決着の後
久しぶりに更新できました(ホッ
ヤマトは苛ついていた。
(何だって俺が犯罪者扱いを受けないとならないんだ!?)
実際に手錠を掛けられたわけではない。しかし、街の警官に事情を尋ねたいから署まで来て欲しいと言われた。当然こちらは被害者なのだから、エリーゼやシェリルに対して聴衆するのが当然なのだ。
結局そんなことは関係なしに事情聴取をされ、シェリルの必死の訴えが無ければ聴衆のみで終わったかも怪しい。
とは言え、それもこれも誰のせいかと言うと…
「全部お前が森に入ったせいだろうが!!」
「ご、ごめんなさ~い!」
やっぱりシェリルのせいだった。
今はシェリルが宿泊しているホテルの一室にお邪魔している。報酬と賠償金を請求するためだ。
「全く、貴様は善意で人助けも出来んのか」
エリーゼが不機嫌そうに言うと、
「誰かさんが出会い頭に斬り付けてくれたからな。おかげで犯罪者になりかけたんだ。そっちこそ、それなりの誠意の見せ方ってもんがあるんじゃねぇのか?」
より不機嫌な声で皮肉まで織り交ぜて返すヤマト。
「本当にごめんなさい!ヤマトくん」
「お嬢様、何もそんなに謝らなくとも…」
先程から謝罪を続けるシェリルをエリーゼが諌めようとする。
「ううん、全部私が悪いんだもの」
だが、シェリルは断固として謝るのを止めない。
「私に出来ることなら何でもするよ」
さらにはそんなことまで言い出した。
「いけませんお嬢様!こんな外道にそんなことを言っては何処まで要求し始めるやら…」
「主の恩人を外道呼ばわりとは、よっぽどお前は偉いんだなピンク脳」
エリーゼがさらに諌めようとするとヤマトの不機嫌な声が横槍を入れる。
「なっ!私は別に…というか、貴様はお嬢様に何を要求するつもりだ?」
「そのぅ…ヤマトくんが言うなら、え、え……エッチなことでも、そのあの…」
「やはり貴様ぁ!」
「はぁ~~~~…んなつもりはねぇよ、変態妄想厨ども」
そんな感じで、ギスギスしたりペコペコしたりオロオロしたりしながら三人は賑やかに話していた。
「てか、そもそもこいつがちゃんと戦い方を学んでたら良かったんじゃねぇのか?」
しばらく話がループ―――もとい、続いていると、ヤマトが言う。
「お嬢様は学業に専念なされている故、そのようなものに費やす時間はない」
「…本気で言ってんのか?」
エリーゼの発言にドン引きした様子を見せる。
「何が言いたい?」
「正気の沙汰とは思えねぇっつってんだよ。このご時世に自衛の手段を身につけてないなんざ、長生きする気が無いって言ってるもんだぞ?とんだ教育方針もあったもんだな」
「貴様!お嬢様だけでなく、旦那様まで愚弄する気か!?」
「困った事態になった時に対応できなくてどうやって生き残る気なのかって話だ」
エリーゼの激昂も気にせずに語る。
「今回は例外だ。そうそうあのような事態になることはない!」
絶対の自信があるのか、胸を張って宣言するエリーゼに、
「………遭ったことねぇんだな」
「何か言ったか?」
いや何も、という風に首を横に振るヤマト。
と、その時部屋の扉が開いて一人の男性が入てきた。
「どうも。私はハベル・ウィングフィールド、シェリルの父親だ。今回はわが娘が大変な迷惑をかけたようで、本当に申し訳ないね」
「前置きはいい。今回の報酬の話だ」
ヤマトの失礼な態度に声を荒げそうになるエリーゼを、ハベルは片手で制す。
「さて、何がお望みかなヤマト殿。お金かな?それとも、わが娘シェリルかな?」
「旦那様!」
「ほほほ、本人たちがそれで良いなら私は構わんよ」
「お、お父様ったら!」
「それだけはやめてくれ。こんな常識知らずを連れて行っても何の役にも立たねぇから」
何だか微笑ましい会話がなされているのを冷や水をぶっかけるようなKY発言でぶち壊す。しかもかなり大真面目な真顔で。
「今の時代に自分一人で生きて行く力の無い奴に価値なんざねぇ。なのにあんたの教育方針は随分甘いじゃぁねぇか?」
「………世界は争わずとも生きていける。私はそう習ったものでね」
「そいつはよっぽど狂ってるか、現実逃避してるかのどっちかだな」
「貴様どこまで無礼にすれば気が済むのだ!!旦那様のことを何も知らないくせに、いい加減にしたらどうだ!!!」
剣を抜こうとするエリーゼに、しかしハベルは制止する。
「旦那様!?」
「エリーゼ、私は彼の言っていることに間違いはないと思っている」
その言葉にさすがのヤマトも目を丸くする。
「おいおい。それじゃぁ何か?娘を危険にさらすのを承知で教えなかったってのか?」
「いや、そうではない。だがきっと怖かったのだよ。娘を戦わせることが。失うことが」
「お父様…」
「…あんたの下らない恐怖心のせいで、娘は死にかけたんだぞ?」
「うむ…」
ハベルは落ち込んだ様に顔を俯かせた後、
「ヤマト殿、貴方の戦闘レベルの高さを見込んで頼みがあります」
勢いよく顔を上げてそんなことを言ってきた。
「…内容と報酬による」
ハベルは意を決したようにヤマトを見る。
「今日中にフォトスレーインの町へ娘を送って下さいませんか!?」
バキッ!
