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白き目覚め  作者: バトレボ
第三章 白霧の眠り
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語る者、問う者

今回もよろしくお願いします。いつもありがとうございます。

――霧の帳の中、調査隊陣地――


 白の禁域・外域、霧の中腹に仮設された小さな野営地。その周囲に結界を張り直した調査隊は、襲撃の直後にもかかわらず慎重に態勢を整えていた。濃霧の気配が絶えず結界布を舐めるように漂い、語りの濃度は刻一刻と高まりつつある。


 隊長セナが状況を整理しながら周囲を見渡す。「損傷軽微。だが、異常干渉は続いている。待機時間は二十刻(分)以内。気を抜くな」


 ウツロは画帳に新たな影を描きつつ呟く。「妙な沈黙……嵐の前、ってやつかもね」


 リニアがヨルの肩に視線を送る。「本当に大丈夫? あの傷……再生しすぎじゃない?」


 ヨルは笑って肩をすくめた。「痛みもない。むしろ、禁域に近づくほど体が軽いんだ」


ヨルは肩を回し、刃を鞘に収めた。「禁域が呼んでる。急ごう」


 そのとき──


 その時だった。


 霧の奥、結界の境界に淡い影が浮かび上がる。


 隊員たちが即座に構えを取る中、影はゆっくりと歩み出た。白い衣、霧を裂くような細身のシルエット。柔らかい声が結界越しに届く。


 「戦いの最中、助けたのに。あまりにも物騒ね」


 その声に、ヨルがはっと振り向く。「君は……」


 白蛇の影をまとった少女が、結界の中に一歩を踏み出す。先ほどの襲撃で灯喰を焼き払った存在、霧の中の守り手――。


 「私はユナ。」



 霧の端から、あの白衣の少女が再び姿を現した。光の糸を巻きつけるように歩む姿は、どこか現実離れしている。



 そのまま霧を眺めていたユナが、ふと囁くように言った。


 「ここにいたの、ずっと」


 ヨルが息を呑む。その声に、何か懐かしい響きがあった。


 「ここは禁域のはずだが……?」


 ユナは笑った。「私たちは、ずっといたよ。ずーっと昔から……」


 「……っ!? ま、まさか……白蛇村の一族……?」


 その言葉にユナは答えず、ただ静かに微笑むだけだった。霧の中で、その姿は薄れかけた幻のように見えた。


 ヨルの鼓動が速まる。(今のは……本当に“白蛇村”の記憶なのか?)


 霧の山道は静まり返ったが、どこか遠くで鈴の音が微かに響いた。誰かの語りが重なり、先の闇を彩り始めている。



 彼女の姿に、隊員たちは警戒を緩めぬまま視線を交わした。セナが一歩前へ出る。「目的は? あなたは何者だ」


 ユナはゆっくりと目を閉じ、薄く笑った。「それを知りたいのは私の方。あなたたちを襲っていたのは、何者なの?」


 その問いに、場が一瞬、沈黙した。


 ヨルがゆっくりと彼女に向き直る。「君は……闇導を知らないのか」


 「知らないふりをする理由、あると思う?」


ユナはゆっくりと目を閉じ、薄く笑った。「それを知りたいのは私の方。あなたたちを襲っていたのは……何者なの?」


 ヨルは言葉を詰まらせるが、ふとユナの瞳に吸い込まれそうになりながら答えた。「闇導──語りを悪用し、伝承を排斥しようとする者たちだ」


ユナは静かに首を傾げ、霧の中を見やる。「そう……語りを憎む者、か」



 その瞬間、彼女の瞳がヨルの奥を覗くように深くなった。


――地下聖堂――


 少年は、失敗に終わった作戦の報告を終えたばかりだった。


 トウゲは椅子に深く腰をかけ、燭台に揺れる火を見つめている。


 「語りの糸を切られたか……あの少女、予想外だったな」


 少年は唇を噛んだまま黙っていた。トウゲはその沈黙を察し、ゆっくりと視線を向ける。


 「何を迷っている」


 「……語ることが、重いんです」少年は低く、震える声で答えた。「誰かに語られると、自分の中に“意味”が固定されていく。それが苦しくて、もう……語りたくない」


 「“語りたくない”、か。だが世界は語りで回っている。語られぬものは存在しないとさえ言われるのだぞ」


 少年は顔を伏せた。「語りが奪っていくんです……。友達も、自由も、記憶も。ヨルを見た時、少しだけ、懐かしさを感じた。けど……彼は、きっと、何も変わっていなかった」


 「だから憎むのか?」


 少年は答えなかった。


 トウゲは立ち上がり、彼の肩に手を置く。「ならば、語りを拒絶する新たな物語を創るのだ。“語り”そのものが恐れられる時代へ。我らがその火種になる」


 少年の瞳が濁る。


 その心の奥で、“語られる”ことへの憎しみと、“語ってしまう”ことへの恐怖がゆっくりと混ざり合っていった。




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