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電子世界の開拓魔術師  作者: 矢口 旬
1章~その少年は開拓者~
13/15

昼過ぎの語り

閲覧者数千人突破!ありがとうございます(感無量

 コン、コン、コン。

 泣き疲れてぼーっとしていたシェリルの部屋にノックの音がした。

『そろそろ昼時だよ。町でも見ながらメシでも食べてきな。ウチはお昼は出ないからね』

 それだけ言ってエルバは階段を降りて行った。

(そういえば、朝もあんまり食べなかったっけ…)

 今の今まで気付かなかったのに、言われた途端お腹が空いてきた。

(お金は、あるんだよね…)

 涙がまた零れそうになるのを、今度は堪えてマネーカードを握りしめる。

 部屋を出て玄関へ降りる。

「行ってきます」

 そのまま町へ出かけた。



 フォトスレーインの昼は賑わう。モンスターが夜に出てきていた今までのこともあり、特に昼は活気付き、夜は廃村のように静かになるのが特徴だ。

 となると、昼食をとるのは楽ではない。賑わうということは、それだけ店が混むということでもある。

 四十分ほど並んでようやくプレートランチをもらったシェリルも席が無くて途方に暮れていた。

(う~ん、どっかに無いかなぁ?)

 キョロキョロ店内を探していると、店の隅で一人で食べている女性客を見かけた。

「あの、ここいいですか?」

 これ幸いと声をかける。

「ええ、どうぞ」

 女性の方も特に気にすることなく対応してくれた。

「それじゃぁ失礼して……いただきます」

 さっそく食事をとり始める。びっくりするほどではないものの、プレートランチはとても美味しかった。

「あなた、見ない顔ね。旅行でここに来たの?」

「いえ、私は…」

 答えようとして、詰まってしまう。

 父親は何のためにこの町へ自分を連れてきたのだろうか。ただの旅行にしては荷物は多かったし、ホテルに着いてからも珍しくずっと別行動だった。会社も他の人に任せるなんてちょっと異常だ。

「……たぶん、引っ越しです」

 なんとなく推測で話す。合っているかは正直どうでもいいが、答えないわけにもいかない。

「へぇ!家は見つかった?もしかしたら近所かもね!」

 女性はなんだかすごく嬉しそうだ。

「まぁ、引っ越したいっていうのも分かるよ。一年半前からこの町より安全な町って中々ないから」

「一年半前、ですか?」

 やけに最近の話だったのが気になる。

「あれ?あの壁ができたから引っ越そうって来たんじゃないの?」

 女性が疑問に思うのも当然だった。なんせフォトスレーインが有名になったのはその防壁ができてからだからだ。

「あの絶対魔法防壁ですか?ヤマトくんが張ったっていう…」

 ガタッ!

 その言葉を聞いた瞬間女性がいきなり立ち上がった。

「!英雄様を知ってるの!?」

「え、英雄?」

 シェリルには何のことかさっぱりである。

「だから、英雄様よ!あなた、ヤマト様と知り合いなの!?」

「え、えぇ。ヤマトくんがこの町まで護衛してくれたので」

「ど、どこにいるの!?一言お礼が言いたいのよ!」

「わ、分かりませんよ、私が宿を出た時にはもういなかったんですから」

 詰め寄る女性に若干引きながら答える。

 それを聞いた女性は、しょんぼりと肩を落として落ち込む。

「あの、ヤマトくんってこの町で何をしたんですか?」

 ここまで極端な反応を見せる女性に興味が湧いた。

「英雄様のこと?いいわよ」

 女性はゆっくりと語りだした。




 それまでのフォトスレーインは、モンスターの現れる最悪の町だった。

 町の者同士の結束は強かったが、腕っ節の強い旅人が我が物顔で居座ることもあり、治安も良くなかった。

 昼はそれなりに活気もあったし、モンスターもそこまで厄介でも強敵でもないレベルのものが数匹表れる程度で大したものではなかった。

 だが、夜は違う。しん、と静まり返る町の中、ベアウルフを中心としたモンスターたちが暗躍し、闊歩し、狩猟を始める。

 町人も、昼間は自分は強いと豪語していた旅人もあっけなく倒れていく。

 被害はとどまるところを知らず、策を弄して多少減少することはあってもなくなりはしない。

 町を放棄しなければならない時が刻一刻と迫っていると誰もが感じていた。

 そんな時だ。

 町に、一人の魔術師の少年がやってきた。

「町長はどこにいる?」

 開口一番訪ねてきた少年は町長に挨拶へ向かった。

 いったい何事かと心配する町人たちを余所に、小一時間ほどの話し合いを経て少年と町長が出てきた。

 どうしたのか、その少年は何者なのかと口々に説明を求める。

「彼は…」

「いい。自分で説明する」

 町長が言いあぐねていると、少年が一歩前へ出る。

「俺はヤマト。付与魔術師エンチャンタだ」

 簡単な自己紹介。続いて一言。

「お前たちには三日三晩、命を懸けて俺を守ってもらう」

 とんでもないことを言い出した。

 町人たちは、いや、聞こえていたすべての人が―――町長を除いて―――唖然とするしかなかった。


 そしてこれこそが、フォトスレーインが変わる、その発端であった。

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