ドシャァ!!
シェリルとエリーゼは最初何が起こったのか分からなかった。
その音が、ヤマトがハベルを殴った音だと気付いた時、悲鳴と怒号が飛び交う。
だが、ヤマトはそんなものは意に介さずにハベルの胸ぐらを掴む。
「常識知らずも大概にしろ!!自分が何言ってんのか分かってんのか!?何も知らない田舎者が、一回大丈夫だったからって調子付いてんじゃねぇぞ!!!」
「それなりの金額は払いますぞ」
バゴッ!
再び殴る。
「報酬の話じゃねぇ!」
ハベルの胸倉を離してから、ふぅ~、と深呼吸をして、ヤマトは無理矢理自分を落ち着かせる。
「…行くなら明日の朝にしろ。ただし早朝ではダメだ。きちんと日が昇ってから。その時間ならそこの二流剣士でも安全にフォトスレーインに行ける。早朝に用事があっても俺の名前を出せば問題になることはない」
その言葉にむっ、と反応するハベル。
「悪いがこちらにも事情と面子というものがあるのだよ。君のような若い者には理解出来ないかもしれないがね」
起き上がって埃を払うハベルは話を続ける。
「ヤマト殿に任務を依頼する。報酬は一千万前払い。受理すれば途中キャンセルしても報酬は返金の必要はない。内容は我が娘、シェリルをフォトスレーインに送り届けること」
「断るっつってんだろ!」
「はっ、貴様もしかして怖いのか?夜道を歩くのが」
激昂するヤマトをエリーゼが挑発する。今までの鬱憤が溜まっていたからなのか、色々と感情がこもった声でかなりムカつく感じに。
「お前らはあの道がどんなところか分かってねぇんだ!何であの村人が夜に村の外に出ないのか!!」
「モンスターなどどの道でも出るだろう?何をそんなに怯えることがある?」
「だからっ!!」
「ヤマトくん…」
平行線の言い争いにシェリルが割り込む。
この場を落ち着かせて、ちゃんと自分の話を聞いてくれるだろう。
そんな期待を込めてシェリルを見るヤマト。
「ヤマトくんが行っても行かなくても、私たちはフォトスレーインに行きます」
しかし、その期待はあっさり裏切られる。
「お前まで―――
「お父様、今すぐお金を渡して下さい。それと、ヤマトくんの望む報酬を」
「う、うむ…」
急に指示を出し始めたシェリルに驚きながらも言った通りに動くハベル。
この世界でのお金の受け渡しはマネーカードを使ったデータで行い、商品などの現品は手渡しという形式になっている。ハベルはマネーカードを取り出して一千万の金額データをヤマトに送信する。これでヤマトは一千万を手にしたことになる。
「ヤマトくん、私の護衛の報酬に何を頼もうとしたの?」
続いて望みの報酬を聞く。
「……SP回復ポーションだ。30%と50%を一つずつ」
「エリーゼ。五分で買って来て」
「お、お嬢様…?」
「早く!!」
「は、はっ!」
戸惑うエリーゼを叱咤してまで急がせるシェリル。
「どういうつもりだ?いきなりしっかりしやがって」
さすがに疑問が我慢や驚きを突破したのだろう、ヤマトが尋ねる。
「私たちが今日中にフォトスレーインに行く予定は変えられないの。宿泊場所の関係でね」
ヒルドラグトでは近々お祭りがあるため既にどこの宿も満室。今泊まっている場所もあと2時間以内に出ないといけないと言う。
「だから、早くに向かう。夜がダメなら夕方の間に進んで、夜の間に通る距離を短くすれば危険度はずっと下がるんじゃないかしら?」
「…………………………………」
シェリルの意見は一理ある。
このヒルドラグトに留まれない以上、ただちに他の町に入る必要がある。かと言って近くにある町はフォトスレーインのみで、他の街へ最速で行こうとすれば三日間休み無しで進まなければならない。それにヒルドラグト~フォトスレーインほどの強さではないものの、多くのモンスターが出る。とてもじゃないが、戦力外のお荷物二人を守りながら無事に辿り着ける距離ではない。それに比べれば今すぐに出発してフォトスレーインに向かった方が幾分生存率は上がる。
(だがあの道は…)
「……………」
悩むヤマトを見守るシェリルは、何も言わない。
バタンッ!
「ポーション二つ、買ってきました!」
そうこうしているうちにエリーゼが帰って来た。
「譲渡してエリーゼ」
言われると無言でポーションを手渡す。
「ヤマトくん、これで私たちが尽くせることはしました」
これでヤマトは解放された。その気になればもう二度とシェリルたちに関わらなくてもいい。何かあっても、ヤマトの責任ではない。もし護衛を達成してもしなくても報酬は既に渡された以上はヤマトの仕事は完了とみなされる。
もう一度言うが、シェリルたちがどうなろうとヤマトに責任はない。
「ちっ」
(せっかく助けた命をまた危険に晒しやがって…)
このシェリルという少女はヤマトにとっては何でもない赤の他人だ。
だが救った命を無駄に散らせる事態に了承出来るはずもない。
「…この中で俺含む誰か一人は必ず死ぬ。そういうつもりでついて来い」
その言葉にシェリルが破顔する。
「ありがとう、ヤマトくん!」
ハベルは安堵の表情を見せ、エリーゼはため息を吐いた。
「付与魔法してでも、夜に通る時間を短くする。急ぐぞ!」
大急ぎで部屋から出る一行の外。
夜の帳が降り始めていた。