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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

グラナデーロの子守犬

作者: きらと
掲載日:2026/02/08

 穏やかな日差しの中、椅子に座り、足元の子供たちに絵本を読み聞かせている中年男性がいた。

 一瞬、男性の視線が鋭くなった。

 窓を震わせる振動の後、遅れて爆発音が聞こえた。

「アカの屑どもが……」

 罵り声は口の中に消え、子供たちに優しく絵本の続きを読み聞かせた。

 1986年、中米グラナデーロ。スペイン統治を経て、米国資本の流入で影響下にあり1900年代に独立したが共産陣営からの間接侵略を受けて、自由主義陣営の砦として戦時下にあった。

 ラジオで大統領の演説が聴こえる。都市部だけではなく地方改革と解放を唱えている。

 この国は軍人出身のロペス大統領の強権政治で民政は安定しているが、未だ治安を脅かす共産ゲリラのテロが横行しているのが懸念材料だった。

「ガルシア先生、フェルナンデスさんがいらっしゃいました」

 スタッフの女性が声をかけてきた。

 首都サンタ・パタタの南、ペロ・ポドリードの街。

 ミゲル・ガルシアは敬虔なカトリック教徒で孤児院「カーサ・デ・パス」を営んでいた。

 絵本から視線を上げると、敷地に埃を被ったジャガーMk2が入って来るのが見えた。

 年少組に抱っこをせがまれたが、謝ってスタッフに後を引き継ぎ、応対に向かう。

「よおミゲル。儲かってるか」

 小学校以来の親友であるフェルナンデスがやってきた。フェルナンデスはこのご時世に書店を経営してる道楽家だ。

「うちは孤児院だ。お前の本屋とは違うぞ。何しに来たんだ」

 エル・クーロ・デル・セルドと言う店名を思い出してガルシアは笑った。

 出してやったアグア・デ・パネラを飲みながらフェルナンデスはぼやいた。

「ロドリゲスさ。あいつには金を貸してたのに」

 行方不明でゲリラに攫われたと言われる友人ロドリゲスの件だ。ロドリゲスも同級生で、銀行に勤めていた。だが羽振りの良い奴ではなかった。いつも友人に金を借りていた。

 言葉に出さないガルシアの胸の内を読んだように、コップを机に置いてフェルナンデスは言い切った。

「あいつは逃げるような奴じゃない」

「それはそうだが」

 エクスピデーラ県では多くの行方不明者が出ているという事実がある。

「なあ、ロドリゲスを探してくれないか」

 ガルシアは身長180cm、体重90kg。ノースカロライナ州の米陸軍軍事援助研究所で研修を受け、パナマの米陸軍米州学校で教育終了し、12年間憲兵隊で所属した元陸軍大尉で戦闘経験もあり、米国からも勲章を叙勲されている事情通でもあった。

 フェルナンデスから提示された報酬は、孤児院の子どもたちに、たまには菓子を買ってやれる金額だった。

「金を貸してるのに探してやるなんて、お前、良いのか?」

「あいつも友達だしな」

 フェルナンデスは呼吸音で笑った。

 ガルシアは憲兵の伝をたどり、エクスピデーラ県について情報を集めた。

 レイ・イ・オルデン通りにある憲兵隊司令部。そこに元部下のマルティン中尉が勤めている。

 ガルシアが訪れると、マルティン中尉はコーヒーを出して再会を歓迎してくれた。

「ガルシア大尉、貴方も奇特な方ですね。私が言っては何ですが、あそこはゲリラの支配地域で物騒ですよ」

 ガルシアはコーヒーを口に含み、穏やかな笑みを見せた。

「今度、あっちの子供たちも集めたいと思ってね」

 ある意味では嘘ではない。困窮している子供たちがいて、手を差し伸べる事が出来るなら力になりたいと思っている。

 孤児院経営者と言う表の顔が役に立つ。

「何か面白い話はあるかい」

 地元住民からは与太話から何でも聞いて回った。小銭を渡すやり方ではなく、落花生をつまんだり煙草を吸いながら相手にも勧めたり、コーヒーを飲みながらの雑談がコツだった。

 ソ連のヤンキー型原潜がカリブ海を遊弋している。ゲリラは武器と麻薬を交換している。そう言った雑多な情報を拾い集めている内に、繋がる物があるはずだと経験則が言っていた。

 ボルボ240を走らせたガルシア。県境を越えて南に伸びる、舗装のない山間部のラドロン・イ・アセシノ街道。途中で木に吊るされた死体や路肩に転がる死体が視界の端を掠めた。

