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電子世界の開拓魔術師  作者: 矢口 旬
1章~その少年は開拓者~
7/15

進行中

明けましておめでとうございます(礼

 夕方、ヒルドラグトを出発してから二時間ほど経った道の途中。

「ヤ、ヤマト殿、あと、どれくらいだろうかね?」

「半分は切った。同じペースであと一時間半だ」

 その報告は残酷にハベルの足に重く圧し掛かる。

「せ、せめて、二時間ペースまで落としてくれませんかな?」

「日没まではあと一時間を切っている。この道の夜は三十分の距離でも危険度は高い」

 ハベルの頼みもあっさりばっさり切り捨てて先を急ぐ。

「お嬢様と旦那様はこういった運動に慣れてはいない。気遣ったらどうだ?」

 エリーゼが注意するが、

「夜のこの道に一時間もいたら、まず間違いなく戦えない二人は死ぬ。仮に俺とお前が必死に守り抜いても一人が限界、しかも守り抜いた代わりにお前が死ぬ。そうなってもいいのか?」

「うぐ…」

 ヤマトに脅されて何も言えなくなる。

「悪いがこのペースは譲れない。欲を言えば今の二倍の速度で進みたいくらいだ」

 続く言葉に少し青ざめるハベルだが、

「…うん。ならもっと速く行こう」

 逆にシェリルは、ヤマトの言葉を受けてぐんぐんとペースを上げていく。

「お嬢様、あまり無理をなされては…」

「ううん、無理してでも早く辿り着かないとね。お父様も頑張って!」

 疲れが出ているのに活を入れるなど明らかに無理をしているが、その顔には、そんなものは吹き飛ばせ、とでも言う様に笑顔が浮かんでいる。

「ほら、娘があんなに頑張ってるんだ、弱音吐く前に気合を入れたらどうだ?」

「ふぅ~、仕方ない。私も娘一人残して天の妻に叱られたくはないのでね」

 そう言って、何とかシェリルに追いつくハベル。

 その様子を見て、ヤマトはつい微笑んでしまうのと同時に焦る。

 今のペースで行けば、何とか夜になってから三十分以内でフォトスレーインに着ける。

 だがその三十分は、護衛対象の二人の疲れがピークになった状態で迎えることになる。そうなれば、もしもの事態に陥った時に全力疾走で強引に逃げ切る選択肢が使えなくなる。

 ヤマトはふと空を見上げる。

 夜はもう、広がり始めている。覆い尽くすのにさして時間は掛からない。

(SPは節約したかったが、止むを得ない)

「《脚力総合強化付与フットエンチャント》」

 ヤマトが呪文を唱えた途端、全員の歩行速度が速くなった。

「これで歩き易くなったはずだ。急ぐぞ」

 焦るヤマトの先、シェリルの返事が聞こえてきた。




「ヤマトくん、あれ何?」

 夜になって十分ほど歩いた辺り。

 シェリルが道の先に見えた透明な壁のような物のことを聞く。大して時間は掛からないとはいえ、町の屋根があるであろう高さより五メートルは高そうな位置に見える壁は結構な大きさであることが伺える。

「あぁ、あれがフォトスレーインの絶対魔法防壁だ」

「ということは、目的地が近いのですかな!?」

 ヤマトが頷くとハベルが安堵した様子を見せる。慣れない移動で不安続きではあったのだろう。

「気は抜くな。まだ着いてない」

 しかし、そんな安堵を許さないかのようにヤマトは脅し続ける。

「ですが、もう―――

「俺が一番危惧しているのはこの辺りだ」

 ハベルの言葉に被せて意見を否定する。

「あの、ヤマトくん。ぜったいマホー…って何?」

 ヤマトとハベルの空気が重たくなったところで、シェリルが割り込む。

「あぁ、あれか。あれは俺が張った(・・・・・)人以外の侵入を阻む特殊な結界だ」

「ほぅ。人以外を阻む貴様の…は?」

 感心していたエリーゼがあるワードに疑問を抱く。

「ちょっと待て、貴様の張った?」

「そう、俺が張った」

 しれっと答えるヤマトに、いやいや何を言ってるんだこいつはという反応を返す三人。

 予測できた反応に少し諦めの入ったため息を小さく吐いて答える。

「無事に着いたら、町の人間に聞いてみろ」

「いくら何でも一人の魔術師が出来る範囲を超えているだろう。剣士の私でも分かるぞ」

「あのなぁ、やろうと思えば全てを根こそぎ丸々改変できる世界だぞ?あの程度できて当然だろ」

『……………』

 唖然。

 あまりにしれっと言うので説得力を感じて笑い飛ばせなくなってしまった。

 それに確かに、世界を自分の意思で(・・・・・・・・・)改変させられるのだ(・・・・・・・・・)

