Encounter2
僕らは改札口をくぐり、周辺マップが映し出される電子掲示板のところで足を止める。この際だから彼女に聞かねばならないことがある。
「あの…愛花さん。本当に僕の付き添いは必要なんですか?」
正直、彼女の答えなんて予想はつく。どうせ――
「なーに霧峰?今更学校に行くだなんてまさかいわないわよね?それに、付き添いじゃなくてデートよ。一対の男女がいなきゃデートになんないわよ」
やはり予想通りの答えが返ってきた。
「で、ですよねー…」
「そうよ。それに私、西部の5区に住んでいるから2区になんて来た事ないの。あなたがエスコートしないと私は迷子になっちゃうわ」
彼女は軽く5区にすんでいるとカミングアウトをしたがはたして問題ないのだろうか。とはいえ彼女がどこに住んでようが僕には関係ないのだが。
「けれど僕もあまりここら辺に来た事ないんですよ…とりあえず、どこか行きたいところあります?」
「そうね…確か2区には遊園地があるって聞いた事があるの。だから連れてって、霧峰」
「はい、わかりましたよ愛花さん」
遊園地までの経路を確認し、僕は彼女と共に遊園地を目指し歩き始めた。遊園地までは5分程度でつくようで、そもそも2区のほとんどは遊園地の敷地のようである。
「そう言えば、なんで霧峰は私に敬語を使うの?私達同年代でしょ」
愛花さんが首をひねり聞いてくる。正直答えたくないため適当にごまかす。
「家柄独特の癖ですかね。染み付いてとれないんですよね」
「厳しい家柄ね…あっ、いい事思いついた!霧峰、あなた人の頼み断れないわよね?」
どうやら変に家訓を誤解されたようだ。見境もなく人の頼みを断れないような、不都合すぎる家訓があったら、今頃僕は発狂しているだろう。
「いやっ、人の頼みを断れない性格なんかじゃないですよ。ただ愛花さんについてきたのは、迷惑をかけた人に対するお詫びの家訓にのっとった行動であって…」
「そんな事どうでもいいわ。」
どうでもよくないわ‼とツッコミたいが、まぁ無駄であろう。完全に彼女のペースである。
「霧峰、ならば敬語使われて変な気分になったから、その責任で私を呼び捨てで呼びなさい!」
「はいっ!?」
「愛花って呼びなさいって事、それと次敬語使ったりしたら、遊園地でのお金全額払ってもらうから」
また愛花さんの子悪魔の微笑みである。正直いくらなんでも無茶苦茶過ぎる。敬語を使われて変な気分になったなんて話、今まであっただろうか。否、絶対ないはずだ。そんなことを彼女は言い出したのだ。もうこうなれば、家訓なんて気にせずこの場から立ち去りたい……のではあるが、彼女の気に触れるのも何か心苦しい気もする。
「わかりま…じゃない、わかったよ。愛花さ…愛花」
「本当、普通のしゃべり方とか呼び捨てとか、カクカクね」
「うっ、うるさい…」
「あらっ?ちゃんと口答えできるじゃない」
この女!とはさすがに言えない。別に僕は敬語以外をしゃべれないわけではない。僕が敬語を使うのは家訓もあるのだが、それ以外にも義父に会う時に敬語以外を使うと叱責をくらってしまう。そのため、できるだけ敬語を使うのをを怠らないようにと僕は敬語を心がけている。そんな気を知らずにこの彼女は呼び捨てを強要するとは思わなかった。もう、こうなってしまったからには敬語なんてどうでもいい。義父には当面の間会う予定はないから、いっそのことこれから先は若者らしい言葉を取り繕って話すのもありかも知れない。
「あの…いや、あのさ、なんでわざわざ敬語意外じゃなきゃいけないんで…の?」
「これから憂さ晴らしの楽しい遊園地に行くって言うのに敬語なんか、かたっ苦しいしいじゃない?」
別にかたっ苦しいわけではないとは思うのだが。
「僕に問い返されても…」
「ふふっ。霧峰、あなた面白い人ね。動揺の表情が隠せきれてないわよ」
ふと看板に映る自分の顔を見る。朝の元気だったころの顔とは違い疲れ切った顔をしている。無理もないはずだ。ここまでの道のり、いろいろ変化を強要させられたのだから。
「面白くなんかないわ!」
とりあえず突っ込みをいれる。さもなくは、彼女にとって僕は笑い袋のような扱いを更そうだと感じたからだ。
「いじりがいがあって楽しいわ」
「こっちは楽しくないわ!!」
「ふふふっ、ふはははっ!」
彼女はさらに笑い出した。僕はもう現時点でのエネルギーの半分を消費したように感じる。一体これからどうなることやら。
「それより、変装しているとはいえ、君はあの有名な統御愛花さんでしょ?僕なんかと一緒にいる事ばれたら…」
「まぁ、それもいいんじゃない。貴方にとって」
「よくないわ!先に言っておくけど、別に僕は君のファンでもなんでもないから」
さんざん小馬鹿にされたので、仕返しに憎まれ口を言ってみた。すると彼女は少ししょんぼりとした。
「それは…残念ね。あなたがさっき、あの馬鹿に眼差しを送って私の味方をしてくれたから、てっきり私のファンだから味方してくれたのかな〜って…」
彼女は珍しく、抑揚のない声で話した。少し言い過ぎたのかもしれない。
「あのね、愛花。君が怒っていたように見えたから巽に合図したのであって、味方しようとしてやったわけじゃ…」
「冗談よ、冗談。もしかして演技が上手過ぎて気づかなかった?」
愛花はそういうと、笑顔で笑ってみせた。
「でも、私のファンじゃない人間がいるのには驚きね」
「いや、世の中すべての人間が君のファンなんてありえないから」
「わかっているわ、ちょっと言ってみたかっただけよ」
そうこうしていると、遊園地が見えてきた。
「広いわね」
「本当にそうだね」
遊園地は、外観から見てもかなりの大きさであった。中に入ったらどれほどまでに広くて、いったい何があるのだろうか。