日常
「とにかく」
真実が煙の充満する室内の窓と言う窓全てを開け放って、換気をしながら鍋の始めようと真実がテーブルと床を見ればそこには黒い布地に書いた魔方陣。
テーブルの上には赤い蝋燭と葡萄酒に何やら得体の知れない…映像化した場合モザイクがかかる事必須なモノ。
どこにも鍋なぞない。
「青砥、鍋持って来てと私は言ったわね?」
「真実、私の家に鍋があると思ったら大間違いだよ。」
ふんぞり返って言う青砥のみぞおちに拳を素早くあて、真実は水場の近くの食器棚から鍋を取りだし洗い始める。
「芦刈、悪いけど鰹出汁の元買って来て。」
真実の言葉に芦刈はスーパーのビニール袋から鰹出汁の元を取り出した。
「こんな事になるのはわかってたし。」
洗い終えた鍋を拭く真実の背後では、真澄が魔方陣やらなをやらを部屋の外に投げ出して、テーブルを整える。
「真澄ちゃぁんっ酷いよぉ。」
青砥は窓の外にやられた道具を追って、窓から身を乗出した。
それをまっていましたと言わんばかりに真澄が蹴りの一発で外に叩き出し、鍵をかけ扉もしめる。
振り返ればカセットコンロがテーブルの中央で鍋をぐつぐついわせていた。
「さっ!これで心おおきなく食べれますね。」
輝く笑みで一同が頷き、鍋に具がいれられる。
豚肉、ツミレ、海老、烏賊。
無茶苦茶なチョイスだ。
続けて、葱、豆腐、白菜、エノキ、しめじ、パプリカ。
パプリカは普通いれないだろう。
更に、エリンギ、トマト、鮭、ムール貝。
よく言えば多国籍。
悪く言えば貴女がたの味覚はおかしいと胸倉を掴みたい心境だ。
仕上げにトムヤンクンスープの元をいれてバミー麺を真実はいれて満足そうに笑う。
おかしいって。
食材チョイスは誰だ。
イカれてるって。
アジアンテイストにするなら鰹出汁はいらなかったであろう
得体のしれない赤い鍋を
5人は普通の顔でつつき始めた。
「所で今日の召集だけど…………ぁ、これオニオンきいてて美味しい。」
いつ入ったよ、オニオン。
床波が話ながらスープをすする。
「新入生確保は難しいだろうから依頼かな?」
芦刈は鯖を噛み砕きながら予定表を開く。
…鯖はいつはいった?
「多分」
静かにコンニャクを食べる馳平。
だからいつ入ったコンニャク。
「誰が知ってるのよ?」
厚揚げをハフハフ言いながら食べる真実。
「召集は青砥がかけましたよね確か。」
嫌そうにじゃがいもを口にいれた真澄。
「「「「「…………」」」」」
その時だ。
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャー…ゴフッ。」
器用に台所の床下収納から出て来た青砥を真澄が上から押さえ付ける。
「真澄ちゃぁんっそんなに寂しかったのぉっ」
床下収納から腕だけがはみ出て蠢く姿はテレビから出て来る幽霊の逆Ver.のようだ。
「去れ細菌!」
目を血走らせて叫ぶ真澄を猫なで声で宥める。
「いじっぱりな真澄ちゃんも可愛いよ。」
真澄はそれを聞くなり近くにあった串モノ用の金具串を突き刺して、流石に痛かったのであろう怯んで血を流す腕を収納の中に足で押し込んで,蓋を閉めガムテープを貼付ける。
食器棚を上に移動させて更に馳平が手渡した漬物石を上に乗て息を吐く。
暫くガタゴトいっていたがおさまり真澄が席に戻った三秒後。
人が上から降って来た。
待て。
この小屋は二階建て。
天井裏もへったくれもない。
テーブルの中央の鍋隣りに仁王立ちになった青砥は中央に葉っぱをつけた原始的な出で立ちだ。
「諸君、野菜が足りないぞ!」
肩に抱えた三束の春菊を鍋に投込もうとした青砥を床波が飛ばす。
床に落ちる寸前の春菊を芦刈が拾い、真実がそれを手早く洗い、適度に切る。
「床波ぃっ貴様先刻より邪魔をしおって!さては貴様も真澄ちゃんをぉおぉ!」
充血しきった目にめがけて床波がスープを投げ付けてのけ反った青砥を真澄の投げた漬物石が当たる。
流石の青砥も頭から血を流して気をうしない、それを馳平がシーツに包んでロープで縛り、梁から吊しながら呟いた。
「青砥先輩も一応人間だったんだ…。」
一同があらかた鍋を食べ終えて、片付けを始めた頃ようやく青砥が目を覚まし、水揚された魚のように暴れ始める。
「私の鍋がないではないかっ」
「土鍋食べます?」
洗っている鍋の蓋を差し出した馳平わ手で制す真実。
「青砥なら本当に食べるから。」
否と言えない部員達。
