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白き目覚め  作者: バトレボ
第三章 白霧の眠り
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翡翠鈴の導き

今日もよろしくお願いします


 炎と影が交差する前線。そのただ中で、霧が唐突に裂けて細い人影が現れた。護語連広場で“語られることの恐怖”を口にした、あの少年である。頬はこわばり、瞳は獣じみた怯えに揺れているが、その奥には闇導の黒い灯が瞬いていた。


 「やめろ、ここを通してくれ!」


 掠れた叫びと同時に、少年は震える指で呪符を放つ。紫黒の鎖が霧を舐め、ヨルの足首へ伸びる――だが触れた瞬間、鎖は白銀の鱗光に弾かれ砕け散った。


 「語りは呪いだ……全部、終わらせる!」


 憎悪と恐怖の入り交じった声が怨嗟の波となり、霧ごとヨルの鼓膜を揺らす。


 「俺も怖いさ。しかし語りは縛るだけじゃない。救いも灯りも授ける」


 ヨルは刀を下げ、足首の残光が消えるのを確かめながら一歩前へ出た。距離はわずか三歩。少年の肩が震え、闇導の札が次の呪を紡ごうとする


――その前に、ヨルは刀を鞘へ納め、素手でその腕をそっと掴む。冷え切った指先からは力よりも怯えの震えが伝わってきた。


 「君は縛られているだけだ。呪いを振るう手ごと捕まえられている。選べ――語るか、語られぬままか」


 刃よりも静かな言葉が少年の胸に刺さる。紫黒の鎖が一瞬浮かび、握られた腕の震えとともに砕けた。少年の瞳に安堵とも絶望ともつかぬ涙が滲む。


 その刹那、漆黒の外套が割り込んだ。闇導兵が少年を背後へ押しやり、地面へ煙幕弾を叩きつける。濃い煙が白壁となって視界を閉ざした。ヨルは少年の手を引こうとしたが、肘鉄が割って入り、接触を断たれる。


 「君はまだ選べる!」


 届くはずもない影へ声を投げる。応えはなく、遠くで硬質な扉が閉じるような音だけが返った。


 風向きが変わり、煙幕の白がゆっくり薄れる。途端、戦場の空気を切り裂く清鈴のひと鳴り


――金の粒が弧を描き、霧の壁が花弁のように開いた。そこに立つのは白衣の少女、ユナ。その背後に翡翠の紐で鈴を下げた巫女衆が半弧をつくる。


 ユナが顎をわずかに引く。巫女の一人が袖口から光糸を引き抜き、無音の弓を放つ所作で闇導の封札を射抜いた。硝子を砕くような閃き


――札は黒炭となり、怨嗟の残響は霧ごと吸い込まれた。


 「ここより先は私たちの領域。無辜の語りを穢させません」


 柔らかながら刃を孕んだ声。闇導兵は視線を交わし、撤退符を切って三方へ散る。黒影が霧へ溶けるのを見届け、セナ隊長は追撃を断念した。


 「本来の目的を優先。隊列を立て直せ」


 炎盾が収まり、残るのは荒い呼吸と泥の匂い。ヨルは銀刃を下げたままユナへ歩み寄る。


 「助かった。しかし、君たちを危険に晒せない」


 ユナは首を振り、薄く笑った。


 「白蛇村は外を拒むのではなく“選ぶ”のです。そして、あなたの語りを村の根が聞きたがっている」


 低く鈴が揺れ、霧が呼吸するように脈動する。ヨルの胸の鈴も共鳴し、銀刃の縁に翡翠の光が宿った。胸奥で何かが静かに解錠される。


 「ならば俺は語る。道を示してくれ」


 ユナが振り返ると、巫女衆が静かに列を開き、霧の奥で古い鳥居が淡く影を結ぶ。重なる鈴音が翡翠の光を参道に縫い、足下へ道標を刻む。護衛隊は無言で装備を整え、その光の糸を追った。


 風は凪ぎ、霧だけがゆっくり流れる。白蛇の里へ


――物語の核心へと向かう静かな行進。


ヨルは一度だけ振り返り、霧の彼方に去った少年の影を思った。選択はまだ残っている。語るのか、語られぬままか


――それは、誰もが向き合う問いだった。



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