日常
奇人変人が集うサークル 奇怪研究会 そこはクラブ棟から離れた所にある魔窟である。うら若き男女が顔を合わせて一体何をしているのか、そして時折響く叫び声は・・・其処へ近付くのならばお覚悟はよろしゅうございますね? 時折依頼が舞込むとは噂には聞こえますが、知らぬほうがよろしいでしょうよ・・・おや?ご興味がお有りで?奇特な方だ、どんな事に巻き込まれても、知りませぬぞ?
他愛もない。
そんな日常の触れ合いはいつしか昏い喜びになる。
年の明けた大学構内の部活動用プレハブから少し離れた雑木林に木造の小さな2階建ての小屋がある。
そこは大学内でも有名な小屋なのだが、人で賑うプレハブからその雑木林に足を踏み入れる者は皆無だ
毎年新入生が来る時期になると、黄色いテープにKEEP OUTと書いてある所謂事件現場立ち入り禁止の黄色が目に鮮やかに写り、プレハブ利用者はそれで春の訪れを実感するという。
その小屋を人々は様々な噂で彩る。
旧日本軍の研究を引き継いでいる、とか。
はたまたアレイスター・クロウリーの蔵書を読み漁り、夜な夜な召喚術を行っているとか。
ヘルメス主義の錬金術研究をしていてエリクサ作りに心血を注いでいるとか。
はたまた道鏡の術で何らかの蘇りをしているとか。
端的に言うなれば。
ろくな噂がない。
だが無謀という若さを持つ大学生の中には好奇心半分功名心半分で侵入を試みた者が過去にはいたが、その全員が………変わり果てた姿で戻ってきたのだ。
この事実は噂を更に広げ、そしてこの小屋は伝説となった。
秋。
文化祭の喧騒をよそに静かな雑木林は何やら怪しい雰囲気に包まれている。
昼間なのに暗い室内で蝋燭が揺らめき、黒いマントの裾が床を滑り、
香の煙が小屋の扉からもくもくと流れ出ていた。
「火事だぁぁぁあ」
どうやら儀式ではなく単純に不審火だったらしい。
それでも近付かないプレハブ利用者達。
そんな中可憐な、いやいや…ちょっと、だいぶレースが多めの黒を基調とした膝丈スカート、栗色縦ロールで人形のような人物がその建物へ歩いて行く。
「そっちへ行ったら危ないよ?」
親切なラグビー部員がその可憐な人物に言うと栗色の縦ロールを揺らし振りかえる。
「大丈夫です。」
アルトの軽やかな声。
斜めに首を傾げて桜色の唇が弧を描く仕草が愛らしい。
顔をトマトより赤くした男に目線を流し、タタン、とリズミカルにその場を去り、レースのリボンが雑木林の小屋に消えるのを男はぼんやりと眺めていた。
白魚のような手に施された薄い桜貝のような爪にのる小さな薔薇の指先でドアノブを捻り、室内へと足を踏み入れ煙に目を細めて手で払う。
「姉様、姉様」
ケホケホと咳をしながら前が見えない煙の中を進む。
「真澄」
自分を呼ぶ声の方向へ手を伸ばし、触れ合った腕を引き寄せる。
「姉様ご無事ですか?」
「なんとかね。」
「床波先輩と芦刈先輩は?」
「買い出し中。」
「そうですか。じゃぁ早く出ましょう。今ならまだ間に合います。」
姉は何が、とは問わず黙って出口を目指す。
玄関入口で真澄は振り返り、レースに彩られたポシェットからライターと何やら長細い、先端に紐がついているものを取出した。
「うふ、ふふふふ…これでようやく」
その長細い筒状のものを握り締める手は力の入りすぎで爪がミシリと食い込む。
喉の奥から込み上げて来る笑みは先刻の愛らしさのカケラも見当たらない程
黒い。
シュっとライターの着火音。
姉は既に退避済みだ。
「消えろぉぉぉおっ」
真澄が火をつけた筒状のものを投げた瞬間!
