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Conversion To Arms  作者: 太郎
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Encounter

政府歴17年 5月12日 午前6時30分 西部6区 リーブマンション11階 1102号室


「――ふぁ〜あ……」


 カーテンの隙間から入る朝日の明るさに僕は目が覚めた。時計の針は『6:30』を指している。休日ならば二度寝をしたいところだが、今日は高校の登校日であるため体を起こして身支度を始める。いつものことであるため、僕にとって早起きは辛くはなく、早起きになれてしまっている。


 顔洗いや着替えなど僕はざっと身支度を終わらせ、朝食(昨日の夕飯の残り)を食べながらテレビを見始めた。『タイマーテレビ』という朝のニュース番組を毎朝見ている。特に何が良いとかいうわけでないが、凛城家(りんじょうけ)にいたときから見ているのでそれが習慣となり今も見ている。


「昨日未明、東部7区のアパートにて殺人事件が発生しました。警察の調べによると被害者は……」


 最近このような事件が多く発生している。けれどあくまで事件がおきているのは『東部』である。僕が住むのは『西部』であるため、事件はまず起きることはないし治安もよい。


 そう考えながら僕はご飯を食べ終え、食器を片づけ、テレビを消した。いつも通り7時15分である。部屋の中を見渡し、明かりを消し僕は家を後にした。


                       ◇


 学校へは、地下鉄『西部線』を使う。家のマンションの地下に地下鉄のホームがあり、線路は学校の地下のホームへと繋がっている。つまり一回も外に出ることなく、夏場の暑い時期なども快適に家と学校を行き来できるのだ。


 部屋から出た僕はエレベーターで地下3階まで下り改札口へと向かい、電子チケット『isuca』をかざしてホームへと行き、電車が来るのを待つ。


 数分待つと、いつも通り7時25分発の電車が来るのでそれに乗車する。学校につくまでは約30分かかるので、8時に始まる学校にはぎりぎりつく。今のところ遅刻はないし無欠席だ。


「よっ、霧峰(きりみね)!」


「おはよう、(たつみ)


 僕は登校する時、途中の駅で友人『居河巽(いかわ たつみ)』に会う。彼は入学当初からの付き合いで、気がよく合う良い友人である。しかし僕と彼には決定的な違いがある。それは、彼はかなりナンパ癖があることである。登校中であるのに数多くの女性に声をかけ、突如に「好きです、デートしましょう」とか言い出す、かなりの色情狂である。だがしかし、彼はナンパ回数87回中87回失敗するという残念な結果である。


「なぁ、霧峰。あれってもしかして……」


 巽の指差す方を見ると、変装したどこかで見たと思われる人物がそこにいた。セミロングの茶色の髪にピン止めをつけていてメガネをかけている。思い出そうと頑張ってみるが、なかなか思い出せない。


「なぁなぁ、あれって女子高校生アイドル統御愛花(とうみ あいか)様じゃね?俺さ、大ファンなんだよ!」


 どこかで見たことがあると思えば、彼女は最近芸能界を騒がせているアイドル『統御 愛花』その人であった。発見した巽はここぞとばかしに盛り上がり、テンションマックスである。


「すげぇー、さすがは俺の中の女性ランキング第一位の愛花様だ。そこらの女性とは全く違うぜ!!」


 多くの女性をナンパしてきたくせによくそんなことがいえる……巽は大声でしゃべり興奮しきっている。そんな巽のことに気づいてか、統御愛花らしき女性はこちらを睨んでいる。周りの人たちは周りの人たちで騒ぎになっている。


「あのさ、巽。君の女性ランキングがなんだかは知らないけど、静かにしようよ。彼女、僕たちの方を向いてるよ……」


 彼女から怒りのオーラが流れているように感じる。僕の予想だと「せっかく、誰にもばれずにいたのによくも正体ばらしてくれたわね‼」と彼女は考え、こちらを睨んでいるのであろう。まぁ、他の人が気づくのも時間の問題だったような変装であったと思うのではあるが。


 僕は、彼女の怒りを巽に気が付かせるために巽に視線をおくる。もし言葉にだしたら面倒なことになりそうなので、巽には視線から僕が言いたいことを察しってほしい。周りの人たちの騒ぎも大きくなり、彼女の話で持ちきりのようでカメラを構え被写体(彼女)を狙う人もいる。


