだったからな。ついでに、その時は、箱から出られたことで頭がいっぱいで、何も考えちゃいなかった」

 ディスの足が、止まる。

 そこには、一枚の扉があった。今まで通ってきたものよりも少しだけ大きな、横開きの扉。これもまた、手を触れれば自動的に開くのだろう。だが、ディスは立ち止まったまま、言葉だけを紡いでいく。

「だが、そんな高揚は長続きしねえ。

 我に返ってみりゃ、ディアンのやり方は乱暴にすぎた。俺自身『ディスコード』が楽園って機構に対する切り札になることは重々承知だ。だが、たった一人でどうこうなるほど、この世界は甘くねえ。すぐに命が尽きるというなら……尚更だ」

「それに気づいていて、止められなかったのですか」

 シュンランの鋭い言葉に、ディスはすぐには答えなかった。答えられなかったのかもしれない。言葉を探すような気配がセイルにも伝わってくるが、すぐにその言葉は見つかったようだ。

「止めようとした。何度も。だが、俺は剣だ。使い手が強く望む限り、それを止めることなんて、できやしなかったんだ」

 だから、ディスは、初めてセイルと出会った時から、何処までも剣であろうとしていた。使い手であるセイルと対等などと、一度も思わなかった……いや、思おうとしなかったのだ。確かに、一度、セイルもディスの制止を振り切って『ディスコード』を使ったことがあるから、ディスの拘束力が絶対でないことは、感覚としてわかる。

 使い手であるセイルから手を差し伸べて、初めて対等な関係性を「許される」。それが、人と同じ意識を持ちながら「剣」である『ディスコード』に科せられた、絶対的な枷なのだ。

 握り締めた拳は、硬い。爪が掌に食い込む。けれど、セイルはそれを止める気にはならなかった。そんな痛みとは比べ物にならない痛みを伴った悔恨の念が、伝わってきたから。

 ディスはあくまでシュンランには背を向けたまま……鋼の扉に向かって、言う。

「……つまらん話をしたな。だが、ガブリエッラの話は全て事実だ。俺はディアンを止められなかった。アイツが、全てを背負って逝くのも止められなかった。だから」

 ――今度こそ、俺が、間違えないように。

 そう呟いたディスは、そっと、扉に手を触れた。

 すっと開いた扉の向こうに広がる光景に、セイルは思わず息を飲んだ。ディスが体を使っていなければ、声を上げてしまっていたかもしれない。

 そこにあったのは、確かに、言葉通りの薔薇園だった。

 真紅の薔薇が咲き乱れる、巨大な庭。室内でありながら、卵のような曲面を描く天井に取り付けられたいくつもの灯りが太陽のごとく輝いて、屋外と変わらぬ明るさで光を振りまいている。耳を凝らせば、葉と葉が触れる音と共に、微かなせせらぎが聞こえるが、何処かで水を流しているのかもしれない。

 クラウディオは、そんな庭の真ん中に、一人で立っていた。その前には、石碑がもの言うことなく立っている。真紅の薔薇が捧げられたそこに書かれた文字は、クラウディオの体に隠されて読み取ることはできなかった、けれど……

「お墓です。クラウディオの、大切な人の」

 かつてここにいたシュンランも、この場所を知っているのだろう、小さな声で囁いた。ディスは頷き、早足で、クラウディオに近づく。クラウディオも、ディスの存在に気づいていたのだろう、ゆっくりと振り向き、赤い瞳でディスを見据えた。

 静寂。

 人工の風の中で、視線が交錯する。立ち止まったディスも、今回ばかりは目を逸らすことなく、クラウディオを無表情で見つめ……突然、膝をつく。目を見開くクラウディオを前に、両手を地面につけて、深く頭を下げた。セイルの空色の髪が汚れるのも構わず、顔を伏せた姿勢のまま、押し殺した声で言う。

「ずっと、アンタには謝りたいと思ってた。本当に……申し訳なかった……!」

 そんなディスの頭の上から、クラウディオは、あくまで冷ややかに声を投げかける。

「私は、君の謝罪が欲しいわけじゃないよ、『ディスコード』」

「謝ってどうにかなることじゃねえってのはわかってる。許しが欲しいわけでもねえ。だが、どうしても……どうしても、俺から、アンタに伝えたいことがあったんだ」

 言って、顔を上げる。ディスがどんな顔をしているのか、セイルにはわからない。ただ、ディスの顔を見たクラウディオが、僅かに表情を歪めたことはわかった。硬い表情の中の小さな動揺。そこから視線を外すことなく、ディスは言葉を紡ぐ。

「俺は、ディアンと共に、アンタの妹を殺した。ディアンをそそのかしもした。そのことについて、恨んでもらって構わない。ただ、俺はもう、アンタたちを、アンタたちが守ろうとしてきたものを絶対に傷つけはしない。そう、アイツと約束したんだ」