 昼過ぎ、トヨタブリスカが行く手を塞いだ。

 ドアに手を滑らせて、ガーバーA-325ゲーム&フィッシュを掴むガルシア。

 ブリスカから降りてくる民兵。三人居た。装備は56式自動歩槍だと一目で理解できた。

 通行料目当てか、あるいは労働力目当ての襲撃か。ガルシアは怯えた表情を浮かべ演じながら相手の出方を伺う。

 銃口で運転席側の窓を降ろせと合図する民兵。窓を降ろすガルシア。

 後部座席を覗き、一人である事を確認する民兵。

「一人だな。トランクを開けてくれ」

 トランクには孤児院の活動を乗せたチラシの束しか入ってない。

「何もないな。孤児院の寄付募りか?」

 トランクを確認しチラシを戻す。

「ええ、子供たちには安心できる安全な未来が必要ですので」

 大人だけではなく、子供も行方不明になっている状況を考えたら痛烈な皮肉だ。相手に皮肉を皮肉として理解出来る頭があればだが。

 民兵たちが集まって相談し始めた。

 金のない孤児院経営者だと見たのだろう。殺して車を奪う。捕まえて労働力にする。どちらかだと考えられた。

 ちらりとこちらを見た。彼らの値踏みしていた視線の色が変わっている。ひりつく空気感。殺る気だと肌で感じられた。

 口元に笑みを浮かべ銃口を向けて近づいてきた。

 足を踏み込み距離を詰めると、小銃の被筒覆いを抑えて銃口を下げさせて、下顎にブレードを刺して喉頭を切裂いた。覆い被さる様に倒れてきた死体を抱える。

「おい、どうした」

 他の民兵が、仲間の様子に近付いてくる。

 倒した敵の手から小銃を奪い、横薙ぎに掃射した。

 7.62mm弾が腹部を貫き全員を倒した。

 行動の妨げとなり、どうしても避けられない脅威は排除する。それがガルシアの原理原則だ。

 子供たちのあどけない笑顔が脳裏に浮かんだ。

「すまんな」

 その場に崩れて呻く彼らの延髄をブレードで抉りとどめを刺すと、ブリスカに遺体を乗せて路肩の茂みに車ごと隠蔽した。血痕は木の枝で払った。

 神は許してくれるかと考える事は止めた。小銃と弾や使えそうな装備を集めてトランクに入れた。

 思ったよりも疲労する作業で呼吸が乱れ、深呼吸した。

 今回の依頼は人探し。誰かを殺す予定でなかった。

 眉間に皺を寄せると、血と硝煙の香りを帯びたままボルボを再び走らせる。




 エクスピデーラ県北端の町、ボテ・デ・バスラ。

 ガルシアは古びたモーテル「グアリーダ・デ・ラドローネス」に車を停めた。

 駐車場に停車している車は多くない

 先に停めてあったシボレー・シェヴェットからメスティソの青年が降りて近付いてくる。鍛えられた体格、油断の無い目配り。互いに視線で待ち人だと理解した。

「ガルシア大尉?」

「元ですよ」

 マルティン中尉の紹介してくれた地元憲兵のサンチェス伍長だ。

 助手席に座り、地図を広げるサンチェス。

 話せる範囲で、ゲリラの活動地域と最近の死体発見地点を共有する。出世や収賄目的の裏切りではない。個人の信念による協力だった。

「ベースボールか」

「これは護身用です」

 M67破片手榴弾を2個渡された。

 ゲリラに囲まれそうなら投げて逃げろとの忠告だが、ガルシアはありがとうと受け取り警告は暗に流した。

 情報を整理する。ロドリゲスの銀行内での役職はビジネスバンカーで、顧客訪問を行なっていた。

 町外れの整備工場が最後に目撃された場所とされる。

 夕暮れ、日が沈み始めた薄暮の時間、ガルシアはパタス・デ・セルド整備工場に徒歩で向かった。

 コゴメミズやポトス、アリタソウの生い茂る丘の上から、敷地を観察した。

 車両三台分の建物、1000スクエアフィート超えだが、既に国家警察と憲兵が捜査を終えているとの事で、もぬけの殻。人の気配は無い。

 敷地の外れに転がるドラム缶が気になった。

 ゲリラ愛用の7.62×39mm弾の弾痕があった。射的の的にしたのだろう。

 自衛の射撃訓練と言うより、ゲリラの拠点であったと言う方が腑に落ちる。

 ロドリゲスの継続的信用管理の業務から、融資を本来の事業目的以外に流用していたコミットメント違反が発覚し、融資の即時引き揚げ前に事実確認に来た等のトラブルも考えられた。

