勘違いの戦闘
いきなり倍も長くなってしまいました(焦
森からの脱出は全力ダッシュの強行軍だった。
草木を掻き分け、魔法で斬ったり燃やしたりもして真っ直ぐ進む。
時々モンスターが現れるが、
「《ショック・ボルト》!」
ピカッ!
「ギャッ!!」
「よし」
マヒのステータスを付与する雷撃魔法で痺れさせたスキに脇を走り抜けて行く。
耐性を持った相手には連続で当てることで確実に痺れるさせる。
二十分もそんな調子で走って、やっと道らしい道に出る。
「ふぅ、とりあえずこれでデッドエンドは無くなったな」
舗装された道に出て初めて大きく息を吐くヤマト。
「ね、ねぇ、ヤマトくん」
「ん?どうした?」
聞き返すと、シェリルは顔を赤くさせてもじもじしながら、
「あの、もう大丈夫ならそのぉ…お姫様抱っこを…」
「却下だ」
お願いするも言い切る前にダメ出しされた。
「なんでぇーー!?」
「両手がふさがるのは面倒だし、お前に杖を預けるなんてありえねぇ」
「むぅ、杖くらい離さずに持ってられるよぉ!」
「魔術師の杖を『くらい』扱いするような奴は信用できないと言ってる」
その言葉に、さしものシェリルも静かになる。
「剣を持たない剣士が何の意味も無いように、武器はアイデンティティそのものだ。それも分からない世間知らずの箱入り娘が、自分を一人前だなんて思うのは勘違いも甚だしいんだよ」
「そ、そこまで言わなくても…」
はぁ~~~~~~~、と本日一番のため息を吐いてシェリルの抗議を否定する。
「モンスターの危険を知らなくても、子供は森に入らん」
「…っ!」
図星なので、それ以上何も言えなくなってしまう。
黙ったまま道なりに五分ほど歩いて、
「ヒルドラグト到着だ」
街の入り口にたどり着いた。
ヒルドラグト。
大型のデパートやマンション、石造りのオフィスビルが立ち並ぶ大規模都市だ。人口は少なくなった今でも二十万を越える。世界の五大都市に数えられる街である。
「あっ!あの建物覚えてる!帰ってきたんだ、やったぁ!………うぇっ」
バタバタ暴れて喜んでいたかと思えば、ぐずっ、という涙声に変わる。
「私、ひっぐ、……生きて、ぐずっ、るんだぁ…あぁぁああああぁああああ!!」
安心した途端、涙腺が崩壊。涙が止まらなくなる。
本当に不安で怖くて仕方なかったのだろう。
ヤマトはただ一言。
「…良かったな」
それだけ言った。
うん、うん、と何度も頷くシェリル。しばらく泣き止む様子は無い。
(やれやれ、これじゃぁ店にもはいれねぇな…)
若干困りながらも適当に休める場所を探すため歩き出そうとした。
瞬間―――
「お嬢様!!」
「《ショック・ボルト》!」
バチィ――!!
ヤマトが振り返ると、蒼いデザイン性溢れる甲冑に身を包んだ女騎士が剣を構えていた。たった今、後ろから斬りつけてきたのも彼女だろう。
「エ゛、ぐすっ、エリーゼ……うぁああああぁああああああっあぁあああああ!!!」
知り合いが来てさらに安心したのか、より大きな声で泣きじゃくるシェリル。
ヤマトはすぐに引き渡そうとしたのだが、
「貴様ぁ!お嬢様に何をした!?」
「は?」
エリーゼと呼ばれた女騎士は何を勘違いしたのか、構えを解かずに殺気をぶつけてくる。
「ちょっと待て、何で俺が攻撃されなきゃいけないんだよ!?」
「黙れ外道!お嬢様を攫って貴様こそどうするつもりだ!」
はぁ~~、と数えるのも馬鹿らしくなるほどのため息をまた吐いて誤解を解こうとする。
「あのな、俺はこいつが森でモンスターに襲われそうに、いや、実際に死に際まで追い詰められてたとこを助けた、命の恩人だぞ」
「嘘を吐くな!!お嬢様がそんな危険な場所に行くはずないだろうが!!」
「だから本当なんだって…」
「ではお嬢様が担がれているのはどういう理由だ!!?」
ずずっと鼻を啜って、ようやく泣き止んだらしいシェリルがはにかみながら答えた。
「あはは、腰、抜けちゃって」
その言葉を聞いたエリーゼは、
ボッ!
真っ赤にしてヤマトをさらに睨む。
「き、きききき貴様っ!お、お嬢様にふっ、不埒な真似を~~~~!!!」
ヤマトはもうため息も吐けない。
(この二人、馬鹿過ぎる…)
「いい加減にお嬢様を離せっ!変態がぁ!!」
呆れていると、エリーゼは我慢の限界を迎えたのか斬りかかって来た!
「《三連・ショック・ボルト》!」
動き出したエリーゼの周囲に三つの球体状のエネルギー体が浮かび、
炸裂!
バババチィ!
