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電子世界の開拓魔術師  作者: 矢口 旬
1章~その少年は開拓者~
15/15

徘徊の夜~一日目~

半年ぶりの投稿!どうぞ再びよろしくお願いします(深々礼

「終了!!!」

 町の境界でルードーが高らかに叫ぶ。

 虫除けの薬を撒き終わった合図でもある。

「これで彼を信用するなら(・・・・・・)、今日から三日間、ドラフリィたちは入って来ないってわけね」

「疑り深いなぁ、ミーナは」

 やれやれ、と言うように首を横に振るルードーをキッ、と睨むミーナ。

「当たり前でしょう!この薬が私達の大事な生命線の一つなのよ!?むしろ何でそんなに落ち着いてるのよ、ルードー!」

「いや、正直もう疑うの面倒だし」

「それで生死掛ける選択決められたら堪ったもんじゃないのよ!!」

 一方的につっかかるミーナを軽くあしらいながら、ルードーは報告すべく町長の家へと向かう。

「ほら、夜になったらおれも護衛に参加するんだから早く行くよ」

「あっ、ちょっと待ちなさいよー!!」

 走る二人の頭上。次第に、橙色の空が紫、藍色へと変化する。



 夜が、来た。



「お前ら、分かってんな?」

 町の中心、ヤマトが魔術を行使する場所で人一倍体の大きい護衛隊のリーダー―――ベルントがその場にいる全員に向けて告げる。

「俺たちは、この魔術師を絶対に守りぬかなきゃならねぇ」

 中には嫌そうな顔をする者もいたが、構わず続ける。

「納得できない奴もいるだろうが、こいつにつまらん文句を言われないためにもやるしかないんだ」

 ベルントが大剣を振りかざす。

「最後の戦い、その初日だ!気張っていくぞ!!!」


 おおぉぉおおおおおおおおおお!!!!!!!!!


 己を、仲間を鼓舞して叫ぶ。

 フォトスレーインの夜が始まった。




 一方、町のはずれにて。

「あ~、だりぃ」

「そう言うなよ、一晩の我慢だろ?」

 細身と小太り、二人の男が町中を歩いていた。

「一晩生き残りゃ、あの宿の娘を好きに出来るんだぜ?こりゃ破格の条件だろ」

「おめぇのロリコンにはいい加減勘弁して欲しいぜ」

 今日の昼過ぎにフォトスレーインにやって来た旅人である。名が知れ渡るほどの実力はないが、知っている者の間では評判の悪いことで有名である。

 殺しはせずとも時に暴力に訴えるほどに女遊びが過ぎるのだ。間に入り止めようとしてもそこそこ腕が立ち、連携も取れている厄介さに敗れて我が儘を通された者もいるという。

 細身の方はヨルゴス。小太りの男はマウヌと言う。

 その二人が---正確にはマウヌが---目を付けたのは現在止まっている宿の一人娘で、まだ年端も行かない少女である。

 宿屋の主人に話を持ち掛けたところ、当然の如く敵意剥き出しで反対した。なので、いつものように(・・・・・・・)力で言うことを聞かせようとしたら娘が条件を出してきたのだ。

「にしても内容が『今晩から店が開き始める昼前まで町中の見回りをして、二人とも無傷でいられたら自分を好きにしていい』ってのは変わった条件だな?」

 ヨルゴスが疑問を口にする。

「あんまし考えんなよ。どうせ親に暴力を振るわれないように慌てて出した逃げの一手だよ」

 逃げらんねぇけどな、とマウヌは楽観的に笑う。

 慎重なヨルゴスとポジティブなマウヌ。この二人が上手く意見を合わせてきたからこそ、二人は悪事を続けてこれたのだが、ヨルゴスの眉間からシワは取れない。

 この町に入った時、昼間の治安はその辺の町よりずっと良い印象を受けた。そんなに治安が良ければ、先の条件はただの時間稼ぎか先送りにしかなっていない。そんな条件を、咄嗟とはいえ出すだろうか?