「何れにしてもきな臭いな」

 ガルシアは敷地の端にあるアリタソウの群生に違和感を覚えた。

 他よりも異常に丈が高く色が濃い。それは、その下の土壌に過剰な水分、あるいは有機的な何かが供給されている証拠だった。

 草をかき分けると、錆びた鋼板が土に半ば埋まっている。

 かつての廃油貯蔵タンクの点検口だ。カビと腐敗臭の漂う空間が広がっていた。

 国家警察と憲兵隊は建造物と敷地を全て調べたが、ゲリラは崩落した隔壁の先にある古い排水路を巣として再利用してた。

 R-107、ソ連製の短距離通信用HF無線機の残骸が転がっていた。

 使用済みの包帯とアンピシリン、アモキシシリン等の空き瓶もあった。キーロフ医薬工場と書いてあった。

 ガルシアは小銃の弾薬箱の上に放置された一枚の、銀行の振込依頼書の控えを見つけた。

 依頼書にはエクスピデーラ県にあるコーヒー農園、パパーダの名前が記されている。

 ロドリゲスはパパーダ農園が、この整備工場と同じでゲリラ拠点の隠れ蓑であると判断した。

 サンチェス伍長に情報共有した。それが筋だからだ。

 近くの公衆電話から、地下で確認した痕跡を報告した。

「ロドリゲスを探しに農園に行ってみるつもりだ」

 敵の拠点であった場合、最悪戦闘が発生するのは間違い無い。

 そうなれば脱出で手一杯になるので、後始末を依頼した。

「了解。お気をつけて」

 ガルシアはボルボを走らせる。

 農園は整備工場から二時間程の距離だ。

 ホウオウボクが色鮮やかに花を咲かせており、何もなければ子供たちをドライブに誘いたい景色だ。

 ガルシアは自嘲した。感傷に浸るのは全て終わってからだ。

 残り3マイル。農園に近付くと街道を離れ、林道に入り車を停めた。

 ゲリラ相手だ。血の予感がした。

 顔にドーランを塗り偽装すると、トランクから小銃を取り出し、民兵から剥いだチェストリグ、水筒2個と弾納の着いた弾帯を身に着け装備を整える。

 今回は現役時代のチームと違ってフラググレネードは2個だけ、WPグレネードとクレイモアを携行して無い。

 街道を望みながら道外れを進んだ。

 道路に線が張ってあって、NSV重機関銃が狙っていた。

 12.7x108mm弾で撃たれた場合、首から上は木っ端微塵に砕け散る。

 弾丸が叩く音が聴こえた。ゲリラに非協力的な住民が撃たれていた。一度撃ち始めると止まらない。 

 ガルシアは迂回して銃座背後に周った。

 昔なら無い少しの躊躇いがあった。迷いは一瞬だけで、敵に気取られなかった。

 用足しで弾薬手が一人なった所を狙い、左手で口を抑えて右肩甲骨の下から内側に肝臓を刺突。

 膝から崩れ落ちる敵兵を残して、続いて射手を押し倒す様に、左肺に向かって下から上に刺突して制圧した。

 もがいていたが血の臭気が濃くなると共に静かになった。

 ガルシアは息を吐く。これだけで緊張した。

 リタイアした時間を感じた。

 銃座にはさすがに地図、通信記録は無いが、転がる住民の死体と東側の重機関銃だけでも、共産ゲリラの物的証拠にはなっている。

 住民から略奪したのであろう。腕に巻かれたロレックスの時計はそのままに、死体をうつ伏せにして、相手の67式柄付手榴弾を利用して罠を仕掛けておいた。訓練任務の様だった。