そして何でこいつが部長なんだろうという疑問の視線を全員が向けた。
「何だね?まぁいい。今回の依頼だ。」
葉っぱで隠れた中心から手紙を取り出しほおる青砥。
「読みたまえ。」
それをじぃっと眺めていた芦刈が呟く。
「口頭じゃ、だめか?」
またしても全員の共通する意見だった。
「それは麗らかな午後、当家のポストに何のへんてつもない白い封筒が入った。 一見すれば以上がないただの封筒だったのだが、それには一つ不審な点があった、それは…
差し出された封筒を全員がのぞきこむ。
1、2、3秒。
間を置いて青砥の頭を床波が殴り飛ばす。
「ふごぁっ」
「何のへんてつもないだと!?これがか!?」
怒る床波の横で芦刈が封筒を持ち上げルーペで見る。
「うーん。僕もそう思わないなぁ。」
微笑む床波の手にある封書の文字はややドス黒い。
魔術や科学に多少関心がある人間ならばすぐにわかるであろう、
これは。
「血文字だねぇ。」
のんびりとした床波の手から真実が封書を奪い、中を出せばそこの文字もドス黒い文章は短く簡潔に内容を伝えるものだ。
『赤松家よりの依頼、受けるのならば命の保証できかねる。 朝焼けの使者』
真実は手紙を机にそっと置いて、拳を握り締めそれを勢いよく振りかぶり、青砥の頬に当てる。
「ふごをぁっ真実何をっ」
真実は微笑んでいる。
「出せ。」
「何を…ふごっあ♪」
今度は真澄の拳がヒットする………心持ち嬉しそうだ。
「赤松家からの依頼状。」
「順番、逆…ですよね?」
首を傾げる馳平の目もすわっている。
「いや私は皆に危険を…」
「「「「「いいから出せ」」」」
全員に詰め寄られ、懐から…つまりはその、内股近くから書状を取り出す青砥。
それを床波がピンセットを使い広げると、一同の目が輝く。
その内容とは。
『拝啓、青砥様
先日は急にお電話をいたしまして、大変ご迷惑をおかけしました。
此方でも努力はしたのですが、皆様のお知恵なしではこの問題は解決しそうにありません。
どうかお力を貸しては頂けませんでしょうか?もし貴方様方の返答が諾でしたらご都合のつく時で結構ですので一度こちらに皆様おいで下さいませ。
ご都合の良い日取りが決まりましたらご連絡下さい。
こちらよりチケットを送ります。』
上品な筆文字の手が身に添えられた写真を少し離して置く。
白い布の上に置かれたそれは紫水晶の数珠の写真。
「これがなんなのですか?」
馳平が青砥を見上げて問えば、スッと目を細めた真剣な表情で青砥は呟く。
「オーパーツだそうだ。」
「どういう構造です?」
真澄が真剣な目線で写真を見て言うと、青砥は写真を指差し口を開こうとした時。
「質問です。」
馳平が手を上げた。
「何かな?」
芦刈が穏やかに聞く。
「オーパーツって何ですか?」
床波がこめかみに手をやるのを制し、芦刈が馳平の前にやってくる。
「そうだね、じゃぁ、クフ王のピラミッドは知っている?」
「エジプトにある巨大ピラミッドですよね?」
「そう。じゃぁナスカの地上絵は?」
「宇宙人が描いたかもしれないっていうあれ?」
「じゃぁ、古代マヤの水晶髑髏は?」
「知らないです。」
「マヤは古代文明で、そこでありえないものが発見された。」
芦刈はおもむろに懐から何か取り出すと、馳平の前で取り出し握り締めていた掌をひらけばそこにあるは透明のスカル。
「こんなのがね、発見されたんだよ。」
まさか、と馳平が訝しげに眉を顰めるのを床波はにやにやと笑いながらみつめる。
「ありえねぇだろ?」
床波は芦刈の手からスカルをそっととり、光に翳し「お、本物か~」と笑う。
室内の光を内部屈折して通り乱反射する様は純粋に美しい。
床波の手から芦刈はクリスタルスカルを取り戻し、大切そうに懐にしまう。
「そのあり得ないものがオーパーツ。」
「芦刈先輩が言ったナスカの地上絵も、そしてストーンヘンジもオーパーツ。古代人類が残していった現代へのミステリー。」
一見して沈着冷静に見える真実と真澄の二人だが目は好奇心と探求心で爛々と輝いていて、それは二人だけに止どまらず皆に共通して言える事だった。
「で?その数珠はなんなの?」
真実がトン、とボールペンを机に立てて軽いカーボンの音を立てる。
あぁ、と青砥が椅子をひいて座ろうとした時
床波が更にその椅子をひいたので青砥は床に転がる。
「床波ぃっお前はぁっ」
「話は俺も聞きたいがな…まず服を着ろ!」
床波の怒りに震える足が青砥の腹を抉った。