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電子世界の開拓魔術師  作者: 矢口 旬
1章~その少年は開拓者~
14/15

その日、町に少年が

かなり間が空きました。たぶん次回も空きます(涙

 三日三晩、自分のために命を懸けろ。

 いきなりの一言に、ある者は困惑を、ある者は憤りを、またある者は、また偉そうな訪問者がやって来たと諦めの感情を抱いていた。

「町長。何なんですか、こいつ?」

 明らかな憤りを露わにして一人が訪ねる。

「だから、俺は付与魔術師エンチャンタだって言っただろ?」

「だからそれじゃぁ納得できないって――――!」

 言い争いに発展する前に町長が割り込む。

「彼については、私が保障しよう」

「なっ、町長!?」

 周囲の者たちの感情が困惑に染まっていく。自分たちのトップが訳も分からない少年に味方したのだ。今まで、どんな荒くれ者に脅されても屈しなかった町長が、だ。

「疑問は後で受け付けるよ。だが、その前に会議を開きたい。集まってくれるかな?」

 とにかくここではお開きにする。暗にそう言われて、一旦散り散りになる。

 何人かの町人が残った。その者たちが町内会議の役員たちなのだろう。

「町長、俺は早速取り掛かる。護衛は頼んだぞ」

「確かに」

 聞き入れると、自警団の面々に指示を出す。

 何人かは納得がいかない様だったが、任に就いた。それは一重に町長の仁徳や信頼によるものだろう。

「なぁ、何をするつもりなんだ?」

 護衛を任された一人がヤマトに尋ねる。

「ちょっとした大規模魔術を行使する。言っておくが、これは実験だ。だから騙されたと思ってくれて構わん」

 返答に続く内容に眉をひそめる。

「ってことは何か?俺たちが護ってやるのに、お前は好き勝手適当にやるってのかよ?」

 最初に言い争いになりそうだった町人が、凄みを効かせてヤマトを睨む。

 けれどヤマトは軽く受け流して、

「結果としては、な。だが、お前たちにも利がある。大人しく諦めろ。それに、このまま行ってもお前ら、ジリ貧なだけだろ?」

「んだと、てめぇ!」

 淡々と言われたのは事実だが、だからこそ怒りが溢れ出る。

「てめぇみたいな余所者に、俺らの苦しみの何が分かるんだよ!!?俺たちだって、もう限界だなんてのは分かってんだよぉ!!」

「だから、俺に一任したんだよ」

「…………」

 圧力のある断言に無根拠でも説得力を感じる。

「さ、着いたぞ」

 そこは町のちょうど中心点。

「あ、そうそう」

 うっかり忘れていた、という様に手を叩いてヤマトが話しかける。

「お前たちには俺を護ってもらうんだが、その間、俺には一切干渉しないでほしい」

「は?どういうことだ?」

 当然の疑問をぶつける。

「だから俺がここで色々行う間、話しかけることも触ることも絶対にしないでほしい」

「飯とかどうするつもりだ?」

「三日くらい、飲まず食わずで問題ねぇよ」

「………」

 ヤマトのとんでも発言に言葉を無くす一行。

 ヤマトは杖と片膝を立てて、祈りを捧げるかのような体勢になる。

「始めるぞ」

 言った瞬間、ヤマトの足元に幾何学模様が浮かび、淡くて青い光を発し始める。

「な、なぁ!」

 護衛の一人が声を掛ける。

「…何だ?」

 まだ干渉しても大丈夫だったのか、口だけ動かして応答する。

「何でここまでしてくれるんだ?」

「………」

 瞑った視界に何かの情景を見たのか、数秒の間が空く。

「そんなことはどうでもいい。それよりも…」

 結局問いには答えず、質問してきた護衛に顔を向け、

「?何だよ」

「何が何でも生き延びろ、命だけは絶対に散らすな」

 強く念を押してから、ヤマトは魔法を行使し始めた。

 

 

 

 一方、町長の家では会議が始まっていた。

「それで町長、一体どういうことなのですか?」

「そうです。あなたが少年ごときに屈するなど、らしくありません」

 口々に疑問や不満を口にする面々。

 それを受けて町長は、

「彼は、今までの者たちと根本が違うのだ」

 その言葉を返した。

 周りは頭に疑問符を抱えながらも、続く説明を期待する。

「彼との約束でな、詳しい説明は出来ん」

 続けた言葉に不満をあらわにして何かしら口を開こうとする。だがその前に、

「彼は信頼できる。きっとこの町を変えてくれるだろう」

 その言葉に、集まった者たちは一瞬言葉をなくした。今までも、町民を助けるなどといって我が儘を通してきた旅人はいる。王様気分のものまで出てくるものだから、町民達はその辺諦めて信頼しようとしなくなったのだ。もちろん町長も、というより町長であるからこそ相手にどの程度信用が置けるのかの判断は重くなっている。故に、一同は思う。本当にあの少年は何者なのか、と。そして不安になった。もしかして町長は操られているのではないか、と。