 その言葉に、今度こそ決定的にクラウディオの表情が歪んだ。それでも、何処までも冷たい声で、ディスに問う。

「アイツ、とは?」

「リコ・トスカニーニ」

 それは、一人の騎士の名前だ。ディスの意識を辿れば、自然とそこに辿り着く。蜃気楼閣ドライグが誇る、竜王とその一族を守ってきた騎士の名前。そして、ディアンを倒し、狂い掛けていたクラウディオを諌めるために死んだ、騎士の名前。

 クラウディオも、その名前が出てくることは予測していたのだろう。唇を引き結んだまま、ディスの言葉を待つ。

 両手をついた姿勢のディスは、クラウディオを見上げて叫ぶ。

「アイツの……リコの望みは、たった一つ! 傷つけることも、壊すこともなく、この世界を『楽園』と変えること。誰もが笑って暮らせるような、本当の『楽園』に変えることだった!」

「……随分な、綺麗事だな」

「そうだ、綺麗事だ! 正直、不可能だって思ったよ。だが……望むことはできる。そこを目指すことはできる。今ここに生きている、俺ならば」

 そして――

「今、ここに生きている、アンタならば」

 ディスが本当に伝えたかったのは、きっと、この言葉。

 目を見開くクラウディオに対して、ディスは、地面に爪を食い込ませ、もはや感情を押し殺すこともなく、激しい口調で言葉を重ねる。

「ずっと、ずっと伝えたかったんだ! アンタは、リコの最後の言葉を知らないから……アイツは、アンタたちの未来を守るために、一人きりで死んでいったから!」

 だから、と言いかけたディスは、そのまま俯く。言葉が出なかった。どんな言葉を投げかけても、結局、それはリコという名前の騎士の言葉ではない。ディスの口から放たれるものでしか、ない。その言葉がどれだけクラウディオに届くというのか。

 言わずにはいられなかった。けれど、けれど。ディスの思いがそのままセイルにも伝染したのだろう、胸がきゅっと締め付けられるような気持ちになる。

 すると。

「そうか。そうだったんだね」

 ぽつり、とクラウディオが、言葉を落とした。その声は、とても、穏やかだった。これにはディスも呆気に取られて口を半開きにして見上げると、クラウディオは、柔らかく笑っていた。

「彼の最期の言葉、聞けてよかった。伝えてくれてありがとう、『ディスコード』」

 そっと伸ばした手で、空色の髪を撫でられる。普段は人に触れられるのを嫌うディスだが、今回ばかりはされるがままになっていた。呆然としていて、そのことに気づいていなかっただけかもしれないが。

 瞬きしかできないディスの瞳を、クラウディオは少しだけ体をかがめて覗き込む。

「君を許したわけじゃないよ。怒りの気持ちが無いわけでもない。だが、セイルくんやシュンランを見ていれば、君の人となりは見えてくる。あの時の私には、全くわからなかったことも」

 君が、何処までも、誠実な剣であることも。

 クラウディオの言葉に、ディスは唇を噛む。零れ落ちそうになる思いを、そうやって繋ぎとめるかのように。

「シュンランを守ってくれてありがとう。セイル君を導いてくれてありがとう。それと、ここからは私からのお願いだ」

 肩を叩く。今度は、力強く。

「これからも、セイル君たちの未来を切り開くための、力となってほしい」

 ディスは、クラウディオを見上げたままでしばらく何も言えずにいたが、何とか、震える喉で叫んだ。

「言われなくても……っ!」

「はは、いい返事だ」

 満足そうに、クラウディオは笑った。そういう仕草は、血縁であるガブリエッラとよく似ている。

 クラウディオは、許さないと言ったけれど……実のところ『ディスコード』に対して、そこまでの執着はなかったのかもしれない。割り切れない思いが、微かな棘となっていた、だけで。

 それがわかっていたとしても、ディスは、きっとこうしただろう。砂を払って立ち上がるディスを、内側から眺めつつ、思う。これは、ディスなりのけじめのつけ方だ。不器用なやり方ではあるけれど、それもまた、ディスらしいと思う。

 クラウディオは、石碑の前から身を引いてディスに示した。そこに刻まれていたのは、二つの名前。

「折角だから、挨拶していってくれたまえ。ここに眠る我が妹と、気高き騎士リコに」

 ディスは無言で墓の前に座ると、じっと刻まれた文字を睨む。

 ベアトリーチェ・ローザ・ドライグ。

 リコ・トスカニーニ。

 セイルにとっては他人である、誰かの名前。けれど、その名前は、ディスにとっては特別なもの。丸々一分ほど、セイルにもよくわからない感情を渦巻かせながら墓を見つめていたディスだったが、唐突に、両の手を打ち鳴らした。

 セイルは思わず呆気に取られたが、ディスはそのまま掌を合わせて瞑目する。

 

 ――それは、セイルも知らない、祈りの作法だった。

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