 懐かしの45口径とブローニングがあった。装弾数7発のコルトより、9mmだが装弾数の多いブローニング・ハイパワーを回収した。

 スタッキングするチームもいない。一人だけの戦いだった。

 敵の交代が来る前に終わらせたい。農園に捕らえられているならロドリゲスを確認し、救出したかった。

 斜面を登る脚力は衰えていないが、額を汗が伝う。顔に塗ったドーランに痒みを覚えた。

 敵のISR能力を警戒しながら、高所OPに当たる農園背後の山に尾根巻きのルートで登り偵察を行った。

 シェードツリーのバナナ、アボカドの木が並ぶ尾根から農園を見下ろすと、ガルシアは地形と警備配置を記憶する。

 ガルシアの視線が鋭くなる。偽装網の下にZU-23-2対空機関砲や機関銃、迫撃砲の射撃陣地が構築されていた。

 連中の支配地域と言う事で、空気に張り詰めた物はない。

 外国人顧問らしい姿が見える。刺繍を施された開襟シャツのグアヤベラにストローハット。

 典型的キューバ人だなとガルシアは口元を歪めた。

 歩哨以外が寝静まり、夜が更けるのを待った。

 現地時間0300時。雨が降って来た。雨音が動きを隠してくれる。

 ガルシアは農園に続く用水路から匍匐しながら潜入した。

 水路は死角になりやすいので、ゲリラの歩哨を一人ずつ無音で排除し、物陰に隠した。

 円を描くように身体の露出面積を減らし視界を広げながら奥に進むと、資材置き場の影、6フィート四方の檻の中に、ロドリゲスと思しき人物を確認した。

「よお。生きてるか」

 様子は軽傷、栄養失調だ。

「はは。お前が来てくれるとはな。キスしてやりたいぜ」

 軽口を叩く余裕はあった。握った手の握力は弱いが熱い。

「それは御免だな」

 拘束のロープを切った。ロドリゲスに目配せをして背負った。

「ありがとう」

「礼は早いぞ」

 歩哨が巡回している。低姿勢で息を潜め様子を窺った。

 二名、雑談しながら近づいて来ていた。

 隠れる場所は無い。

 神には後で幾らでも祈ろう。

 前方盲点を利用してダッシュで接近。ガルシアは、左手で敵の右肩を掴み、頭部を後方へ強引に引き倒した。

 同時にナイフのブレードを敵の右頸動脈下に突き刺し、左から右に鋸挽きで無力化した。

 異変に気づいたもう一人の顎を左手で固定、刃を左側頭部へ刺突し捻り、脳幹破壊した。

 しかし敵は反射的に小銃の引金を絞り、銃声が響いた。

 昔ならそんな隙を与えなかった。

 こうなると騒音回避も隠蔽も関係無い。敵が起床して農園全体が警戒に入った。

 兵舎化した家屋から出てくる敵兵を確認し、ガルシアはM67破片手榴弾を投擲した。破片が数名を餌食にして、敵の足止めになった。

「バレたら仕方がない。逃げるぞ」

 ロドリゲスにウィンクし背負い直すと、山中に向かって走り出した。

「家に帰ろう」

 そう言いながらガルシアの脳裏を過ぎるのは、子供たちとの穏やかな日常だった。

 全く正反対な現状に呼吸音で笑った。




 農園を脱出し、夜明けが近づいている。ガルシアとロドリゲスは谷間で包囲されていた。

 ガルシアが基礎訓練を受けたのは20歳の頃。朝起きて、7マイルを毎日走っていた頃とは体力も違う。

 プロは相手が素人ではなくプロの場合、動きを読める。敵は軍事顧問に指導されているのか、追跡の動きは俊敏だった。

 此方の位置は犬の追跡で把握されており身動きが取れない。

 交互躍進で地形地物を利用して回り込んで来る敵の動きを牽制すべく、倒木の陰から射撃を浴びせた。

 斜面を転がり落ちる敵が何人か見えた。

 暫くは時間を稼げたが、この場所でいつまでも持ち堪えられない事も理解していた。

 凝り固まる思考を柔軟にすべく、これまでの事情の確認をした。

「で、お前、何だってゲリラに捕まってたんだ。何をやってたんだ」

 苦痛と疲労の色を顔に浮かべながらロドリゲスは答える。

「銀行ってのは、貸した後の資金使途の事後確認で現場訪問と面談をするのも仕事の内さ」

「行先ぐらい共有してないのか」

「したさ。上司に訪問先は伝えたよ」

 そもそも、真っ当なコーヒー農園がゲリラの勢力圏で商売し続けれる訳がなかった。

 指摘するとロドリゲスは目を丸くしていた。 大切な所の確認で抜けていた。

「それで拉致されてたら命が幾つあっても足りないな」

 当然、融資は無しだと笑った。

「お前に借りだ」