マヒステータス付与の雷撃魔法はエリーゼにも例外なくその効果を与えたが、
「これしきで、舐めるなぁああああああ!!!!」
構わず剣を振りかざす。
「《ショック・ボルト・三重奏》!」
しかし、足はどうしても遅くなる。
その隙にヤマトは先程の魔法よりも大きな雷を発生させる魔法を放つ。
避けられるはずもなく、クリーンヒット。
「――――ぁあ!!」
のはずだが、身体をブルッっと震わせると何事も無かったかのように剣を構えた。
「また気合か、馬鹿も度が過ぎると酷いもんだな」
「ふ、ふん!貴様の魔法攻撃はぬるいな。大したダメージはないぞ?」
「当たり前だろ。俺は付与魔術師だぞ」
「エ、エンチャンタってなに~?」
担がれたまま戦闘に巻き込まれたシェリルは、目を回しながらも質問する。
付与魔術師。
B.W.O.の戦闘職業は基本的に三つに別けられる。
騎士・戦士・魔術師の三つだ。
騎士とは両手武器や鎧といった重量のある武器を手に戦う者たちのこと。
戦士は素手や弓矢など軽装備で戦闘を行う者の総称。
魔術師とは、攻撃・回復・召喚など魔法を駆使して戦闘に望む者たちを指す。
付与魔術師は魔術師の一つで、主に自他含むステータスの強化や、敵に毒などのバッドステータスを与えることを得意とする者のことだ。魔術師系の中では変わり種扱いされている。
と言うのも、自分や他人を全力でフォローすることで最大の力を発揮し、他の魔術師、攻撃重視の妖術師や回復重視の施術魔法師に比べて圧倒的な量の魔法を扱えるが、それ故に高い効果を期待できない中途半端な魔術師として認識されているためだ。
「はっ!半端者風情が粋がるな!」
「あぁ?」
その中傷は武器を手に、仲間を守ることを重点に置いた騎士からすれば当然だったが、ヤマトは不快に思ったらしく、目つきが変わった。
「なら、徹底的にやるか?ニりゅ―――
「そんなこと無い!!」
突然、声が割り込んだ。
シェリルだった。
「お嬢、様?」
「エリーゼ、私さっきね、本当に森に迷い込んで死に掛けたの…」
その告白にエリーゼは驚愕を隠せない。
シェリルの告白は続く。
「走り回って、行き止まりに着いちゃって、でもヤマトくんがね、私に魔法をかけたの」
「魔法?」
首を傾げるエリーゼに、シェリルは大きく頷く。
「私を強化してね、私の力でモンスターをやっつけたの」
「お嬢様の?」
エリーゼは眉をひそめる。
「そう、あの何回かしかレイピアを振るったことの無かった私がよ?そんなことの出来るヤマトくんって一流の凄腕なんじゃないのかな?」
そう語るシェリルの言葉は純粋で嘘だとは思えなかった。
だが、エリーゼはたった一部分を許容するわけにはいかなかった。
「貴様!お嬢様を戦わせるとは、死なせるつもりか!?」
するとヤマトは、
「どうせ死んでた命だ。どう活かそうと俺の勝手だろ?」
挑発するように言った。
(え?)
その言葉にシェリルは困惑してしまう。
ヤマトはそんな風に自分を見ていたのか。
しかし、今までの会話でそんな酷いように自分を扱ったか?
確かに肩に担ぐなんて無作法な運び方を(今も)しているが、ヤマトは命をそんなに軽く扱っていただろうか?
「何か文句あるか?二流剣士さんよぉ」
言葉の端に棘を感じる。
(もしかして…)
ヤマトにとって、エンチャンタであることは大切なのではないだろうか。
少しの嘲笑も許せないほどに。
ならば、
「ヤ、ヤマトくん、気に障ったらごめんね。エリーゼは過保護気味だから、その…」
ヤマトは目を丸くして、いきなり謝り始めたシェリルをジッと見たかと思うと、
「………はぁ~~~」
吐いたため息にシェリルはほっとする。
「貴様ぁ!この外道がぁ!!」
しかし、エリーゼは今まで以上の動きでヤマトに迫る。
「!待ってエリーゼ!!」
間に合わない!
咄嗟に目を瞑るシェリル。
しかし耳に聞こえてきたのは、斬撃の音ではなかった。
ボッ!
ドォオオオオオオ!!
目を開けたシェリルの視界には、火柱が映っていた。
「え?え?何これ??」
「火炎罠・《火々幟》」
トンッ。
ヤマトが杖で床を叩くと火柱が消える。
と同時に倒れるエリーゼ。
「エ、エリーゼ!?大丈夫!!?」
「問題ない。一時間も休めば大体は回復するはずだ」
その言葉に再びほっとするシェリル。
「それよりシェリル」
「なに?」
ヤマトにしては珍しく目を泳がせて言う。
「そろそろ立てるか?さすがに目立ちすぎる」
はっ、と周りを見ると、道行く人たちが残らず注目している。
さすがに恥ずかしさに耐えられなくなったシェリルは、
「っきゃぁあああああああああああ!!!!!」
思わず悲鳴を上げていた。