 疑問が晴れないまま警戒を続けるヨルゴス。

 歩く二人に、近づく影があった。

「くぅ〜ん」

 何てことはない。

 ただの子犬だ。

「焦らせやがって…」

「おめぇはもっと余裕を持つってことを覚えた方がいいぜ」

 からから笑って犬を撫で始めたマウヌ。

 楽しそうに撫でるマウヌを見て、それもそうか、と緊張を緩める。

 さすがに息を張り詰め過ぎたかもしれない。

 こんな小さな町に一体何があると言うのか。例えば隣のヒルドラクトならば警備もしっかりしていて、自分たちのようなそこそこ有名な悪党は問答無用で取り押さえられることもあるだろう。だが、こんな静かで何にも無い田舎の様な、夜が寂れた町にそこそこ程度の知名度で警戒する人間もいるまい。

「おいマウヌ、俺にも撫でさせろ」

 整った毛並みの犬を撫でようと右手を伸ばす。

 不意に目の前を何かが通り過ぎて、


 伸ばした手が腕ごと無くなっていた。


「え、あ。うぇ?」

 何が起きたか、理解出来なかった。もしこのまま放置されたら、ヨルゴスは混乱しながらも腕に処置を施すこともできたかもしれない。

「んだよ、骨ばっかりじゃねぇか」

 だが、そんなクリアな思考に声が響く。

「やっぱそっちの肉付いた方食いたかったぜ」

「そりゃ、お前が賭けに負けたのが悪い」

 目の前で二足で立つ犬が喋っている。

 そのさらに先。

 相棒の首が半分以上無かった。

 それを見た瞬間、パニックが全てを支配した。

「ひっ、あ、わゃぁぁああああああああああああ!!!ああああああああああ!??!!」

 叫び声をあげて駆け出す。

 恐怖なんて生温い、もっと原始的な本能だ。

 全力で逃げて一分ほど経って、徐々に脳が動き始める。

(なんだあれ、なんだあれなんだあれはぁああ!化け物が人の言葉、いや、それはいい。そんなことどうでもいい!ヤバいヤバ過ぎる!何がって全部、全部だ!速いし力があって、知能もある。手も組みやがる。ありえねぇ、何だあの高次元モンスターは!あんなの聞いたこともねぇ!!)

 ヨルゴスの分析はパニック中でありながらも的確なものだったが、一点読み違いがあった。

「わん!」

「!!!」

 近くからの大きな音に心底驚かされた。

「うっせぇ!蹴り飛ばすぞ!!」

 怒りに任せて叫ぶ。そちらに意識を持っていきすぎて、足がつい止まってしまう。

「あ」

 気付いた時にはもう遅い。

 一秒後には、彼の首は無くなっていた。




「いやぁ、良くやったぜ!」

「わん!」

 ベアウルフに褒められた子犬が元気良く吠える。

「にしても上手いこと引っかかったな」

「俺の考えた『ガキに騙され隙だらけ作戦』だぜ?成功すんに決まってんだろ!」

「そのネーミングセンスだけはどうにかしようぜ…」

 子犬もそれには同意なのか何度も頷く。

 ヨルドスが先ほど読み違えたのは、このベアウルフの子どもの存在である。

 この子犬もまたベアウルフの作戦のうち。つまり二人は最初から手のひらの上だったのだ。

「今日はいい肉手に入ったし、切り上げるか?」

「まさか!」

 一匹の提案に即座に否定するもう一匹。

 彼らの鋭い嗅覚は町の中心に大量の人間が集まっていることに気付いていた。何が目的かは分からないが、手土産がたっぷり増えるかもしれない。

「俺が見てくる、お前は運んでくれ」

「殺れそうでも、つまみ食いしすぎんなよ?」

「はっ、あんだけいるんだ、一人二人はいいだろ」

 二匹は行動を開始した。




 ガヤガヤ、ガヤガヤ。

 集まった町民は正直拍子抜けだった。昨日と比べて気合充分、満ちたやる気とは裏腹に敵の影すら見えやしない。ドラフリィの羽音もしなければ、ベアウルフの遠吠えすら聞こえなかった。

「あの虫除け、マジもんだったっぽいね」

「だな。ベアウルフも来ないし、こんなに緊張しない夜も久しぶりだ」

 隊長は気を緩めるな、と度々注意するが言っている本人も肩透かしをくらった気なのが丸分かりだ。

「!全員構え!」

 なんて気を抜いていると一人が叫ぶ。

 今の今までなかった緊張をピンと張って周囲を警戒する。

「4時、屋根上に一体!」

 北を基点に4時の方向が見える者たちが一斉にそちらを見る。

 そこには今までとはまるで行動パターンの違う町民に警戒しているのかじっと様子を伺うベアウルフがいた。

「………」

 ダッ。

 数分の睨み合いの末、ベアウルフがその場を離れる。

「追い、返したのか?」

 一人が意外そうに武器を降ろす。

「いや、こんな十数人での警戒体制なんざ向こうも見るのが初めてで、一度引っ込んだだけだ。増援引っ張って戻ってくる可能性もある。気を抜くなよ」

 そうして警戒を続けた一同だったが、それ以降はモンスターの影など見えず、朝を迎えた。


 何年ぶりかの平和な朝だった。



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