ヤツとの戦い
その夜、俺は部屋でダラダラしていた。
夜はすっかり秋らしくなり、窓を開け、秋風を堪能しながら一日の疲れを取るべく、人様には見せられないほどダラーンとしていたんだ。
そんな時、ふと視界を横切る、黒々しいものが。
何だ?と思い見てみると…
ヤツだ!
ヤツが現れた!!
俺の住むアパートは現代と年号が違うほど古い。
だが、ここに住む事、早数年。
ヤツと遭遇した事はなかった。
何故だ!?
何故ヤツが現れる!!?
俺は混乱した。
ヤツが現れる心当たりがない。
生ゴミは小まめに捨てている!!
コンビニで買った弁当の容器すら洗ってから捨てるという念の入れようだ!!
食べ残し?
そんなものはないっ!!
好き嫌いせず完食だ!!!
俺が混乱している間に、ヤツは見つかった事に気付いたのか、玄関の方へと逃走する。
誰が逃がすかぁぁあああ!!
行方がわからなくなれば、不安で寝れないじゃないか!
俺はイヤだ!
絶対にイヤだ!!
ベッドで寝返りをうったらヤツがいるようなシチュエーションなど!!
同衾は美女限定でお願いしたい!
たとえヤツがメスだろうがごめん被る!!!
俺は常備してある殺虫スプレーをぶちまける。
もうもうとする玄関。
ノドが痛くなる。
だが耐えろ!
聞こえる。ヤツがカサカサと足掻く音が!
俺は警戒して玄関を睨みつける。
逃げたか?
死んだか?
俺は恐る恐る玄関を調べる。
いない。
どうやら逃げたようだ。
部屋に戻ろうと振り返った俺は驚いた。
ヤツが部屋に!
いつの間に?!
俺は警戒していた!
玄関から部屋までは一本道。
見逃す筈がない。
だが、現にヤツは俺を横切り、部屋にいる!
くっ!中々やるな!
だが、俺の手には未だ殺虫スプレーが握られている!
ぶちまける煙。
狭い部屋が煙だらけになろうが知った事か!!
俺は延々とスプレーをぶちまけ続ける。
ヤツはひっくり返り、ピクピクとしている。
だが油断はしない。
ヤツ等は死んだ振りはお手の物だ!
完全に……潰す!!
俺は手近にある硬い物をヤツに向かって振り下ろした。
ガンガン!!
階下の人、ごめんなさい!
でも今はちょっと無理!!
ピクリとも動かなくなったヤツを割り箸で掴み、廃棄予定の弁当の容器に移し、玄関を出た。
そして、外に捨てた。
明日、管理人さんが掃除してくれる事を願って…。
俺は感謝した。
自分の視力が低い事を。
普段はコンタクトが体質に合わず、必要な時だけ眼鏡を使用している。
その眼鏡も、体質なのか、最低限な度しか入っていない。
映画に行っても字幕が読めないほどだ。
裸眼では測定不能なほど低い視力に感謝した。
ヤツが黒っぽい、なんか楕円形っぽい物にしか見えない!!