インスタントラブコメ
「カップ麺、落としたよ」
スーパーでの買い物帰り、背後から声をかけられて――――振り向いた先に居たのは、黒髪ロングの美少女。クラスメイトの黒川さんだった。
「あ、ありがとう、黒川さんも買い物?」
制服姿に買い物袋……なんだろう、普段とのギャップでめちゃめちゃ可愛い。
「うん、もしかして大神くん、いつもカップ麺食べてるの?」
「あ、ああ、俺一人暮らしだしバイト掛け持ちしてるから作ってる時間勿体なくて……」
あああ、何余計な情報ペラペラと、きっとドン引きされて――――
「私が作ってあげようか?」
「……へ?」
これは……夢か? あの俺の中でお嫁さんにしたい学年一位の黒川さんが俺の部屋にいる……だと!?
「台所借りるね」
どこから取り出したのか、シマエナガ柄の可愛いエプロンを装着し、手慣れた手つきで冷蔵庫を開ける。
「うわあ……見事に何もないね、あ、卵使って良い?」
「え? あ、うん」
黒川さんは、自分の買い物袋からブロッコリー、ほうれん草、カットキャベツを取り出してレンジで温めながら、もやし、にんじん、玉ねぎをフライパンで軽く炒め、トントン、ザクザク、トマト、パプリカを手際よくカットする。
「野菜はね、ビタミン、ミネラル、食物繊維を補うだけじゃなくて、カリウムが塩分排出を助けてくれるから、むくみ対策にも良いんだよ」
「へ、へえ……」
「あ、大神くん納豆は大丈夫?」
「ああ、大好きだよ」
「良かった、私も好き」
なんだかドキドキする、納豆のことだってわかっているけど。
「お肉無いんだけど、豆腐、卵、納豆でしっかりタンパク質摂って、栄養強化しつつ満足感もアップしちゃうよ」
すごい、黒川さんはまるで魔法使いみたいだ……食材が喜んでいるのがわかる……気がする。
「海藻はね、低カロリーでミネラル豊富なの、腸活にも役立つし、食感も楽しめるから」
俺は黒川さんの手料理っていうだけで健康になれそうだよ……。
「仕上げのデザートは、バナナ、キウイにリンゴ、これもカリウム補給できるから塩分排出を促進してくれるんだよ、いつもカップ麺ばかりじゃ塩分過多になっちゃうからね、はい、完成、どうぞ召し上がれ」
こんなの見たことない……
どこまでも栄養バランスを考えられた――――
カップ麺。
いや、野菜は良いんだ、量は異常だけど、カップからこぼれているけどそれはいい、卵、納豆、豆腐もカップ麺のスープとの相性は悪くない。あふれているし、こぼれているけど、些細なことだ。
でもさ、デザートのフルーツは別にして欲しかったかな。
いや、別に文句付けてるわけじゃないんだ、でも、ほら……あふれているし、こぼれてるから。
「ふふ、どう、美味しい?」
「最高だよ黒川さん」
「良かった、誰かに作ってあげるなんて初めてだったから緊張しちゃった」
は、初めての手料理……!!
「黒川さんって、料理凄いんだね」
色んな意味で……。
「本当!? それじゃあ……また作ってあげる!! カップ麺」
「え? 良いの?」
出来ればカップ麺以外も食べてみたいなあ……なんて言ったら贅沢だよな。
「もちろん、家が近いのもびっくりだし、実は私も一人暮らしなんだよね、あ、これ秘密だからね?」
二人の秘密!! なんて甘美な響き……。
「黒川さんちって近くなんだ?」
「近くっていうか……一つ上の階だけどね」
マジかよ、全然気づかなかった……。
「と、とりあえずさ、大きめのどんぶり買っとくよ」
せっかく作ってもらったのにこぼしちゃ悪いし。
「あはは、なにそれうける」
実は黒川さんと俺、子どものころ出会っていて、海外赴任している互いの親が再婚相手で、一緒に暮らし始めることになるなんて――――その時はまだ、知る由もなかったんだ。




