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白き目覚め  作者: バトレボ
第一章 白き目覚め
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白蛇さま

目を開けると、空が見えた。

茜色の空。鳥の声。遠くで誰かの呼ぶ声。


でもそれよりも、先に心に浮かんだのは――

白い光だった。



あれは、夢だったのかもしれない。

けれど、目の前に確かにいた。


霧の中、恐ろしい獣が現れて、動けなくなったわたしの前に――

音もなく滑るように現れた、白く長い、静かな“なにか”。


あの蛇は、私を見た。

本当に、見てくれていた。


逃げようとしていた体を包むように、あの白い体が駆け、獣と戦った。


怖かった。でも、もっと怖かったのは、あの蛇が負けることだった。



わたしは、呼んだ。


「しろへびさま」


そう声に出した。言葉になった瞬間、なにかが変わった気がした。


あの白い姿が、まばゆくなった。


**


目が覚めたとき、祠のそばでわたしは倒れていた。


少し離れた場所に、黒い大きな影が横たわっていたけれど、もう動かなかった。

その横には、誰もいなかった。



村に戻ると、みんなが泣いて迎えてくれた。


でも、私はそれよりも早く、こう言った。


「しろへびさまが……たすけてくれたの」


それを聞いて、大人たちは最初、ぽかんとしていた。

けれど、長老のサダが静かに立ち上がり、焚き火の前に手を合わせた。


「……白蛇さまに、感謝せねばならんな」


それが、すべての始まりだった。



わたしは、何度も語った。


何度も、何度も、火のそばで、川のほとりで、畑の休憩で。


「霧のなかで、白蛇さまがわたしを包んでくれた」

「黒い大きな怪物と戦って、かならず勝ってくれた」

「そして何も言わず、静かに山へ帰っていった」


子どもたちは目を輝かせ、大人たちは深く頷いた。


その夜から、祠の前に置かれる供物の数が、増えた。

祈りの言葉が形になり、白い小さな石像が彫られ、

ついに村の中央に、**“白蛇社”**が建てられた。



誰もが、言うようになった。


「白蛇さまは、この山の守り神」

「祈れば病を退け、獣から救い、豊かな実りをもたらす」

「姿は見えぬが、必ず見ておられる」


それは、もう疑いようのない、**“神話”**になっていた。



けれど、わたしだけが知っている。


白蛇さまは、神様じゃない。


もっと、人間に近い。

もっと、静かで、冷たくて――でも、あたたかかった。


語られることで、白蛇さまが少しずつ“神”になっていく。

それが、どこか苦しそうだった。



だから、わたしは語る。

誇張も、装飾もなく。

白蛇さまが、静かに、ただ人を守るように生きているということを。


それだけは、間違えたくない。



やがて、私の語りは村を出て、隣の里へ、山を越えて、街へ届くことになる。

語られ、繋がれ、やがて――

世界に、“白蛇の神話”が定着していくことになる。


でも、それはまた別の話。

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