Encounter4
「まぁ、この統御愛花様とカップルになるのだから、確かにあのくらいの事はあたりまえよね。」
「あのね…僕の気持ちも考えてよ…」
「ふふふっ。やっぱり霧峰は面白い人ね」
愛花のファンが今の状況にいたのなら、自分がひどい目に合おうが泣いて喜ぶであろう。なんせ相手は愛花なのだから。しかし、別に愛花のファンでない僕にとってこの彼女はただの難敵でしかない。
「さて、チケットを購入しましょう?」
「僕がカップルです、と言えと?」
「私に言えと?」
質問に対し、質問で返されてしまった。質問した僕が馬鹿だった。結果は目に見えていた。
「わかったよ…言えばいいんでしょ、言えば」
「よろしい」
僕はそう言うとチケット売り場の所へと行った。どうやらチケット売りの販売員は女性のようだ。変に煽られなければいいと心底願う。
「今日はどのコースになさいますか?」
「カッ、カップルで」
本当に顔が赤くなっているであろう。先程を超す熱さが体を包む。
「お連れの方は?」
「私よ。この統御愛花がお連れよ」
思わず呆然としてしまった。一体愛花が何を言い出すと思ったら、自分の正体をばらしたのだ。
仕方なく愛花をチケット売り場から離れさせ小声で話す。
「あのさ愛花。君が自分の事をばらしたら、大変な問題になる事がわかっているのかい?変装している意味もないじゃん」
「別に問題なんて無いわ。私に任せなさい」
彼女はそう言うと再びチケット売り場へと歩き出した。
「ねぇ、あなた。私がどういう人間かわかるわよね?」
また愛花がほほ笑み威圧感を放つ。販売員もたじろいでしまっている。
「ええっ…もちろん存じ上げております」
「それならよかったわ。でもねこの人はね、私の目の前で統御愛花のファンじゃないって平然と言ったのよ」
愛花が僕を指しながら言う。確かに言ったが今それが重要ではないだろう…というか関係ないだろう。
「はぁ。」
チケット売りはさらに困り果て、苦笑いをしている。
「それでね、わかっているとは思うけど、統御愛花が遊園地で、どこの骨と知らない男といるなんて情報流さないわよね?」
「はっ、はい」
僕の事をどこの骨と知らない男と呼んだのは、この人が初めてだ。口を挟もうとしたが、愛花はまだ話しを続けた。
「それで、もしこの遊園地が楽しかったら、私がお忍びで足を運んで楽しかったって宣伝してあげる。だから、ねぇ?」
愛花は再びほほ笑む。心なしか威圧感が増しているように感じる。
「どういう事でしょうか…?」
「袖の下を頂戴って事よ」
「おい愛花、何を言って…」
袖の下など現在使う頻度が少ない言葉を急に言い出したとともに、完璧に使いどころがおかしい。袖の下をくれなど、いくらなんでも度が過ぎる。
「霧峰は黙ってなさい、ふふふっ。何がいいかしらね」
また、悪い笑みを浮かべている。こんな事がばれたら、愛花はどうなることやら。
「わっ、わかりました。宣伝してもらえるなら、お二人の500円は無料で、特別優待って事で」
「それだけかしら?」
「そこまでにしなよ愛花。完璧今の君は悪人だよ。噂がたったらどうするの?」
きつめに、愛花に向かって言う。だが、愛花は笑顔で言葉を返してくる。
「ばれなければいいの。ばれなければ。そして、私がどれだけ凄いかわかるかしら霧峰?」
「わかんないけど…」
「ならば、テレビをよく見ることね」
「あの〜よろしいでしょうか?」
チケット売りさんは申し訳なさそうに、僕たちの会話に入ってきた。
「はい?」
「あなたはお呼びじゃないわ、霧峰。それで、袖の下は何かしら?」
「売店で好きなだけ購入していただけるというのはいかがでしょう?」
――?そんな事をしたら彼女の性格なら売店の品がなくなるのではないか。
「チケット売りさん、本気で言っているのですか?」
「ええっ。愛花さんは嘘をつかない、よい人だとテレビで見ました。それに愛花さんが宣伝してくれたら、きっとお客様が今より多くきてくださるはずなので」
いい人だなこの人…とは思ったが詐欺にかかりそうな人だとも思うが。
「それじゃ決まりね。行きましょ、霧峰」
「わかったよ、愛花」
「それでは、いってらっしゃいませ」
販売員さんからチケットを受け取り、僕たち二人はゲートをくぐって園内へと入っていった。そういえば入場料が無料なら、僕があんなことさせられてまで「カップルです」と言った勇気は必要だったのだろうか…