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白き目覚め  作者: バトレボ
第三章 白霧の眠り
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語られし未来の影

3章開始です。よろしくお願いします。

かつて語りと伝承の渦に呑まれた時代から、五百年の歳月が流れた。


この世界では今なお、"語られること"が現実を形作る。


かつて白蛇村と呼ばれた地――白蛇伝承が生まれた禁域は、今や誰も近づかぬ森の奥、地図にすら記されぬ土地となっている。


五百年の歳月は、白蛇伝承をも都市伝説と呼ばれるものへ変えたが、それでも禁域の輪郭をなぞる者たちの足は、決して森の奥へ踏み込まない。


伝承は、恐れとなり、尊崇となり、そして力となった。

各地では語られぬ物と呼ばれる災厄の出現が続き、そのたびに数多の村が飲み込まれ、あるいは変貌を遂げた。


こうして、人々は自らを守るために団結し、力ある語りと血統を有する者たちが中心となって築かれた五つの大きな家柄――《五大家柄》が誕生した。


炎輪えんりん家》、武勇と炎の伝承を継ぐ戦神の家。

水守みもり家》、水の加護と治癒の伝承を担う癒しの家。

風凪かざなぎ家》、風の使い手と語り部を併せ持つ、記憶の家。

影喰かげばみ家》、異形の気配を狩り、闇を払う狩人の家。

そして、白蛇村を起源に持つ、白髪の血を引く《白の一族》。


それら五大家柄を束ねるように、人々の生活を支えるために生まれた伝承対処機関――《護語連ごごれん》が成立した。


護語連は、語りによって発生する超常的災害――“語られぬ物”への対処を専門とする組織である。

だがその任務はそれだけにとどまらない。


人々の恐怖や怒り、あるいは偏見や妄想が長く語られたことで形を成した“敵対する伝承”――人を喰らう鬼、人を攫う蜘蛛、夜に泣く子をさらう老婆――そうした人々の記憶に根ざした悪しき物語が現実となった存在の封印・鎮撫・消滅もまた、護語連の重要な使命である。


これらの敵対する伝承は、地域ごとに様相を変え、人々の記憶や風土に応じてその形も力も異なる。

護語連はそれらに対応すべく、各地に拠点を置き、伝承管理士や語り部、封話師ふうわしと呼ばれる専門職を育ててきた。


語られぬ物は、百年に一度、いや百五十年に一度と頻度を変えながら、突如として現れ、大地を裂き、空を揺るがした。

その姿は山となり、湖となり、森となり、時に消え去ることで伝承として語られ続けることとなる。こうした災厄を記録し、対処し、抑えるために《護語連》は発足された。


時代はすでに、語り部が一族や家名の重みを持つ時代。

異名を継ぎ、子へと引き継ぐ者が力を持ち、伝承に依って生きる世界が常識となっていた。


けれど、そんな伝承贔屓の時代にあっても、人々は時折思い出す――

禁域のさらに奥、誰も近づかぬ森に、まだ息づく何かがあることを。

そしてそれが、語られぬ物をも語り変えた伝承――白蛇伝承であったことを。


これは、語りが歴史となった時代に、再びその根を暴かれようとする物語。



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