「おいおい、霧峰さん。なんで俺に冷たい眼差しを向けるのでしょうか?」


「気づきなさいよ、この鈍感野郎‼」


ドガッ‼


 その声とともに、巽に何かが当たった。どうやら彼女が、持っていたバックを思いっきり巽に投げた様である。


「ぐへっ…さっ、さすがです愛花さん…運動神経も抜群のようでございま…」


最後まで言い切れないまま、巽は気絶をしたようである。バッグで気絶って…


「ふん、あんたのせいで変装の意味がなくなったわ。せっかく時間がとれたから学校に行こうとしてたのに、これじゃ行けないじゃないの。それと周りの人、カメラを使ったのなら、今すぐデータを消しといた方がいいわよ。私のマネージャー、そういうところ厳しいから」


周りの人は一斉にカメラをしまったり、データ消去をしている。彼女のマネージャーは本当に厳しい(つまりは盗撮などを一切させない)と、前にテレビで聞いた事がある。


なぜか当の彼女本人は、気絶した巽の方ではなく僕の方へと歩いてきた。


「あなた、こいつの友達?」


「えっ…うん。そうです。とりあえずすみませんね。この巽がご迷惑かけて」


「ホント迷惑も甚だしいわ。やっとできた時間で、高校に行けると思っていたのに、こんな騒ぎをたてられちゃ登校どころじゃないわよね」


彼女は不満げにそう話す。無理はないであろう、彼女の『できた時間』というのは本当に貴重な仕事の空き時間であるはずなのだから。それくらいに彼女はテレビ番組やいろいろなメディアでよく見かける。


「本当にすみません。この責任はこの、巽ってやつがとりますので、今は次の駅で降りた方いいんじゃないですか?あなたも、僕たちと同じ統奨院高校の生徒ですよね。また今度の機会に、職員室で巽君が迷惑かけてきましたので責任をとってもらいに来ました、とでも言えば今回の件のいい憂さ晴らしなるのではないですか?」


「そうするわ。だけどあなたも責任とってもらえるかしら?」


「……はいっ?」


彼女は笑顔でそう言った。まずい、まきこまれる。けれど逃げるわけにはいかなかった。凛城家の家訓(守る必要はないがこれまでの生活のせいか、違反すると心が痛むので守っている)に反してしまうからだ。


「ふーん、逃げないのね。つまり責任を取ってくれるってことかしら?」


「こっちの事情で逃げるわけにいけないんですよね…」


「事情ねぇ……」


彼女は、首をかしげ不思議そうにこちらを見ている。無理はないだろう。普通この場合逃げるが勝ちであるのだから。


「まあいいわ、それじゃ何をしてもらおうかしら?」


「実現できる範囲にして欲しいです……」


彼女が考えて数分後、電車は駅についた。


「そうね、いい事思いついたわ!あなた私とデートしなさい」


「はぃっ⁈」


「責任がとれる範囲よね。まさか、前言撤回なんてしないわよね?」


小悪魔的な笑みでこちらを威圧してくる。断るにも断れない雰囲気である。


「ぐっ…君は学校に行かなくても、これから僕は学校に行くんだけど…」


「君じゃないわ。私は統御愛花。さっき思いっきりあのバカが叫んだでしょ」


なぜ、巽のせいで僕がこんな重大な責任を…そう考えたがもうあと戻りはできなかった。


「わかったよ、愛花さん。一緒に行けばばいいんだよね」


「愛花でいいわよ。あなた名前は?」


風堂霧峰(ふうどう きりみね)。僕は呼び捨てしませんよ。初対面ですし……」


「別に私に敬語なんか使わなくていいし、呼び捨てでも構わないけど。まぁ、早く電車を降りましょう」


彼女が無理やり腕を引っ張り、半ば強制的に駅のホームに降ろされた。その数秒後、電車の扉はしまり発進した。


「あっ!そういえば巽大丈夫かな…」


「あんなやつ、放っておけばいいのよ。さぁ、いきましょう霧峰。エスコートは紳士の役目よ。」


彼女はそう言いながら、歩き出していた。


『本当にこれでよかったのだろうか?』


僕は少し悩んだ。だがもう電車は行ってしまった。後ろ髪がひかれる思いではあるが、今さらどうこうすることはできない。


「遅いわよ、霧峰。もっと早く歩きなさい。6時までしか時間がないのだから」


まあ、いっか。こんな日があっても。そう僕は自分に言い聞かせ、彼女の後を追いかけるように歩き始めた。


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