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砂漠の中を物凄いスピードで走り抜けるダチョウもどき。その背中にいるのは灰髪の老人と謎の褐色肌男、そして異世界からきたおれ。
「ふぅ、なんとか脱出できたな」
追手が来れない距離まで移動出来た事で安堵の声を漏らしたのは先程おれを広場から逃がしてくれた男だ。
ずっと身にまとっていたボロを剥ぎ取った。フードの中から出てきたのは眩いまでの金髪と同じ色の瞳。健康的に焼けた褐色の肌。
そして、奇麗に纏まった顔。自分と比べるまでも無く、圧倒されてしまうほど美形だった。
「あ?何見てんだよ。いくらおれがかっこいいからってそっちの趣味はねーぞ?」
そして、ナルシストだ。おれも断じてそんな嗜好はない。ただこの世界に来てから初めて会った普通の人間が、あまりに日本人離れした容姿だったから見入ってしまっただけだ。
同じ意味で、隣の老人も注視してしまう。彼は一見するとただのか弱いご老人にしか見えない。
しかし、深く刻まれた皺の奥に鈍く光る隻眼がただの老人ではない事を物語っていた。
「えーっと、さっきは助けてくれてどうもありがとう?」
「なんで疑問形なんだよ」
いやだって、本当に助けてくれたのか、これで良かったのか今のおれには判断出来かねる。
「まぁいい。もう少しでアルバートに着く。それまでに飯食いな」
そういって男がくれたのはフランスパンのように固いパンでとてもパサパサしていたけれど腹が減っていたおれは物凄いスピードで平らげた。
「御馳走様でした」
「鈍臭い上に食いしんぼうかよ……」
一瞬でパンを食べ終えたおれを見て男が呆れた様子で鼻で笑った。どうやら初対面の人間に意地汚い野郎だと勘違いされてしまったようだが仕方がない。これがもし可愛らしい美少女や可憐な美女だったらショックで立ち直れないかもしれないが所詮いくら顔が良くても男である。どうということはない。
そんな事よりも今重要なのはこの世界で唯一話が通じたこの男から色々な情報を聞き出す事である。ここは一体何処なのか、どうみても日本人じゃないのにどうしてこの男は日本語が喋れるのか。
そして、一番気になっているのはおれは無事に日本へ帰れるのかという事である。
「あの……」
「なんだ?小便なら外に向かってしろ。間違っても頭の近くでやるんじゃねーぞ」
言われなくてもわざわざ風上でするはずがない。出来るならお通じの時ぐらいは止まって欲しい。走っているダチョウもどきの上で小便をするなんていう器用な事が出来る自信はない。いや、そんな事今はどうでもいい。後々、深刻な問題になると思うがそれはその時に交渉するとして……。
「質問したい事が山ほどあるんですが」
「面倒くせぇから後にしろよ」
「そこをなんとか」
「アルバートに着くまで静かにしてたら美女の元に連れてってやる」
「承知致しました!」
「……切り替え早ぇなオイ」
正座して待機をするおれを見て再び呆れた目を向けられたが仕方がない。幼馴染と別れて以来、おれは女の子を見ていない。このままでは男としての何かを失う気がする。
「あ、ところで美女って下半身がトカゲだったり首がうにょ~んと伸びたりしませんよね?」
「安心しろ。人間だ。黒髪に新緑色の瞳を持つ美人三姉妹の長女だ」
「いやっほ――――――い!!」
静かにしろと言われていたのを忘れておれは雄叫びを上げた。今度は男だけでなく、石のように固く身動き一つしなかった老人までもが溜息を吐いたが気のせいだということにしよう。