Play EP2
「お疲れ様でした。足元に気を付けてお帰り下さい」
固定用レバーが上がり、体に自由がもどる。僕はすぐにコースターを降りたが、愛花が降りてこない。仕方なく愛花の方へと戻る。
「どうしたの、愛花?」
「こっ、こっち来ないでよ。先に行ってて。後から行くから。」
愛花は顔を隠しながら僕に言った。彼女が言いたいことはわかった。隠しきれない涙が頬をつたっている。僕は何も言わず、下へと降りて行った。改めて思ったが、彼女はアイドルという以前に女子高生なのである。怖ければ泣くのは当たり前である。
「あらっ、私が怖くて泣いていると思ったのかしら?」
「えっ?だって泣いていたんじゃないの?」
振り向いたが愛花の目が少し充血している。僕の推測が違うとは思えない。
「私がこの程度で泣くわけないでしょ。コンタクトが変なところにいったのよ」
「でもさっき――」
「あら、まだ余計な詮索をかけるつもりかしら?」
「はいはい、わかりましたよ。どうせ何を聞いても答えないんでしょ」
「ふふふっ。わかってるじゃない。でも、落下中に叫んだ事は――」
「どうせ、他言無用ってとこでしょ?」
「あっ…うん。勿論、その通りよ」
だいたい、愛花が何を言うかわかった気がする。彼女の機嫌は僕にかかっているというのは理解し難いが、今は彼女に従っている方が得策であろう。
「それじゃ、次はコーヒーカップにでも乗ろうかしら」
「何それ。ふざけたネーミングセンスだね」
「やっぱりあなたの反応は面白いわ。まぁ、行けばわかるわ」
愛花が小馬鹿にした様に笑う。まぁ『コーヒーカップ』がどのようなものか知らないのは事実ではあるため、僕は笑われるのを認めるしかない。そんなこんなで、僕達はコーヒーカップへと向かった。
「あれ。コーヒーが入ってないじゃん」
「ふふふっ、はははっ‼流石霧峰。使い古されたネタを素で言うなんて。あなたは天然ね」
「しっ、仕方ないだろ。遊園地来た事ないんだから」
愛花に嘲られたため、照れてしまう。コーヒーカップの中に入ると思っていた予想が外れたのは、少しショックである。
「そっ、それで一体どんな乗り物なの?」
「それは、乗ってからの楽しみね。さぁ、乗りましょう」
愛花の後を追う様に僕はついていく。よくわからないが、とりあえず座る。
「それでは、楽しんでください!」
管理員さんのアナウンスとともに、カップが動き出す。
「ふっ、私が先手ね!」
愛花はそう言うと、カップの中央の丸いものを掴み回し出す。それと同時にカップが勢い良く回り出す。
「ちょっ、愛花。何をして――」
「まだまだよ、霧峰!」
愛花はさらに回転させる。平衡感覚が狂っていくように感じる。
「くっ、愛花…僕だって!」
ここで負けたくはない。どこからかわいてくる闘争心によって、愛花の回転より更に速く回転させる。やっている自分もきついのだが。
「霧峰。まだまだ甘いわ。攻守交代ね!」
再び愛花が回転させる。先ほどよりも、加速している。段違いの速さだ。正面すら向けない速さである。回転しすぎて気持ち悪い。
「愛花…も、もう限界」
「そう言わなくても、カップも止まったわ」
目が回り、平衡感覚が失われているため、真っ直ぐに歩けない。
「大丈夫?霧峰。常人にあれはやりすぎたかしら」
「カップって、普通こんな速さじゃないんだよね。接客員さん、心配してこっち見てるし…」
「確かに普通はもっと遅いわ。それで、歩ける?」
愛花が僕を心配してくれる。なぜ彼女は平常にいられるのだろうか。
「まぁ、大丈夫。」
「それじゃ、昼ご飯にしましょうか。」
「はぁっ⁈」
何で食事前にこんなものにのったのだ…後は後で大変ではあるが、彼女の考えることは計り知れないのかもしれない。
「だって、結構体力使ったでしょ。私がそういうのだから、従いなさい。大丈夫っていったのはあなたよ」
「だからってね…」
「異論があるのかしら?」
愛花が微笑む。この笑顔は彼女の武器であろう。まるで、彼女は女帝のような性格だ。自由奔放で好き勝手で、でもなぜか憎むことができない。
「はい以外、選択肢ないでしょ」
「もちろんそうよ。さぁ、行きましょう」
愛花はレストランへと歩き出した。さっきよりかは、気持ち悪くなくなった。そして意外な事にお腹も空いた。彼女はもしかしたら全て計算…という訳ではないであろう。
「霧峰。速く来なさいよ。何回言わせるのよ」
「はいはい。」
愛花の機嫌が悪くならないよう、僕は彼女の元へと歩みよった。