 感謝を握手で表現しようと差し出して来るが、ガルシアは苦笑して断った。

「礼は本屋に言え」

「ああ。二人とも一杯奢るよ」

 手を引っ込めるとロドリゲスは頷いた。

「うちの子供たちに菓子を奢る事で手を打とう」

 ロドリゲスは疲労からそのまま気絶する様に眠った。

 ガルシアは小銃の弾倉を交換する。弾薬の残数は僅かだった。

 ナイフも連続使用で刃こぼれしている。使える手持ちの道具が少ない。

 ふと空を見上げると、米軍のOV-10ブロンコが頭上を通過した。

 一抹の希望が浮かんだ。賭けだが確率は高い。

 肩には子供の頃から自信がある。岩陰の敵に向かって残りの手榴弾を投擲した。

 爆発と同時に、再びロドリゲスを背負い斜面を滑る様に走った。

 敵の銃撃が木々に当たり音を立てている。

 頭上のOV-10は旋回していた。

 ガルシアは笑みを深めた。

 0を百倍にしても0だが、生存確率は0では無かった。

 最悪の結末は訪れなかった。尾根の向こうから爆装した国軍のF-5戦闘機が飛来し、敵の頭上にナパーム弾を降らした。

 続けて米式訓練を受けた国軍の即応部隊である軽歩兵大隊がヘリボーンで進入して来た。

 タッチアンドゴーで展開する兵士たちの動きは機敏だ。

 UH-1ガンシップによる70mmロケット弾とM60による機銃掃射、迫撃砲による火力支援が仕上げをして行く。

 包囲が完全に崩れた。ガルシアはゲリラの混乱に乗じて脱出した。

「全て終わった」

「ああ」

 ロドリゲスは口を開いた。

「俺も銀行も利用されていたんだ」

 結論から言えば、ゲリラのシンパが銀行内に居て、迂回融資を進めていた。転貸資金だった。

 社会主義革命が起こり共産政権が設立するなら、貸倒れの損失になる事は無かった。

「俺には関係無いけど、そう言うのは協力者が一人、二人居ただけで出来る事なのか」

 表情を歪めるロドリゲス。思い当たる節がある反応だ。

「組織ぐるみだと?」

「さあな。俺には分からん。それこそお前の仕事だろう」

 そう言ってガルシアは笑った。

 視線の先で、ヘリボーンに連動して包囲を完成させるべく、車列を列ねて街道を走って来る国軍の地上部隊が見えた。




 国軍に保護された後、アンビでロドリゲスは治療を受けている。

 顔見知りの米軍顧問と再会した。

 握手をした後、軽く質問された。

「ガルシア大尉、今回も悪運強く生き延びたな。所で連中の装備を確認したか?」

「ええ。中国とソ連製はうんざりするほどありましたよ。下着はキューバ製かもしれませんが」

「なるほど。ここでもアカの援助が浸透して来てると言うわけだ。ご苦労だった。友達と一緒に送るぞ」

 差し出されたマールボロから一本を抜き取り一服する。

 子供たちの前では吸わない。久しぶりの煙草だ。脳が揺れた。

 天幕の外で部隊が休憩を取っている。負傷兵を載せたUH-1が離陸する。

 国軍による制圧作戦は成功裏に終わった。

 パパーダ農園は共産ゲリラの前進基地として公式に発表され、押収物資と死体は証拠写真と共に列挙された。

 ガルシアは、あくまで行方不明者捜索中に偶発的に救出された民間協力者扱いだが、孤児院に対する支援と税制面の優遇が約束された。

 米軍顧問は根回しをしてくれた。余計な調査が、憲兵時代の過去を突かれる事になるという合理的判断だった。

 途中の殺人行為も、国軍の殺害戦果に統合され、ガルシアの行動は公式記録に残らない。暗黙の了解だった。

 ロドリゲスは回復後、首都の銀行勤めに戻った。

 銀行では内部調査が始まる。

 融資判断は形式上問題ない。シンパは数名の行員に集約され、組織的関与の証拠は未だ見つかっていない。

 行員の何人かは連絡が取れず、行方不明になっている。口封じか逃走か、あるいは誘拐の被害か。ガルシアにはもう関係がない。

 フェルナンデスはロドリゲスを誘い、ガルシアと三人で酒を飲んだ。

 彼は聞かない。どうやって助けたのか。誰かを殺したのか。

 代わりに言う。

「子供たちに、これを」

 箱一杯の菓子と新しい絵本。

 そしてガルシアは孤児院に戻り、いつもの椅子で絵本を読む。

 外では国軍のトラックが通り過ぎ、ラジオでは大統領が治安回復宣言をしている。

 ガルシアの守るべきものは、目の前にいる子供たちの笑顔だ。

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