「私は、騙されているのではないよ」

 そんな考えを読んだかのように町長は首を振る。

「彼との取引はギブ&テイクだ。彼がこの町で好き勝手に行動をし、その優遇をする。その代わり、この現状を打開させる、とね」

 それに、と町長は言葉を続けて、

「彼は無償である者をくれた。これを使えば、彼がどれくらい信頼できるのか分かるだろう」

 そう言って取り出したのは瓶だった。中に液体が入っているのが見える。

「町長、それは?」

 一人が代表して聞く。

「虫除けの薬だそうだ。レシピも教わっている。夜までにこれを町の周りに撒けば、昼夜を問わず虫のモンスターが入ってくることはないらしい」

「町長、まさか…」

「あぁ、これを使って彼の信頼度を確かめる」

「リスクが高過ぎます!!」

 町長の意見を真っ向から否定する。ここで騙されれば家に侵入してくる虫モンスターを迎撃出来なくなるので、それも当然である。

 町に侵入してくる虫モンスターはドラフリィ一種類だ。このモンスターはトンボの姿をしていて大きさは70cm〜1m20cmほど。草食だが食欲旺盛でよく畑を荒らす。非常に稀だが、異常繁殖による数千匹単位の群が来ると街を含めた大規模な範囲の緑という緑を食い荒らし、わずか数時間で辺り一面が荒野に変わることもある。

 ドラフリィの厄介なところは、それが木製ならば家や道具まで食べる点にある。一体一体はそれほど強いわけではないが放っておくことはできないのだ。

 確かに、目の前にある薬が有効なら見回りはぐっと楽になる。

 しかし、失敗した時に最悪家が一軒無くなってる可能性もある。簡単には賛成できないのも通りだ。

 しばらく沈黙が続いた後、一人が手を挙げた。

「何かな?」

 重たい空気の中でも町長の声が優しく響く。

「……おれは信じます、さっきの魔術師の人を」

 若い役員が緊張した声で言った。

 聞いた町長は嬉しそうに頷き、他の役員は何故か、と声を荒げる。

「今までの人たちはギブ&テイクと言っても、結局口だけでむちゃくちゃ弱い人だったり、有効な武器や薬と騙して売りつけてきた酷い商人ばっかりでした」

 その言葉に皆が一様に頷く。だからこそ今回も疑ってかかるべきだと言うように。

「けど、今回初めて無償で物と情報をくれました。しかも今、自分たちのために何かしてくれてるんでしょう?嘘ならサッサと売りつけて逃げればいい。けど、何日もここに居て動こうとしてる。今までを考えたら充分信用に値すると思いました」

 筋の通った意見に場が一瞬静かになる。

「ふふふ、ありがとう」

 町長が微笑みながら礼を言う。

「いえっ、そんな!おれはただ自分の意見を言っただけで…」

 照れたのか、慌てふためく若い役員。

「本当に良しと思っているの!!?ルードー!!」

 空気が一瞬和らいだ後、小柄な一人が若い役員―――ルードーに勢いよく詰め寄った。

「この町にとって、私たちにとって、本当に良い選択だと思っているの!!?」

 胸ぐらを掴まれたルードーはむしろ落ち着いて、

 

「…じゃぁ、ミーナは滅ぶのを待つつもりなの?」

 

 ミーナと呼ばれた役員の肩が震える。その発言は暗黙の了解でタブーとなっていたものだからだ。

 顔が青くなったのはミーナだけではない。

 町長を除くほぼ全員が同様の反応をした。

 皆、分かってはいるのだ。

 ただ認識したくないだけ。

 町長とルードーはこの機会に全てを託して、真っ向から挑むつもりなのだ。

 ベアウルフとの戦いに。

「いい加減、決着を付けましょうよ」

 ルードーが立ち上がって鼓舞する。

「平和のために、最後の剣を取りましょう!!」

 パチパチパチ。

 町長がよく言ってくれた、と言いたげに拍手を送る。

「皆さん。戦うのは、傷付くのは、もうこれっきりにしましょう」

 町長の一言で、場が再び静かになる。

 しかし、今度は重たいものではなかった。

 一人はやる気に満ちた目に、また一人は仕方ないと言いたげに笑いながら。

 

 

 町の意向は決まり、今回を最後にすべく立ち上がった。

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