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白き目覚め  作者: バトレボ
第四章 死知る時、生駆け出す
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路地の手前で

よろしくお願いします

 休日。貫志と蔦乃は街へ出た。朝の通りはまだ人が少なく、パン屋の袋からあたたかい匂いがもれた。二人は買い物メモを折りたたみ、店ごとに必要なものだけを手早く選んでいく。


 塩、茶葉、包帯、乾いた布

——暮らしの数を数えるみたいに、指が動く。蔦乃は品物を指で確かめ、貫志は袋の口を押さえる。会話は短く、歩調はそろっていた。


「こうやって並んで歩くの、久しぶりですね」


「試験で詰めてたからな。今日は、必要なものを買って、うまい飯を食べる。それだけでいい」


 蔦乃が笑ってうなずく。角を曲がるたび、店先の色が変わる。賑やかすぎない休日は、二人にとってちょうどいい。細い路地から風が吹き、貫志の髪の白がひと筋だけ揺れた。


 ふと視線の先、通りの向こうで制服の胸元に白い紐を飾った生徒たちが固まっているのが見えた。周りには、同じ制服の三人。肩をすぼめ、足を止めている。


「あれは白綴の……蔦乃、見えるか」


「ええ。あまり雰囲気はよくないですね。囲まれてます」


 遠くても分かった。相手は声を張らない。代わりに、間を詰めて逃げ道を狭くする。白を名乗る派の、よくあるやり方だ。貫志は袋を持ち直し、蔦乃と視線を合わせる。


「ついていこう。離れすぎず、近づきすぎず」


「はい。荷物、分けます?」


「重いのは俺が持つ。手が空く方が、動ける」


 蔦乃はうなずき、軽い袋だけ肩に掛けた。二人は人の列にまぎれ、歩幅を少しずつ合わせて、あの五人のあとを追う。無理に追い越さない。角ごとに、立ち止まるふりをして距離を量る。


「貫志さん、あの三人強張ってます。押されればすぐ転びます」


「見えた。だから押させない。まず止める」


「声は私が先に出します?」


「いや、最初は俺が言う。君は横で囲まれてる人へ呼びかけて。前をふさがないように」


 短く決める。言い合いになれば長くなる。長くなれば、相手の都合のいい場所へ連れていかれる。そうなる前に、やることを少しずつ外に出す。


 人通りの多い通りから一本外れた道へ、白の派の生徒は三人を押すでも引くでもなく、会話だけで連れていく。笑っているが、目は笑っていない。角ごとに周りを見て、人気の薄い方を選ぶ。貫志と蔦乃は距離を保ち、曲がるたびに物陰へ身を寄せてやりすごした。袋がぶつからないよう、腕の高さを変える。


「この先、細い道が続きます。開けた場所は……あまりない」


「路地に入ったら、声をかける。先に止めて、広い所に戻す」


「分かりました」


 パンの袋が邪魔にならないよう、貫志はそれを蔦乃へ渡し、空いた手でもう一つの袋を高く持ち上げた。いつでも置けるように。蔦乃は自分の袋の口を固く結び、片方の手を自由にする。


 三人はさらに狭い道へ吸い込まれていく。高い塀、低い窓、濡れた石。足音がまとまって、少し響く。昼のあかるさが薄れ、話し声の輪郭だけが強くなる。


「先輩」


 蔦乃が囁く。貫志は小さくうなずくだけで、視線は先の五人から外さない。背の高い塀が両側に迫り、戻る道が一本ずつ消えていく。白の派の一人が、後ろを気にするように一度だけ振り返ったが、すぐに笑顔を作って前を向いた。


「ここから、声が響きます。人の気配は薄いです」


「だからこそ、短く。長く言えば、隙ができる」


 路地のいちばん奥で、白の派の一人が振り返った。そこにはもう、通りへ戻るまっすぐな道はない。塀に囲まれた小さな空間。地面は湿っていて、靴の底がわずかに吸い付く。白い紐の生徒は笑いを保ったまま、声だけ柔らかくした。


「ちょっとだけ話そうよ。すぐ済むから」


 声は甘いが、出口に背を向けさせる位置取りだ。三人の肩が、さらにすぼむ。返事をさせる前に囲みを固めたいのが見えた。貫志は、その一歩分の時間を切ることに決める。


「そこで何をしている」


 袋を地面へ置き、前へ出る。声は大きくない。けれど、この狭さではよく通る。塀に当たって返ってきた響きが、相手の肩をかすかに揺らした。蔦乃も半歩、横に並ぶ。



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