「お前らも知ってるだろ?一人の英雄と二人の悪魔の話くらいは」

「当たり前だ。二人の悪魔と一人の勇者の話を知らない人間が、この世界にいないはずがあるか」

 知らないはずが無い。

 人類がこの世界のことを忘れてしまえば、二度と平和を夢見れなくなる。だから生まれて来た子供に聞かせるのだ。

 この世界は悪意によって変わったと。

 三百年前はモンスターのいない世界が広がっていたのだと。

「おや?大丈夫ですかな、お嬢さん」

 突然ハベルが誰かに向かって声を掛けた。

「旦那様、その人は?」

「いや、どうにも気分が優れないようでね」

 そこには、妙齢の女性が座り込んでいた。

(なんだ?)

 張り切って進んでいた三人と少し距離を開けて歩いていたヤマトは事態に気が付くのに数瞬遅れた。



 それが致命的だった。



 ヤマトが動いた時、女性の口元がニッっと笑ったのが見えた。

(マズい!)

「《十六連ショック・ボルト》!!!」

 バリバリバチチ!!

 昼間エリーゼとの戦いとは比べ物にならない量の電撃が、ピンポイントで女性だけにヒットする。

「きゃっ!」

「貴様いきなり何を!?」

 驚いて飛び退くシェリルとエリーゼ。シェリルとハベルがいるにも関わらず攻撃魔法を放ったヤマトに文句を言おうとしたエリーゼだったが、

「急げ早くしろ!!町まで全力で走れ!」

 切羽詰った声で急かすヤマトに文句が喉元で引っ掛かってしまった。

 言葉の真意が分からず女性の方を見ると、

「なんだ…あれ?」

 左手に巨大な植物のつぼみのような物体を持っていた。

「ほぅ、よく分かったのぅ小童」

 先ほどまで座り込んでいたはずの女性は尊大な態度でヤマトを褒める。

(わらわ)がお主ら人間ではないことが」

「…経験豊富なもんでね」

 ヤマトの返答に、女性は口元を押さえて上品に笑う。

「ヤマトくん、どういうこと?お父様は?」

 いきなりの事態に付いて行けないシェリルが質問する。

「……………」

 歯噛みするヤマトを見てエリーゼの中に嫌な予感が広がる。

「すまん。もう…助けられない。だから早く行け」

 悔しそうに杖を構えるヤマトが告げる。

「何…言ってるの?だってほんのついさっきまで…」

 混乱したまま、ヤマトの言葉を認められないシェリル。その足にはほんの数分前まであった元気など欠片も込もっていない。

「急げ。これ以上取り返しがつかないことにはしたくねぇ」

「ねぇ、嘘でしょ?」

「早く行け。じゃないともっと危険になっちまう」

「嘘って言ってよ」

「頼むから立って町まで急いで進め」

「まだ、お父様と話したいことだって…」

「もう出来ねぇんだ、行け!」

「イヤよ、いやぁ…」

 シェリルの目から大粒の涙が零れる。

「いやぁぁああああああ!!!」

「行ってくれ!!」

 認めたくないシェリルはその場に膝を着いてしまう。

「…旦那様は、本当にもう助からないのか?」

 頭を抑えるシェリルを見て、エリーゼが静かに問う。

「あ、あぁ……相手が相手だ。はっきり言ってここを無事に通り抜けられるとも思ってない」

 エリーゼの質問に多少戸惑うもすぐに冷静に答える。

「そうか…」

 残念そうに目を閉じるとシェリルの方に歩いて行き、

 ポン。

「エリーゼ?」

 慰めるようにシェリルの肩に手を置いてから、

「さぁ、行きますよ!」

 米俵よろしく、シェリルを肩に担いだ。

「エリーゼ!?ちょっと!」

「二流剣士…」

「私はお嬢様を護らねばならない。活路を開いてくれ」

 ヤマトが驚いてそちらを見るとエリーゼの顔には覚悟が刻まれていた。

 その覚悟を、受け取った。

活路の方(そっち)は最初から期待してねぇよ」

 杖を構え、

 敵を見据える。

「あの魔法防壁の中に入れば勝ちだ。ここを抜けても気を抜くんじゃねぇぞ」

「当たり前だ」

「ふふ、いつでも来るがよい」

 不敵に笑う女性(てき)と対峙した二人の頭上。



 モンスターの徘徊する夜が、始まった。



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