ザバーと水が飛んで来る。
その筒状の白いものも真澄も当然濡れ鼠だ。
真澄は濡れた髪をかきあげて、水が飛んで来た方向を睨み付ける。
やがて煙の中からゆらりと人影が。
「真実!真澄ちゃんをどうしていつも放置するんだ!」
怒りの声と共に現われた姿は…………
「イヤァァァァア!」
真澄はスカートの裾に手をいれて、ガーターベルトから先刻と同じ筒状のモノを取り出し、素早く着火したものを投げつけ逃げ出した。
背後で轟音がするも真澄は気にした素振りも見せず、全力で扉に体当たりするも扉はビクともしない。
「姉様っ真実姉様っここを空けて下さい!」
一生懸命扉を叩く真澄の背後に煙の中から人影が揺らめいて猛スピードで迫る。
「姉様っ姉様ぁぁぁぁあ」
扉の向う側では愉快そうな笑い声。
「姉様っ見捨てないで!」
叫ぶ真澄の肩に手が掛かる。
「真澄ちゃ~ん、そんなに俺に構って欲しかったのかぁ~可愛いやつめぇ。お仕置だぞ。」
「イヤァァァァ姉様ぁっ」
男は露出狂以上の露出した姿で、真澄は口元を引き攣らせ目をそむけながら下を見ないように上を向こうとした真澄の頬を力強く掴み、唇を合わせた。
一分程の口付けの後、男が真澄の肩から手を離せばカクン傾く身体を肩に背負い扉を足で開ける。
外では真実が薄い微笑みを浮かべて笑っている。
「青砥、早かったのね?」
「真実。あんまり危ない真似させるなよ。」
うってかわって真剣な面持ちで言う青砥に真実は更に笑みを深くする。
「せめて大事な所を隠してから言ったら?」
「我が肉体に恥すべき所なぞない!」
「恥ろよ」
静かな低い声と共にボロボロの野球ボールが綺麗な弧を描いて青砥に当たる。
某映画のようにのけぞる青砥の額に球が当たるのは素晴らしいコントロールと言えよう。
「床波ぃっ当たったらどうするんだ!」
もう当たってるわよ、という真実の言葉を無視して、が笑う。
「世界が平和になるだけだ。」
ごもっともな台詞に床波も笑う。
「それはともかく、この煙はなんだ?」
指差した先の小屋から今だ流れる煙。
「青砥、俺は鍋の準備をしてろと言ったよな?それがどうやったら煙で充満する事になるんだ?」
にぃーっこりと青砥の肩を力強く床波が持って揺らす。
「そんなのは簡単だ。私は鍋の準備など出来ぬがゆえ、リンドブルムを召喚し」
青砥の言葉を中断するかのように芦刈が床波へ石をほおり、それは青砥の顎に当たる。
「いだっ」
派手にひっくりかえる青砥の腕から真澄を奪い手早く真実の側へ行く。
「芦刈ぃっ」
怒り狂う青砥の背後でゆっくりと開く扉。
そしてもくもくとした煙から人影が現われる。
「…馳平…すっかり忘れていたわ。」
真実の呟きにゆっくり馳平は頷き、低めの美声でボソリと言った。
「いつもの事だ。」
馳平が言葉を言い終えると同時に風が吹き、丸い頭が揺れた。
真実が肩を揺らした振動に真澄は目覚めてゆっくりと開かれた瞳に馳平が写る。
「馳平君、ご無事だったんですね…。」
アンタ忘れてたじゃん、という真実の言葉を無視し、潤んだ瞳が衝撃に見開かれた。
「馳平君のビューティフルヘアーがアフロになってるーーーーー」
絶叫と同時に駆け出して真澄は青砥に飛び蹴りをいれた。
その足を寸前で受け止めて抱き締めようとした青砥のにやけた顔を伸ばした逆の足で遠心力をつけてふっとばす。
「あー…殺人はやめてね真澄ちゃん。」
「ふんっそんなんで死ぬなら苦労はしない。」
芦刈と床波に散々な言われような青砥はボキィっといったまま地に沈み、勢いをつけて起き上がる。
「いっそ気持ち悪いわね。」
真実の冷静な言葉など気にもせず、延々と
「愛のムチ、真澄ちゃんの愛のムチ」と繰り返している。
そんな青砥の首を片手で掴みギリギリと締め上げながらドスの効いた声で真澄は青砥を殴りながら叫ぶ。
「元に戻せ。」
圧迫された喉をヒューといわせながらも青砥は笑顔だ。
「黒魔術でいい?」
「なんでもいいからやれ。」
命令をして青砥の首を地面に叩付けた真澄に恍惚とした視線をやりながら青砥は馳平の元へ向かう。
馳平の足元にバケツに残っていた水をまき、指示を出す。
「馳平君、その水を越えて、呪術は水をこえられないそうあるように、と言いなさい。」
素直に従った馳平の髪は元通りとなったが青砥の髪が何故かアフロになる。
「アレ?何で失敗したかな?」
そんな青砥を突き飛ばし、真澄は馳平に駆け寄り抱き締める。
「やんっ馳平君のサラサラストレートロングが元通り!良かったぁ。」
「真澄ちゃん!俺は頑張ったよ!」
手を伸ばし喜々として言う青砥に石を投げる真澄。
「寄るなアフロ。」
「そんな真澄ちゃんも素敵だよ。」
変態青砥を指差して、床波が芦刈に目線を向けて首を傾げる。
「あれ、何したんだ?」
「ああ、古い魔術でね、呪術師からかけられた呪いを解くためのやつなんだけれど流れる水を越えて唱える方法を流れない水でしたから、反動がきちゃったみたいだね。」
「呪い?あれは真澄の投げた危険物の爆風でなったんじゃないのか?」
「んー真澄ちゃんは潜在能力が非常に強い子だから、青砥に強い負の感情を向けて言葉を発すれば呪いになっちゃうんだよ、それに巻き込まれた馳平君はついでに呪われちゃったという所かな?
ウフフフ、いい気味だね。」
「ふうん、そんなもんか。まあ自業自得だな。」
これが奇怪研究会のメンバーである。
連載自体は終わって次の話に取り掛かっておりますので、なるだけ早く更新するように頑張ります、修正しつつ。